見出し画像

【建築】100年目のThe Giftとルヌガンガ(ジェフリー・バワ)

誰でにも”理想郷”とまでは言わないが、「将来こんなところに住みたいなあ」という願望があるだろう。都心のタワーマンションだったり郊外の戸建だったり、あるいは人里離れたポツンと一軒家だったりと。

スリランカの名建築家ジェフリー・バワにとっての”理想郷”は、彼が「ルヌガンガ」と名付けた週末の別荘であった。いや、別荘というより広大な庭園である。

そのルヌガンガを訪れたのは、スリランカの旅も半ばを過ぎてからであった。
滞在していたベルワラのホテルから車で30分。途中車を止めて、Dedduwa湖を挟んだ対岸から目的地を眺めると期待が高まった。

画像1

側には「ワニに注意」の看板。さすが野生動物の国スリランカだ!

画像2


「ルヌガンガ」とはシンハラ語で「塩の川」という意味だそうだが、この地は湖に突き出た半島にあり、周りは湖で囲まれている。またその湖は汽水湖のため海水が満ち引きするので、そう名付けたのだろう。

予約時間より少し早く着いたが、門は閉ざされており、まだ中には入れない。意外に?時間にはキッチリしていた。

画像3


ルヌガンガは、ゴム農場であったこの土地をバワが1948年に買ったことから始まる。当時バワは弁護士になったばかりであり、建築の知識はなかったが、後に建築を学ぶためにイギリスに留学した。
1958年に帰国以降は、設計業務の傍ら、2003年に亡くなるまで50年近くに渡ってルヌガンガに手を入れ続けた。ということはルヌガンガは今も完成していないのかもしれない。

ところで田舎とは言え、6.1エーカーもの土地である。アラサーの若者が買える金額ではない。それが出来たのは、父親が成功した弁護士で金持ちであったからに他ならない。そう、ジェフリー・バワはボンボンなのだ。

画像5


ルヌガンガには、熱帯雨林のジャングルの中に、母家であるメインバンガローと数棟のゲストハウスが点在している。これらには食事付きで宿泊もできる。
今回私は昼間の庭園見学ツアーに参加したが、イグアナやオオトカゲ、もしかしたらワニもいるかもしれない自然の中での宿泊は、普通のホテルでは得られない体験が出来たかもしれない。そう考えると、私はココに泊まるという選択をしなかったことを少し後悔した。

さて庭園はガイドさんが付いての見学となる。順を追いながら見ていこう。
ただしバンガローやゲストハウス内部は、宿泊しないと原則見学できない。

まずはエントランスゲート近くにあるThe Glass Room。
このゲストハウスに限ったことではないが、どの建物もずっと以前からあるように、そして森の中に溶け込んでいるようにも見える。

画像5

かつてはここが車庫だった。現在は椅子やクッションが置かれ、寛げるようになっている。ガラス張りの2階は宿泊ルーム。

画像13

画像7


The Garden Room。
元は庭園の手入れをする道具を保管する小屋であり、バワの仕事場でもあった。こちらはゲストハウスではないので、内部も見学できる。

画像8

高い天井と天窓からの光。

画像9

アンティークかつモダン。あるいは欧風かつトロピカル。バワデザインの家具と内装が調和しており、バワのセンスが光る。

画像10

室内から外を見ると、アーチが額縁となり、森とその先の湖が見える。こうした風景の見せ方もバワ建築の特徴の一つ。

画像14


右の小さな建物は鶏小屋と呼ばれるパビリオン。

画像38


余談だが、ルヌガンガはバワの実験場とも言われており、後に採用されることになる建築、家具、アートの試作品も製作されていた。
この鶏小屋パビリオンも、シーマ・マラカヤ寺院や、

画像39

国会議事堂のモデルになったともいわれる。(規模は全然違うが)

画像40


閑話休題。
庭園内でバワがお気に入りだった場所は、テーブルや椅子が置かれたテラスとなっている。そばには鐘があり、バワがこれを鳴らすと、使用人が飲み物を持ってくるようになっていたそうだ。

こちらはその一つであるThe Red Terrace。
湖が木々の間からチラチラ見えるところがGood!

