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葬儀業のPEST分析《Society》

あまり知られていないお葬式の業界について経営学の視点からお伝えしています。

Society(社会面)

  社会・ライフスタイル面では、少子高齢化、核家族化の進行が、現在の日本が抱える大きな課題といえる。長い老後、おひとりさま(単身世帯)の増加など、少子高齢化による高齢者の増加や生産年齢人口の減少などの人口動態の偏り、また、核家族化の進行による、家族形態の変化が、葬儀に対する生活者の意識に大きな影響を与えている。
 日本は、世界でも類を見ない超高齢社会に突入している。総務省の「情報通信白書平成25年度版」によると、日本の人口は、2000年の国勢調査から1億2,700万人前後で推移していたが、2020年に1億2,410万人、2030年に1億1,662万人となり、2050年には1億人を、2060年には9,000万人をも割り込むことが予想されている。

(出所)総務省「情報通信白書平成25年度版」より筆者作成

 また、内閣府の「平成29年版高齢社会白書」によると、日本は65歳以上の高齢者が3,459万人で、総人口の27.3%となっており、超高齢社会といえる。また国内における75歳以上の高齢者人口は1,691万人となっている。つまり日本は、4人に1人が高齢者という事になる。
 また、高齢化の進行の速さも日本の高齢化の特徴である。内閣府の「平成29年版高齢社会白書」によると、国別に、高齢化率が7%を超えてからその倍の14%に達するまでの所要年数を比較すると、日本は、1970年に高齢化率が7%を超えると、24年後の1994年には14%に達している。
 これに対し、年数の長いフランスで115年、比較的年数の短いドイツでも40年かかっている事から日本の高齢化は急激に進んだことがわかる。

(出所) 内閣府「平成29年高齢社会白書」より筆者作成


 死亡者数の年次推移をみると、1980年代から増加し、2003年に100万人を超え、厚生労働省が2017年6月に発表した「平成28年人口動態統計月報年計(概数)」によると、2016年の死亡人口は、130万7,765人(前年比1.3%増)となっており、戦後初めて130万人を超えた。

(出所)厚生労働省「平成28年人口動態統計月報年計(概数)」より筆者作成

 また、内閣府による、「平成29年版少子化社会対策白書」によると、合計特殊出生率は、第1次ベビーブーム期に4.3であったものが、1950年以降低下した。第2次ベビーブーム期以降は、ほぼ2.1台で推移していたが、1975年に2.0を下回り、低下傾向となった。
 また、2005年には過去最低である1.26となった。死亡者数の増加と出生数の減少により、日本の総人口も2006年から減少し始めている。

(出所)内閣府「平成29年版少子化社会対策白書」より筆者作成

 また、高齢化の進行により、高齢者にとって「長い老後をどのように過ごすか」という事が課題となった。
 内閣府が2014年に行った、「平成26年度 高齢者の日常生活に関する意識調査結果(全体版)」によると、将来の自分の日常生活全般について、「どのようなことに不安を感じるか」という、質問に対して、「自分や配偶者の健康や病気のこと」が67.6%と最も高く、次いで、「自分や配偶者が寝たきりや身体が不自由になり介護が必要な状態になること」59.9%、「生活のための収入のこと」33.7%となっている。このことから高齢者は、長くなった老後の間に、病気や介護、収入に関する不安を抱えている事がわかる。


(出所)内閣府「平成26年度 高齢者の日常生活に関する意識調査結果(全体版)」より筆者作成

 また、内閣府の「平成28年版高齢社会白書(全体版)」によると、2015年現在、平均寿命は、2015年現在で、男性80.75歳、女性86.99歳となっており、今後も伸び続けると予想されている。すなわち、「老後」の期間は今後も伸び続けていく。


(出所)内閣府「平成28年版高齢社会白書(全体版)」より筆者作成

 また、現役世代ともいえる、生産年齢人口(15~64歳)も減少している。内閣府の「平成28年版高齢社会白書(全体版)」によると、生産年齢人口(15~64歳)は、1995年に8,716万人でピークを迎え、2013年には7,901万人と減少に転じ、総務省の「平成27年国勢調査」によると、2015年の生産年齢人口は7,592万人となった。


(出所)内閣府「平成28年版高齢社会白書(全体版)」より筆者作成

 内閣府の「平成28年版高齢社会白書(全体版)」によると、65歳以上の高齢者人口と15~64歳人口の比率は、1950年には1人の高齢者に対して12.1人の現役世代(15~64歳の者)がいたのに対して、2015年には高齢者1人に対して現役世代2.3人になっている。これは、現役世代2.3人で一人の高齢者を支える社会といえる。


