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日本人選手理想のステップアップ先?6年周期ヴォルフスブルクの大躍進

 ドイツ・ブンデスリーガで来季のUEFAチャンピオンズリーグ出場圏内の3位をキープするVfLヴォルフスブルク。彼等には「6年周期」のサイクルがある。

 ヴォルフスブルクが悲願のブンデスリーガ初優勝を飾ったのは2008-2009。当時は元日本代表の主将MF長谷部誠(現フランクフルト)が在籍していた。

 その伝説のチームでは、フランスのルマンでMF松井大輔(現サイゴン)と共闘したブラジル代表FWグラフィッチが突如覚醒し、28得点で得点王を獲得。26得点を挙げたボスニア・ヘルツェゴビナ代表FWエディン・ジェコ(現ASローマ)と共に突破力も兼備した最強2トップが牽引した。ブンデスリーガで同じチームから20得点以上の選手を複数輩出したのは史上初で、とにかく派手なチームだった。

 リーグ優勝から6年後の2014-2015には、ベルギー代表MFケビン・デ・ブライネ(マンチェスター・シティ)を擁してリーグ2位に躍進。DFBポカール(ドイツカップ)で初優勝を遂げた。デ・ブライネは10得点20アシストでリーグMVPを受賞。世界最高のMFへと繋がる進撃の一歩を踏み出していた。

 それから6年経った今季も大躍進しているのだ!


過去2度とは全く違う元・金満クラブ

 リーグ優勝した2008-2009とリーグ2位でDFBポカールを制覇した2014-2015は、共にリーグでの獲得勝点がクラブ史上最多の69ポイント。今季も7試合を残して54ポイント。5勝すれば最多記録に並ぶ。ただ、今季は過去の歴史的なシーズンとは状況が大きく異なる。

 従来のヴォルフスブルクは実質的な親会社である世界屈指の自動車メーカー=フォルクスワーゲン社からの強力なバックアップにより、大型補強で戦力を充実させて躍進して来たクラブだった。

 フェリックス・マガト監督が率いた頃(特に2011年3月からの1年半)は、チームにフィットしない選手をすぐにセカンドチームに降格させては、新たな選手をどんどん獲得していく手法で、選手リストが40人以上と信じられないほどに膨れ上がった時期もあった。

 リーグ優勝後は主力を引き抜かれる側にもなったが、ドイツ代表で2014年のブラジルW杯優勝メンバーであるMFユリアン・ドラクスラー(現PSG)や、FWアンドレ・シュールレを大金で獲得しながら1年半で放出するなど、一貫性のないチーム作りが目立った。

ヴォルフスブルク 近年の成績

 また、潤沢な資金で常時上位争い可能な戦力を揃えるも、欧州最高峰の舞台であるCL出場権を獲得したのは未だ上記の2シーズンのみ。それどころか、初タイトル以降に3度も2部降格危機を味わい、うち2回は入替戦で何とか1部残留。期待外れに終わるのが期待通りのようなチームだった。

 しかし、2017年頃からフォルクスワーゲン社の経営が傾き、昨年からはコロナ禍も重なった中、身の丈に合った地味なクラブへと生まれ変わった。

RB流プレッシング戦術が浸透して大躍進!

 転機はスポーツディレクターにクラブOBのマルセル・シェーファー氏が就任した2018年頃。リーグ優勝メンバーであるシェーファー氏は主将も務め、ドイツ代表歴もある左サイドバック。長谷部が自身の結婚式に招待するなど親交が深く、実直で真面目という、このクラブ“らしくない”人物だ。

 2019年に就任したオーストリア人のオリヴァー・グラスナー監督も、母国のクラブで主将を務めた現役時代からハーゲン通信大学で経営学の修士を取得。引退後は母国の強豪レッドブル・ザルツブルクのフロント職に就職したインテリ派。シェーファーと共に冷静でスマートな佇まいが好印象な知将で、この2人の人柄や性格が現チームの編成や戦いぶりにも現れている。

 グラスナー監督はザルツブルク時代、トップチームのアシスタントコーチを経験。最前線から獰猛なプレッシングを仕掛け続けるレッドブル流派の中でも、最も戦術的に尖っているロジャー・シュミット監督(現PSV監督)の下で、欧州最先端の戦術を体得。その後、母国のクラブで監督としての実績を挙げ、現チームにもレッドブル流を植え付けた。

