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実利と値決め
実利と浮利
実利とは加工・創造など汗を流して得た利益の事で付加価値の創造から生まれるものです。浮利とは投機(博打)によって儲けた利益の事で汗を流さず労せずして儲けるお金の事を言います。
外部から仕入れたものを加工せず自社の利益を加えて売り上げを立てる事でも帳簿上は粗利益を計上できます。この為自社で手を加えて得た粗利益と加工のない粗利益は帳簿上では同じになります。ではどこがどう違うのでしょう。
博打で儲けるには誰かを負かさねばなりません。それには相手が必要です。多くの場合それは同業者です。浮利(あぶく銭)は全体のパイを増やしているわけではありません。同業者との間でゼロサムゲームを行って勝った者が手にしている利益にすぎません。勝つ事もあれば当然負ける事もあります。
以前多くの金融会社が破綻した事がありますが、いずれもゼロサムゲームに負けた結果です。金融派生商品のデリバティブは科学的な理論に基づいた金融商品と言ううたい文句で注目されましたがデリバティブはお金を作る為ではなく博打の儲けを大きくしてリスクを少なくする手法です。
インターネットの発達により情報が溢れた結果、世界的な金融や物流が発達しました。今の世の中、左の物を右に動かすだけでは付加価値を生み出せません。安定した業績アップを続けるには実利の部分を増やす事が急務です。
人は端の値段より真ん中の値段を好む
複数の選択肢がある時、あるものを他よりも好む事を経済学では『選好』と呼びます。標準的な経済学ではその選好はどんな状況になっても変わらないと考えますが、現実にはそうではなく選択肢が二つから三つに増えただけで逆転が起こる事があります。
特に興味深いのは同じ商品でも松竹梅の三種類の価格帯のものが並ぶと、買い手の選択は大抵の場合、両極端を避けて真ん中の価格に収斂します。行動経済学で『極端の回避性』と呼ばれるものです。
レストランなどではこれを利用して、Aコース8,000円、Bコース10,000円、Cコース15000円のように一番上のコースを敢えて高めの値段に設定する事で、真ん中を『最も売りたい価格帯としてメニューを組んでいるところもあります。
真ん中のコースは一番上と比べてかなり安いが、一番下よりは僅か2000円の差だが上だ。巧みな誘導ですが真ん中を選びやすいメニューとなります。買い手にとって重要なのは『選択の納得性』です。
値決めについて
世界中に情報がいきわたっている今の世界では経営の生死を制するのは値決めです。利幅を少なくして大量に売るのか、それとも少量であっても利幅を多く取るのか、また商品に別の付加価値を付けるのか、その価格設定は無段階でいくらでもあります。
どれほどの利幅を取った時にどれだけの量が売れるのか、またどれだけの利益が出るのかという予測をするのは難しい事ですが、自分の製品の価値を正確に認識したうえで、量と利幅の積が極大値になる1点を求める事です。
その点はお客様にとっても、自店にとっても共にハッピーである値でなくてはなりません。これは資本主義の基本の考え方です。
利幅について
日本の小売店業界では値決めは自由ですが一般に粗利は30%なければ駄目だと言われています。つまり宣伝費、販売費、家賃、人件費、金利負担等、全ての経費を考えれば20%くらいの経費は掛かってしまいます。ならば10%弱の税引き前利益を確保するには30%の利益が要るという事になります。
インターネットが発達してきた今の流通業界では日本中、いや世界中の同業者が競争相手になります。鮮度、納期、商品説明を除いて値段はどのユーザーもどこが安いか知っています。郊外の大型ショッピングセンターが出来て多くのシャッター街ができましたが、ネット販売がこれに追い打ちをかけています。
この状況が続くと商品の値崩れが起きやすく、人気商品はメーカーや輸入元ではやむなく価格指導をしています。ネット上では最安値を付けないと販売チャンスがなく競争できません。ある意味、売値については共産主義再来のような状況です。ただ違う点は納期、鮮度、商品説明と仕入れ価格が自由である事です。
現在起きている事は第二次流通革命とも言えます。小売店は価格以外の部分で競合他店に比べて付加価値を付けなければ消費者には選ばれません。ネット販売の先進国である米国ではユーザーが商品を目で見て手で触れるショールーム業が誕生して繁盛しているとの事ですが、これは新しい状況の中でできた新しい業種です。
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