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心地よさに包まれた森 (八ヶ岳清里の竹早山荘にて)

例年よりも少し早く梅雨明けした夏の始めに、八ヶ岳の清里にある山荘に遊びに来ないかと誘っていただいた。

東京ドーム2個分はあろうかという広大な敷地内の森を散策したり川で泳いだり、夜は真っ暗闇のなか蛍を探したり星を観たりと思い思いに過ごすという。

アウトドア好きな私は「ぜひぜひ」と二つ返事で答えた。

清里と言えば80年代後半にファンシーな雰囲気がウリの高原の原宿として若い女性の人気を集めていたが、ブームが去ったあとは再開発されることもなく、かつては観光客で溢れた駅前も今は閑散としている。まるで街ごと神隠しにでもあってしまったかのようで、メルヘンな建築物が廃墟のように佇んでいる。

しかし最近では、交通アクセスのよさと自然派の暮らしを満喫できるため、子育て世帯を中心に新しい二拠点生活先として注目されており、都会から訪れる人の数が増えているようだ。

以前から週末やバケーションをのんびり過ごせて、地域への思い入れを感じられるアナザースカイ的な場所ができたらいいなと考えていたこともあり、期待に胸を膨らませ自宅から2時間ほど車を走らせた。

山荘のある森林地帯は長野県と山梨県の県境に位置している。一帯は文教エリアに指定されており、観光地的な雰囲気とは異なり手つかずの自然が多く残っている。

山荘へと続く一本道を進み、白樺の森を分け入っていくと赤レンガ色の建物が姿を現した。二階建てでこぢんまりとした小学校を思わせる外観は森の学び舎のような雰囲気を醸し出している。後で調べたらこの山荘は学生の合宿施設として1961年に誕生し、仲間と集い自然に学ぶ場として愛され、今では学生の課外活動のみならず企業のリーダーシップ研修や、文化芸術教育の振興を目的としたソーシャルプロジェクトの拠点となっているようだ。森を見渡せる日当たりのよい場所にテラスルームが備わっていて、風を感じながら楽しそうに語り合う若者の姿が目に浮かぶ。

澄んだ空気と心地よい森を感じたくて我慢できなくなり、荷物降ろしも早々に近隣を散策することにした。

関東では頭が茹であがるような暑さが続いていたが、昼下がりの清里は木陰のおかげもあって爽やかで過ごしやすい。

山荘の周りには緑白色のバイケイソウの花が咲き満ち、大小さまざまな枝ぶりの五葉松やミズナラの木も、ほどよい距離で立ち並び多様な森林を形成している。

森はしんと静かだが木々の隙間からこぼれる初夏の日差しが風に揺れる木の葉できらきらと輝き、賑やかささえ感じられる。
足元は落ち葉や木の皮やどんぐりが幾重にも積み重なっていてふわふわと柔らかい。踏み出す一歩一歩がまるで毛足の長い絨毯の上を歩いているかのようだ。

少し歩いたところで熊笹の茂みの中で手ごろな倒木に腰を下ろしてひと息ついた。傍らには葉緑体の親玉のような苔むした大岩が木漏れ日の光を受け、まるで大きな発光体のようだ。耳をすますと聞こえてくるのは、リラクゼーション音楽でよく聴くような、絶え間なく流れる小川の音と鳥の鳴き声。物質的な自然音とハイレゾで再現されたバーチャルな環境音楽との違いを見失いながら時を過ごす。たまに聞こえる県道を走る車の走行音がやたらと作り物のように思える。

午後からは土中環境のワークショップが開催される予定だ。この心地よさに包まれた森がどのように形成されたのか、とても興味がある。


続編はこちらです。


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