画像41

同じテラスから蝶形の池のあるThe Water Gardenを見下ろす。

画像14


The Water Gardenのテラスと鐘。鐘の音は場所によって異なるので、広い庭園でも使用人はバワがどこにいるのか分かるようになっていた。

画像15

テラスからの眺め。

画像16

直ぐそばにはThe Black Pavilionと呼ばれる東屋がある。

画像17

この東屋からは池越しに真っ直ぐに伸びるThe Broad Walkが見通せる。

画像18

庭園で飼われている牛とすれ違う。牧歌的だ。

画像19

The Broad Walkから東屋を振り返る。
この辺りだけは直線的で、ヨーロッパの庭園のようでもある。知らんけど。

画像20


さらに進むとThe Plain of Jars(壺の平原)と呼ばれるゴムの木の林に出る。
写真では見にくいが、あちこちに明朝時代の大きな壺が置かれている。このセンスはちょっと理解できない...。

画像36


一周してゲート近くまで戻ってきた。
そこにあるのはThe Gate House。その名の通り、かつては門番の詰所兼スタッフの宿泊棟であった。現在はゲストハウスとなっている。

画像21


回廊を抜けてシナモンヒルへ。

画像22

回廊には、バワ建築に欠かせないスリランカの芸術家ラキ・セナナヤケによる壁画があるのだが、あまり手入れされておらず、ボロボロ。残念!

画像23


シナモンヒルは、湖に向かって広がる広場である。かつてここはゴム農場だったが、それ以前にはシナモンが栽培されていた。

バワは亡くなると火葬され、遺言通りこの丘に散骨された。墓標も目印もない。

画像24


シナモンヒルからメインバンガローを振り返る。中央の茂みは半地下になっており、横切る道路を巧妙に隠している。

画像26

回廊から見たその道路。

画像43


ようやくメインバンガローに到着。

この建物はバワがこの土地を買った時には既にあり、それを少しずつ改装して母家としていた。
階段脇の不気味な鉢はオーストラリアの芸術家ドナルド・フレンドによる。

画像29

メインバンガローの入口とテーブル。バワはここで朝食をとっていたそうだ。

画像31


この入口からシナモンヒルを振り返る。バワが眺めていた風景でもある。

画像38

シナモンヒルから続く軸が入口を通してそのままバンガローを突き抜け、

画像32

反対側にあるテラスからも湖を望むことができる。

画像38


メインバンガローは小高い丘にあるので、両方向に視界が開けている。
バワをそれを利用し、シナモンヒル〜メインバンガロー〜テラスという流れをルヌガンガの軸線として設定したのだ。

テラスも快適そう。次回は泊まって、このテラスでノンビリお茶したい。

画像38

プルメリア(フランジパニ)の木が印象的だ。

画像42


ヘリタンス・カンダラマでも書いたが、バワは建物の意匠に凝って「どうだ!」という建築家ではない。それはルヌガンガも同様である。
バワは多くの友人をこの別荘に招いたが、訪問客やバワ自身がいかに快適に過ごすことが出来るか?ということを目指していた。それは室内のみならず、屋外でも同様である。
そのために建物はどうあるべきで、元からある自然の何を残し、何を削り、何を加えるべきかを50年に渡って考え続けてきた。

例えば、写真を見直して頂くと分かるが、建物の周りには木々が植えられている。それは建物と自然を一体化しているように見せると共に、室内やテラスからも木々を額縁として、そして木々が作る陰と光のコントラストも活かしながら、庭園や湖を魅せているのだ。

事実、見学する前は期待感がある一方で、熱帯雨林というイメージから自分で勝手にジメジメした鬱陶しさを覚悟していたが、見学を終えた後では心地良さしか感じなかった。

ちなみにスリランカは、降雨量は季節によって大きく異なるが、沿岸部の年間の平均気温は27〜28℃と一定である。最高気温も32℃程度だ。
「充分暑いやんけ!」と思うかもしれないが、近年夏場の最高気温が40℃に迫る日本の都市部に比べるとマシなのだ。

画像41


さて、最後に100年目の「The Gift」である。

私がルヌガンガを訪れたのは2020年1月だったが、実は2019年はジェフリー・バワの生誕100周年であった。(バワは2003年に83歳で亡くなっている)
それを記念して、2019年から2020年にかけて様々なイベントが開催された。
その一つが「The Gift」である。スリランカ内外から招かれた5人のアーティストや建築家がルヌガンガでインスタレーションを制作したのだ。

5人とは、アーティストのLee Mingwei氏、Chandraguptha Thenuwara氏、写真家のDayanita Singh氏、Dominic Sansoni氏、そして建築家の隈研吾氏である。

今や「日本中どこでも隈研吾」であるが、スリランカにまで来ていたとは!
その隈さんの作品「KITHUL-AMI」がこちら。

画像42

画像39

ヘリタンス・カンダラマの椅子をモチーフとして、

画像42

Kithulという地元のヤシ科の植物を使って、地元スリランカの職人と協力しながら制作したパビリオンだ。

画像40

画像41

さすがに木のルーバーではないが、それでもやはりどこか隈さんらしい。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?