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偶然なんて嘘だろ?——初恋の相手と3度巡り合った話
小学生のころ、好きな子ができた。
特別な理由があったわけじゃない。
ただ、席が隣になり、たくさん話すようになっただけ。
でも、いつの間にか彼女の仕草や笑顔が、
僕の心のどこかをくすぐるようになっていた。
「また谷くんの隣です」
2学期の席替えで、彼女が先生にそう呟いた。
「いいじゃない」
先生は笑い、彼女は少し恥ずかしそうに「まあ、いいか」と言った。
——その瞬間、僕の胸は一気に高鳴った。
彼女と隣同士でいられることが、毎日の楽しみになった。
些細な言葉を交わし、休み時間にふざけ合い、たまにノートを貸し借りする。それだけで特別だった。
小学生の僕にとって、それは「好き」という感情そのものだった。
転校前、勇気を出した日
中学2年の夏休み。
突然の引っ越しが決まり、彼女と離れ離れになることになった。
どうしても気持ちを伝えたくて、意を決して電話をかけた。
受話器を握る手が震える。
家族がいるリビングで、妹がニヤニヤしながら見ている。
母も微笑んでいる。
——なんでこんな時に限って、みんな聞き耳を立ててるんだ。
「今度の日曜日、一緒に出かけない?」
彼女は少し驚いたようだったけど、
「うん、いいよ」
その一言で、僕の心臓は爆発しそうだった。
けれど、その日が来る前に、僕は遠くの町へ引っ越した。
高校生になっての再会——でも、声をかけられなかった
それから数年が経ち、高校1年の夏。
僕は甲子園球場で売り子のアルバイトをしていた。
アイスクリームを売り歩く途中、ふと観客席を見た。
——え?
そこに、彼女がいた。
一瞬、声をかけようか迷った。
でも、その隣には大人びた雰囲気の男が座っていた。
僕は売り子の格好。
彼は私服で、まるで違う世界の人間のように見えた。
「……気づかないフリをしよう」
そう決めて、僕は何事もなかったように通り過ぎた。
今でも思う。「根性なしの大馬鹿野郎!」と。
そして、3度目の偶然——今度こそ
数年後、電車の中で彼女と再び出会った。
今度は逃げるわけにはいかないと思った。
だから、勇気を出して声をかけた。
「俺のこと、覚えてる?」
彼女は一瞬驚いた後、懐かしそうに微笑んで、
「谷くんでしょ?」
その一言だけで、あの甘酸っぱい思い出が一気に蘇った。
驚くべきことに、彼女も甲子園で僕を見かけていたらしい。
「あの時、声をかけてくれていたらね」と言われ、心の中で崩れ落ちた。
もしあの時、勇気を出していたら——。
それぞれの未来へ
電車の中で少し話をして、彼女は途中の駅で降りていった。
連絡先を交換することもなく、ただ短い時間を懐かしさとともに過ごした。
もしあの時、もっと積極的だったら?
もし中学の時、気持ちを伝えていたら?
——でも、それが僕たちの運命だったのかもしれない。
「もしも」を考えることもまた、青春の一部なのかもしれない。
あなたにも、そんな甘酸っぱい思い出はありますか?
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