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【建築】柱こんなに要る?と思わせる台湾大学社会科学部図書館(伊東豊雄)

国立台湾大学。日本統治時代の1928年に設立された台北帝国大学を起源とする台湾最高の学府。そのキャンパスは台北市南部大安区に位置している。

正門からはメインストリートが気持ち良いほど真っ直ぐに伸びている。


正面にそびえる建物は大学の総合図書館。歴史ありそうな建物に見えるが、1998年の建設と意外に新しい。だが目指す建物はココではない。


総合図書館からさらに北東に向かってキャンパスを突っ切って歩いていくと、

一棟の校舎に出会う。台湾大学社会科学部棟。今回の目的地だ。


設計は伊東豊雄建築設計事務所。
伊東さんは1970年代から2025年現在まで長きにわたって日本の建築業界をけん引してきた建築家の一人である。そのスタイルは常に変化し、実験・挑戦的な建物も手掛け、多くの建築家に影響を与えてきた。

せんだいメディアテーク

私も一時期は伊東さんの建築をよく訪ね歩いた。

今治市伊東豊雄建築ミュージアム


2000年代に入ると、台湾でも多くの建築を手掛けている。

高雄国家体育場
台中国家歌劇院


台湾大学社会科学部棟もその一つである。

「一棟の校舎」と書いたが、正しくは2つの建物から構成されている。細長い8階建ての学部棟と、その校舎から突き出た平屋の図書館。


まずは図書館から見学。


壁はガラス、屋根は大小の半円が連なって軒となっている。


建物周りには水盤を張り巡らせている。暑い台湾では視覚的にも涼しげだし、地面からの熱の反射を抑える効果もあるだろう。


図書館と学部棟は渡り廊下で繋がっていて、

出入口は学部棟側にある。


受付で見学の手続きを済ませると、早速図書館へと向かった。


大学全体ではなく学部の図書館ということもあり、それほど大きな施設でなない。


室内には「これでもか!」とばかりに細い柱がたくさんある。天井を支えるのにこんなに必要か?とも思うが、実はコレこそがこの建築の特徴だ。


柱は規則正しいグリッドではなくランダムに配置されているように見える。が、もちろん構造計算された上でのこと。部屋の真ん中(左)では柱の間隔が小さく、外側(右)にいくに従って大きくなっている。


それぞれの柱は蓮の葉のような小さな天井と一体となり、それらが連なって部屋を覆っている。また大きな円盤状の照明を吊るし、そこから天井に反射させることで、全体を柔らかく照らしている。
蓮の葉の間から差し込む自然光と間接照明とが良い塩梅だ。


蓮の葉の天井は壁を超えて外まで続く。半円が連なる軒の正体はこれだった。


ちなみに上からはこう見える。


「こんなに柱があると視覚的にも邪魔になるのでは?」と思うかもしれないが、思いの外それは感じなかった。というのは本棚は3つの渦巻き状に配置されており、

柱はそれら本棚の間にあるからだ。つまり本棚の配置も設計時に計画されていたことが分かる。歩いていても柱が邪魔になることはほとんどない。


むしろ意匠的には防火区画のシャッターの方が気になってしまった。法律上、やむを得ないと思うが…。


壁も一部ある。耐力壁かな?


窓際にはテーブルが配置され、学生たちが勉強していた。いや、寝たりスマホをしている学生も少なくなかった。日本やアメリカの大学図書館でもそんな学生を見かけたことがあるが、このあたりの事情は世界共通か?


壁はガラス張りだが、直射日光が入るため、ロールカーテンが下されていた。台湾の気候を考慮するとやむを得ないと思うが、軒はもっと深い方が良かったのかもしれない。


本棚や椅子のデザインは伊東建築ではお馴染みの藤江和子さん。

天井のデザインを反映したベンチも。

台湾は竹細工の箱など伝統工芸の技術に秀れていることから、家具の素材として竹の集成材が使われている。

少し高価な素材だが、台湾大学の農学部の実験林が所有する工房を利用することで、比較的リーズナブルに制作することが出来たらしい。


この図書館、建築家は"木漏れ日の下"で本を読んでいるような空間をつくりたかったそうだ。


ただし正直に言えば、私にはあまりそれがイメージ出来なかった。


また建築的に比較されることが多い有名なフランク・ロイド・ライトによるジョンソン・ワックス・センター。こちらも見学したことがあるが、空間の豊かさは比べようもないほどジョンソンの方が良かった。(用途も規模もコストも異なるので、比べることはフェアではないけど…) 

Workspace History – The Johnson Wax Headquarters by Frank Lloyd Wrightyより


だが決してこの図書館にケチをつけているわけではない。
"木漏れ日の下"のイメージこそ出来なかったが、柔らかい光で満たされた落ち着いた居心地の良い空間ではあったことは確かだった。



図書館には雑誌等の閲覧室も付属している。
先程までとは異なり、コチラは太い柱とガラスを多用した現代的なデザイン。

家具は同じく藤江和子さん。



他の図書館も含めて見学していて思うのだが、最近は書庫で本を探している人をあまり見かけないという印象がある。一方で読書・学習スペースには人が溢れている。この図書館もそうだった。

現在は調べものはネットやデータベースを使って電子情報でも検索できるので、これからの図書館では読書・学習スペースのより一層の充実が求められるのではないだろうか? 特に大学図書館では本や学術書や文献という紙の媒体を読むということに加えて"勉強する"という目的も大きい。
実際その動きは既に一般の図書館でも始まっており、様々な読書スペースを備えた図書館も増えている。さらには居心地の良さを追求したオシャレなカフェが併設された施設もある。(それはそれでまた議論になっているのけど…)




さて、せっかくなので学部棟もちょっと見学。


学部棟の形状は170mもある直方体の形状。著名な建築家が手掛けたにしては一見普通で、ブリーズソレイユのようなベランダはコルビュジエ建築を思わせるものの、インスタ映えするような外観ではない。


細長い建物は廊下の両側に研究室が並ぶシンプルなプランで、迷いようがない。


コンクリートの壁に挟まれた暗い廊下の奥には"光"が見える。図書館に比べると特徴も無さそうな建物に思われるが、この"光"が学部棟の特徴でもある。


光の正体は通路末端の開口部。壁がない半屋外空間で、自然光も入る。


そして所々に風の通り道となる吹き抜けを設けている。これもまた台湾の気候には効果的だ。


吹き抜けにはいくつかのバリエーションがある。


低層部では街路樹の緑が目に入り、

中層部には左右が開けた明るい中庭があり、

高層部からは台北の街並みを望むことができる。


これらの吹き抜けでは、本を読んだり友人たちとおしゃべりしていたり一人静かに過ごしている学生を何人も見かけた。私も吹き抜けからの風を感じながら廊下を歩き回ったが、とても心地良く感じて飽きることはなかった。



帰りがけ、大講義室のドアが空いていたので覗かせてもらった。

普通やね…




半屋外空間をあちこちに設けたコルビュジエ建築

伊東豊雄さんによる台中国家歌劇院


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