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優良企業の本質(3)-ピンチの中からチャンスを創り出す企業-

 コロナ禍になり、多くの企業がピンチを迎えました。企業はどのようにしてピンチから脱するべきなのでしょうか。
 実は、どんなピンチの中であってもチャンスを見出すことは可能なのです。ただし、そのためには厳しい現実を受け入れる覚悟が必要であり、現実と向き合ってこそチャンスを見出すことができます。

 ピンチの中から市場機会を創り出すためには、次のことが必要です。
(1)現実を受け入れる
 短期間で元の世界には戻らないという現実を受け入れる必要があります。
(2)自社が顧客に提供している価値を再定義する
 自社が顧客から評価されているものは何かを見直すことです。つまり自社の強みを把握することですね。
(3)市場を広く捉えて市場機会を考察する
 既存事業の市場を拡大して解釈することです。そのうえで、捨てるべき市場は捨てるのです。

 これを実践されたのが星野リゾートの星野佳路社長でした。

 未曾有のパンデミックが4.8兆円といわれた日本のインバウンド需要を消滅させました。2020年4月の訪日外国人数は2,900人であり、これは対前年比99.9%減です(※1)。もはやインバウンド需要は消滅したといってよいでしょう。
 いうまでもなく、観光業界は大ピンチであった訳ですが、この状況下でも懸命に考えて市場機会を創り出したのが星野リゾートのマイクロツーリズム戦略であったといえます。

 このマイクロツーリズム戦略とは、自宅から1~2時間の小旅行需要を取り込む戦略です。この戦略を企画し実行するにあたり、星野佳路社長は以下のように考えられました(※2)。
 まず、インバウンド需要は当面戻らない(▲4.8兆円)という厳しい現実を受け入れました。
 一方で、日本人は「海外旅行に行けない」というのも現実であり、それであれば「需要は国内旅行にシフトするはず」と考えられた訳です。
 ということは、市場として失う差分は(旅行市場27.9兆円のうち)約2兆円にすぎない。それならば、感染収束期に、いかに旅行需要を取り戻すかが勝負の分かれ目になると考えられました。そのうえで、再び感染拡大期になれば旅行需要の減少はやむなしと腹をくくられたのだと考えます。
 このマイクロツーリズム戦略の企画と実行にあたって、
  ①最初に戻るのは近場の旅行需要と想定
  ②近場の旅行はリピート率が高い
  ③3密回避、感染症対策徹底をアピールし近場旅行市場を開拓
 と考えられました。この③において星野リゾートの強みを活かせると考えられました。一方で採算をとるために、このコロナ禍で優先順位の低いサービスはやめてオペレーションの効率化を図りました。

 下図グラフは、星のや京都の稼働率データです。GO TOトラベルの施策による追い風もありましたが、星のや京都の2020年8月稼働率は90%を越えました。しかし、前年とは顧客層が大きく異なります。2019年の場合は半分がインバウンド需要だったのです。それが消滅したのですが、マイクロツーリズム需要によってインバウンド需要の消失をカバーしたといえます。

星野やグラフ

        グラフ:星のや京都の8月稼働率比較(※3)

 観光業だけでなく、飲食業などコロナ禍で厳しい業界は多数ありますが、この状況でも変化をポジティブに受け止めて新しい市場機会を創り出すことは必ずできると考えます。

※1:JTB総合研究所の公開情報より
※2:GLOBIS知見録 「【特集】withコロナの時代『観光業復活の鍵はマイクロツーリズム』〜星野リゾート代表・星野佳路」 より
※3:データは星野リゾートHP〔https://www.hoshinoresorts.com/information/release/2020/09/106281.html〕よりグラフは講師作成

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