(出所)内閣府「平成28年版高齢社会白書(全体版)」より筆者作成

 核家族化の進行による、家族形態の変化も大きな影響を与えている。
内閣府の「平成29年版高齢社会白書(全体版)」によると、65歳以上の高齢者のいる世帯には、2015年は2372万4千世帯と、全世帯(5036万1千世帯)の47.1%を占める。これに対し、1980年では世帯構造の中で三世代世帯の割合が一番多く、全体の半数を占めていた。しかしながら、2015年では夫婦のみの世帯が一番多く約30%を占めており、単独世帯と合わせると半数を超える状況である。
 また、子供との同居世帯も減少しており、65歳以上の高齢者について子供との同居率をみると、1980年に約70%であったが、2015年には39.0%となり、大幅に減少した。単独世帯又は夫婦のみの者については、1980年には合計30%弱であったが、2015年には56.9%まで増加している。

(出所)内閣府「平成28年版高齢社会白書(全体版)」より筆者作成

 また、死に対する生活者の意識も変化している。その背景には死が日常から遠のいている環境がある。亡くなる場所が自宅から、病院へと変化した。厚生労働省の「人口動態調査」によれば、1977年までは、自宅など施設外で亡くなる人のほうが多かったのに対し2012年には、病院・診療所で亡くなる方が約8割と大半を占めている。自宅で近親者の介護から看取りを行う過程は、死を学ぶ機会でもあった。病院で亡くなる方が増えるにつれて、死が日常から遠のく結果となった。

 

(出所)厚生労働省「平成28年人口動態統計月報年計(概数)」より筆者作成

 このような少子高齢化、核家族化の進行により、生活者の葬儀に対する考えも変化している。
冠婚葬祭総合研究所が2016年5月に行った「葬祭等に関する意識調査(団塊世代を中心に)」によると、「自分の葬儀は家族葬がいい」という質問に対して、「そう思う」が50.4%、「ややそう思う」が34.5%となっている。また世代別にみると、団塊世代(65~69歳)は54.6%、70歳以上の世代は、58.5%となっており、年齢が高くなるほど、家族葬を望む傾向が強いといえる。

  また、一般財団法人日本消費者協会による2017年に発表された「第11回葬儀についてのアンケート調査」によると、「自分はどんな葬儀にしてほしいか」という質問に対して、最も多かったのが「費用をかけないでほしい」54.9%、次いで「家族だけで送ってほしい」45.1%となった。

(出所) 一般財団法人日本消費者協会「第11回葬儀についてのアンケート調査」より筆者作成

 また、2014年に行われた一般財団法人日本消費者協会の「第10回葬儀についてのアンケート調査」の結果によると、葬儀にかけた費用の総額は、全国平均で1,889,000円となっており、これは、2007年に行われた調査における2,310,000円に比べ、40万円以上下がっている

(出所)一般財団法人日本消費者協会「第10回葬儀についてのアンケート調査」より筆者作成

 また、一般財団法人日本消費者協会による2017年に発表された「第11回葬儀についてのアンケート調査」によると葬儀に際して「誰に(どこに)相談したか」という質問では、親族が76.0%、次いで葬儀社が54.3%となっていた。同調査の第7回報告書では、葬儀社は23.6%だったことから、葬儀社への相談が増加していることがわかる。
 

(出所)一般財団法人日本消費者協会「第11回葬儀についてのアンケート調査」より筆者作成

 また、一般財団法人日本消費者協会による「第10回葬儀についてのアンケート調査」によると、葬儀の場所として、「葬儀専用式場」を利用したと回答した人は81.8%となっている。1999年に行われた調査では30.2%だった事から大幅に増加しており自宅や地域の集会所、寺院などでの葬儀は減少していることがわかる。

(出所)一般財団法人日本消費者協会「第10回葬儀についてのアンケート調査」より筆者作成

 また、本来、死者を弔う宗教儀礼が葬儀において、重要な役割を担っているが、東京都生活文化局消費生活部流通環境課による平成13年度流通構造等分析調査「葬儀にかかわる費用等調査報告書」によると、葬儀を「故人との別れ」と理解する人が60%と過半数を超え、「故人の冥福を祈る宗教的なもの」と理解する人が32.4%にとどまっている。これは、葬儀において宗教儀礼よりも、故人との別れを重要と考えているためである

(出所)東京都生活文化局消費生活部流通環境課「葬儀にかかわる費用等調査報告書より筆者作成

 このような少子高齢化、核家族化を背景としたライフスタイルの変化により、従来は画一的に行われてきた、葬儀に対する生活者の意識が多様化してきた。全体としては、簡素化・プライベート化が進む中で、葬儀に対する意識の世代間での違いが生まれており、今後も生活者に求められる葬儀の形式も変化していくと考える。

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