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スピルバーグから世界のメディアへのエールか、迸るような熱いメッセージが込められた作品 | 映画「ペンタゴン・ペーパーズ」所感

本人が望まない地位に就くことになり、戸惑いを隠せずにいるそんなある日、いきなり会社の存続をかけた事態に遭遇、究極の選択を迫られるなかでリーダーとしての素質を開花させるーーこの作品でメガホンを取ったスティーブン・スピルバーグは「これはリーダーが生まれていくまでの物語」だと語る。

アメリカでは2017年12月22日に、日本では2018年3月30日に公開されたハリウッド映画「ペンタゴン・ペーパーズ」(原題「The Post」)。ベトナム戦争継続の是非に関するアメリカ国防総省(ペンタゴン)の最高機密文書が漏洩、その文書を入手したアメリカの新聞社「ワシントン・ポスト」が掲載の是非を巡って社内外と折衝する模様を描いた、事実に基づいたノンフィクション作品だ。

突如手に入れた米国防総省の最高機密文書という「禁断の果実」。"権力を監視する"という使命を帯びたメディアとして「掲載すべき」とする一方、ひとたび掲載すれば出版差止め、さらには機密漏えいの法に触れるとして不利な裁判沙汰となり、会社が潰れてしまう。メディアの世界に身を置いたことがある人なら何度も経験するジレンマの究極系とも言える事態に、責任者たる会社の長はどう判断すべきか。刻一刻と差し迫る"究極の選択"で、まさに印刷機がまわる間際で決断が下される模様は、私にとっても他人事ではなく、改めて"情報を発信する側"の人間として襟を正した思いだ。

そしてもうひとつ、タイトルにある「スピルバーグからの熱いメッセージが込められている」側面が、驚くほど短いスパンでの制作〜公開であることだ。

プロジェクト発足が2017年2月、そしてアメリカでの公開が同年12月22日である。一年足らずのスピード制作になった背景には、今のアメリカのメディア事情が関係している。そう、トランプ政権とメディアの軋轢だ。

トランプ政権が発足した2017年1月20日からわずか45日後に始まったこの作品制作から公開までの間、トランプ大統領と米メディアの関係は熾烈を極めた。2018年11月14日にはCNNのホワイトハウス特派員から入館許可証を剥奪するという自体が勃発。それまで他のメディアほどトランプ大統領を責め立てていなかったFOXが態度を一変、反トランプ勢力に回ってしまい、事態を重く見たホワイトハウスは1ヶ月も経たないうちにCNN特派員に許可証を返還した。

SNSという個人メディアが一般的となり、「ツィッター外交」という言葉まで生まれる現代の情報社会において、既存メディアの役割は大きく変わりつつある。それでも個人のそれにはない信頼性ある情報、プロでしか入手し得ない情報を取り扱えることに加え、情報発信者という立場の怖さ、恐ろしさを誰より知っているのはメディアを生業とする者たちである。求められることが多くなってきた今という時代でも、"権力の暴走を食い止める"という大きな責務がメディアには存在する。

わずか10ヶ月ほどでの公開となった「ペンタゴン・ペーパーズ」は、今まさに最前線で戦うメディアへのエールか。キャサリン・グラハムとトム・ハンクスという2大オスカー俳優が並び立ったドキュメンタリータッチなこの作品、そんな側面を知った上で観てみると、モニターのさらに向こうに潜む"深遠なる思惑"が浮かび上がってくるようだ。

この映画をまだ観たことがないというメディア関係者には、是非ともご鑑賞をお勧めしたい。

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