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バッフルステップとエッジ回折の考察1

 ACCUTON製ドライバーを使用した3WAYスピーカーを製作した。バッフルステップとエッジ回折に関して、ソフトウェアによるシミュレーションと実測値による考察を行う。エッジ回折に関しては直径10cm長さ40cmの半円柱発泡スチロールを利用して対策を行なったところ、最大で1.3dBの改善があった。

バッフルステップ(Baffle step)

 バッフルステップとは、波長の短い高音域の音圧が主に前方だけの2π空間に放射されるのに対し、波長の長い低音域の音圧が後方も含めて4π空間に放射されることにより、低音域の音圧が高音域の音圧に比べて半分(-6dB)になる現象である。バッフルは有限の面積のため、必ずバッフルステップは発生する。バッフルステップが発生する周波数は「音の波長/(バッフルの幅 x2)」で計算される。音圧が下がり始めてから半分になるまでの周波数の帯域は、バッフルのサイズ、ドライバーの配置そしてスピーカーシステムの設置状況に影響される。
 バッフルステップを考慮して周波数特性を平滑にするには、通常、クロスオーバーネットワークで高音域のレベルを下げるという対策を行う。今回のシステムはLCRによるパッシブクロスオーバーネットワークではなく、デジタルチャンネルディバイダーを利用する。そこでWFとMidのクロスオーバー周波数をバッフルステップが発生する周波数に近づけWFとMidのレベルコントロールで基本的な対応を行い、イコライザーで微調整を行う方針である。

エッジ回折(Diffraction from baffle edges)

 エッジ回折とは、ドライバーから放射された音波がバッフル端での回折現象により新たな波面を形成することであり、その結果ドライバーからの波面と回折による波面が干渉することでSPL (Sound Pressure Level) の周波数特性に影響を与える。バッフルの形状とバッフル端の処理(角に丸みをつけたり直角以外の角度にすること)により回折の発生が大きく影響を受ける。この件は1951年のオルソンの論文(*1)の図面がよく参照される。今回は、発泡スチロール製の半円柱(直径10cm長さ40cm)を利用して対策を試みた。

*1 Elements of Accoustical Engineering, http://cyrille.pinton.free.fr/electroac/lectures_utiles/son/Olson.pdf

シミュレーション

 The Edge(*2)というソフトウェアでシミュレーションを行なった。このソフトウェアはバッフルステップとエッジ回折の両方を同時にシミュレーションする。音源として1個のドライバーのみ対応しているので、ドライバーの口径と位置を3通り入力しTW, Mid, WFのシミュレーションを行なった。マイクのポジションはMidの正面で1mの距離である。以下にドライバーの実効サイズと位置を示す。

*2 http://www.tolvan.com/index.php?page=/edge/edge.php

ドライバーのサイズと位置

 以下にTWのシミュレーション結果を示す。TWの帯域ではドライバーの口径が小さく波長も短いため、peakやdipが多数現れている。バッフルが比較的大きく、ドライバーから左右と下方向は距離があるためpeakやdipのレベルは大きくない。一番レベルが大きいのは4.5kHzの-1.2dBのdipである。

シミュレーション結果(TW)

 以下にMidのシミュレーション結果を示す。Midの帯域では400~1000Hzで大きな盛り上がりがあり、600Hzで+2.4dBのpeakとなっている。1.5kHzで-1.8dBのdip, 2.1kHzで+1dBのpeakがある。

シミュレーション結果(Mid)

 以下にWFのシミュレーション結果を示す。WFの帯域では400Hzの+1.5dBの盛り上がりから周波数が低い方へバッフルステップに連続し、75Hzで-5dBとなる。

シミュレーション結果(WF)

測定と考察

 SPLの実測値とシミュレーションの結果を比較してみる。前回紹介した以下のSPLの実測値(マイクのポジションはMidの正面で1mの距離)を見ると、床や壁の反射によるpeak, dipのため、エッジ回折の影響がよくわからない。バッフルステップに関しては、70Hz~400Hzのトレンドが一致しているように見える。

実測値:SPLの周波数特性@1m

 SPLの実測値におけるエッジ回折の影響を確認するため、WFはOFFし、MidのLow Cut周波数は300Hzに設定して再度SPLを測定した。TWとMidのXO周波数は3200Hzのままである。
 解析するデータの時間幅を制限することで床や壁の反射の影響を除去する。マイクの位置はHight: 1m, Distance: 1m。音波が床を反射する場合の距離は2x(sqrt(1^2+0.5^2)) =2.236m。直接音に対する床の反射音の遅延時間は (2.236-1)/340=0.00364 sec=3.64msecとなる。以下の実測値のインパルス応答を見ると、確かに3.64msec後に床の反射音が到達している。

実測値:インパルス応答と反射音の遅延@1m

 そこで、t=3.64msec以前のデータのみを使用してSPLを計算したものが以下の図になる。

実測値:SPLの周波数特性(直接波)@1m

 TWの帯域では、4.5kHzで-4dBのdipが目立つ。Midの帯域では、750Hzで+2dB, 2kHzで+1dBのpeak、1.5kHzで-1dBのdipがある。peak, dipの傾向は、シミュレーションの結果に近い。

エッジ回折の対策

 発泡スチロールの半円柱(直径10cm長さ40cm)を利用してエッジ回折がどのように改善されるか実験を行った。半円柱はバッフルの上部および左右に設置した。以下にエッジ回折の対策の様子を示す。

発泡スチロールの半円柱を利用したエッジ回折の対策

 バッフル上端に半円柱を設置した場合の測定結果(緑:対策後、赤:対策前)を示す。4.5kHzのdipが0.9dB改善している。

実測値:SPLの周波数特性(対策:上端)

 バッフルの左右に半円柱を設置した場合の測定結果(緑:対策後、赤:対策前)を示す。4.5kHzのdipが0.7dB改善している。

実測値:SPLの周波数特性(対策:左右)

 バッフル上端と左右に半円柱を設置した場合の測定結果(茶:対策後、緑:左右のみ対策、赤:対策前)を示す。4.5kHzのdipが1.3dB改善している。

実測値:SPLの周波数特性(対策:上端と左右)

 エッジ回折の対策を行うことで4.5kHzのdipが最大1.3dB改善した。同時に800Hz~2kHzのSPLに影響が出ている。今後、試聴によって効果を確認する。
 TWとMidはバッフル面での凹凸が無いフラッシュマウントを行ったが、WFのフランジはバッフルから5mm程度飛び出していて、エッジ回折が発生している可能性がある。

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