 就任初年度の昨季は自身のアイデアである<3-4-3>を採用。監督の色を濃く出して7位とまずまずの結果を残しながら、今季はプレスの開始地点を少し下げて中盤でのボール奪取を念頭に置くミドルゾーンプレスを仕掛ける<4-2-3-1>へシフト。

 これにより特異な戦術にも“幅”が生まれた今季、失点が1試合平均で昨季1.35から今季0.81へと大幅に減り、ここまでリーグ最少タイの22失点。開幕から11戦無敗(5勝6分)や、第17節からの7試合連続無失点に繋がっている。

走力勝負!ストイックでモダンな選手が揃う精鋭集団

ヴォルフスブルク2020-2021基本布陣

 そんなチームを象徴するのは、中盤センターでコンビを組むオーストリア代表MFザヴェル・シュラーガーとドイツ代表復帰も噂されるマキシミリアン・アーノルドの2人。

 シュラーガーはグラスナー監督の指導者としての古巣ザルツブルクから獲得した選手。個人としてリーグ最多のボール奪取数を記録しており、レッドブル流のプレッシング戦術“ストーミング”のキーマン。ピッチに立つ全員にハードワークが要求され、攻守の切り替えの速さで勝負する欧州最先端の戦術を遂行するため、身を挺してそれを体現する174cmの「小さな巨人」だ。

 アーノルドは下部組織出身の26歳。17歳でプロデビューした生え抜きで、左足での直接FKの名手でもあるキック精度を誇るプレイメイカーだ。しかし、補完性抜群な彼等はタスクを分け合うのではなく、共にビルドアップからのパス出しもスムーズにこなし、ハードワークでボール奪取の要となれるタフで知的で機動力を兼備したコンビ。中盤でのボール奪取から一体となったハーフカウンターでゴールに迫る形は現チーム最大の武器だ。

 また、チームとしてリーグ最多のスプリント数6539回を数える中でも、今季右SBとしてドイツ代表へ召集されたリドル・バクは、個人でもスプリント数がリーグ最多の840回。2位以下を100回以上も上回る驚異的な数字を叩き出している。バクは中盤をこなせるポリバレントな選手で、推進力あるドリブルや長短のパスによる展開力を兼備。内田篤人と長友佑都(現マルセイユ)を足したような近未来のスター候補だ。

 リーグ4位の17ゴールを挙げている1トップの大型FWボウト・ベホーストもスピードがあって裏抜けも上手い。母国では地方クラブや2部での長い下積みを経験し、20代半ばに開花した雑草魂を持つ197cmの長身ストライカーは、走行距離がリーグ全体8位(FW部門トップ)というハードワークが光る。

 彼等に代表されるように、現チームの選手たちは攻守両面の能力をハイスペックで備えており、アスリート能力が高い。また、戦術理解力も高く、複数のポジションでプレーできるストイックでモダンな選手が揃っている。

 ロシアW杯の日本を想起!日本人選手の理想のステップアップ先?


 ヴォルフスブルクが採る戦術的傾向はロシアW杯時の日本代表とよく似ている。 

 当時の日本は大会直前になって監督交代が起き、ぶっつけ本番で本大会に挑んだ。その“素”の状態で自然と形になったのが、このミドルゾーンプレスとハーフカウンターである。ラウンド16のベルギー戦でMF原口元気の先制点へ繋がった場面はそれを象徴している。

 現在のヴォルフスブルクの選手層は決して厚くない。ただ、1トップ・ボランチ・DFライン・GKとセンターラインを占めるポジションは固まり、土台となるベースは十分にできている。そして、補強ポイントは2列目であるのは間違いない。得点力とドリブルでの局面打開力のあるタレントが欲しい。

 そう日本人選手に多いタイプだ。同じドイツでプレーする堂安律(ビーレフェルト)や鎌田大地(フランクフルト)、に伊東純也(ヘンク/ベルギー)、川崎の三笘薫も面白い。

 来季のCL出場濃厚で選手層の拡充が不可欠なチーム事情があり、走力をベースとした日本人の良さも出しやすい環境。加えて長谷部が在籍していたことで日本人への偏見もないクラブ。

 来季ヴォルフスブルクをCLで観るとき、そこには日本人アタッカーがいるかもしれない!

 そして、「6年周期」のジンクスもなくなるだろう。

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