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ネガティブな感情にならない

ネガティブな感情をコントロールする事は人生の様々な場面で役に立ちます。得をします。幕末に生きた侠客、清水の次郎長と同時代に生きた長州の思想家吉田松陰、二人の対照的ではあるが共通した考え方に注目してみます。

清水の次郎長

清水の次郎長がある時『あなたはどうしてそんなに喧嘩が強いのか? 秘訣があったら教えてほしい』と尋ねられて、

「感情が高ぶっている奴は、こちらがちょっと乱暴な言葉を口にしただけで、『なんだと、もういっぺん言ってみろ』と大声でがなりたて、顔を真っ赤にして刀に手を掛けようとする。冷静さを失っているんだ。そういう奴は気が浮ついていて下半身に力が入ってないので、簡単にやっつける事ができる。反対に強い奴は乱暴な言葉を口にしてもデンと構えている。冷静で肝が据わっている証拠だ。こういう人間は喧嘩を売っても買わないし、喧嘩も強い」

嫌な事があって機嫌が悪い時、感情が高ぶっている時、相手の何気ない一言に喧嘩腰になり、それが元で口論となり、気まずい思いをした事はないでしょうか? そういう時はあえて人に接しないようにしてみましょう。『今、自分は感情的になっている。だからこういう時に人と会ったら、些細な事で口論になるはず』と考えます。

吉田松陰

幕末長州の思想家吉田松陰のもとへ一人の武士がやってきて、こう忠告しました。『あなたは人に学問を教える教育者の立場にあるのに実に謙虚だ。もっと偉そうに振舞ってもいいと思うのだが┅』

これに対する松陰の返答はこうでした。『最近私も知ったのですが、教育は英語でエデュケーションと言うそうで、その元になるエデュケートとは本来、引き出すという意味だそうです。つまり、私は塾生たちの才能を引き出すお手伝いをしているのに過ぎないのです。そんな人間がどうして偉そうに振舞えましょう?』

実際、吉田松陰は塾生たちの前で偉そうにしたことは一切なく、塾生一人ひとりに対しても『くん』付けではなく『高杉さん』『伊藤さん』といったように『さん』付けで呼んでいたとされています。また講義をしている時も、『私は個人的にこう思うのですが、どう解釈されるかは皆さんの自由です』とその人の価値観をあくまで尊重して、自分の意見を押し付ける事は一切しなかったそうです。

自分は後輩や部下といった目下の人達に対して自分の価値観を無理やり押し付けてないだろうか。上から目線になっていないだろうか? 過去の成功談を自慢げにお説教のように口にしていないだろうか?

『実るほど、頭を垂れる稲穂かな』という格言がありますが、いかなる場合も『上から目線』でなくネガティブな感情をコントロールして人に接する事ができるようになれば、人の意見や考え方、自分とはまた違った価値観を受け入れる事ができるでしょうし、それが『器をつくり、人をひきつけます』

遠離・寂静

感情的になりそうな時の為に仏教用語で『遠離寂静』という言葉があります。心を穏やかに保つ為には時には人と会うのを避けたり、騒音・雑音のする場所から離れて一人静かに過ごす時間を持つのもいいでしょう。自分の心と向き合う為には孤独を避けてはいけません。そういう時は、飲みに行こうと誘われても『ちょっと用事があるから』などと言って一人になって心を静める時間をもつようにしよう。

それまですごくいい投球をしていたのに、ホームラン一本打たれてガタガタに崩れる投手がいます。本人は試合後のインタビューで『あの一本で自分を見失った』というコメントを残します。『打たれた瞬間、何が何だか分からなくなった』とか『頭の中が真っ白になった』とかいった事です。

立ち直る投手もいます。たった一球の油断がホームランになっても、それ以降はピシャリと抑える投手です。そういうタイプはインタビューで『気持ちを切り替えた』という意味の感想を残します。

『打たれたものは仕方ないから、ショックを引きずらないようにした』『まだ負けたわけではないと自分に言い聞かせた』こういうコメントを聞くと、パニックにならない技術が分かってきます。受けるショックは同じでも、直ぐに気持ちを切り替えられるかどうかです。その時の受け止め方に『これで終わりだ』という絶望型と『これからだ』という希望型があります。要するに起こった現象に対しての受け止め方が違うだけです。

どんなショックでも『これで終わりだ』と受け止めれば本当に終わってしまいますが、『これからだ』と受け止めればパニックに陥る事だけでも避けられます。全ての決着が付いたわけではないのだ、分からないと受け止めるのはまともな反応で、少し冷静になればパニックを起こさずに済むはずです。思考停止にならず、冷静に今の対応を考えればいいのです。

ではなぜ『もうだめだ』と思ってしまうのでしょう? それは出された結果をあまりに重く受け止めるからです。まだ何も終わっていないのに最終的な答えが出されたと思い込むのです。

部下の小さなミスでカッとなって『君のせいでせっかくのプランが台無しじゃないか!』と怒るような上司はミスだけを大げさに受け止めてしまって、プラン自体はまだ進行中だという事を忘れています。上司や教師が感情的になるのは、立場的に上から目線になりやすく、謙虚な気持ちを忘れ易いからではないでしょうか。松下村塾の塾生から近代日本を背負って立つ人材が多く輩出したのも分かるような気がします。どのような場合でもネガティブな感情をコントロールする事は大事です。

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