葬儀業のPEST分析《Technology》
あまり知られていないお葬式の業界について経営学の視点からお伝えしています。
Technology(技術面)
技術面においては、インターネットの発達とスマートフォンの普及により、情報の非対称性が解消されつつある。従来は、葬儀など「死」に関する話題を公にするのはタブーとされる風潮があったが、情報社会の現在は、事業者からの情報発信だけでなく、生活者の利用体験の実例や感想なども発信されるようになった。以前は葬儀社が主導して葬儀内容を決めることによって葬儀費用が高騰しがちであったが、多数発信される情報によって生活者自身が葬儀内容を選択する基準を持つことが増えたため、生活者の葬儀に対する意思が反映されるようになったと考えられる。
総務省が2017年に発表した、「通信利用動向調査」によると、調査を開始した2001年には、46.3%であったが、2016年には83.5%となっており、年々普及率は増加している。
また、内閣府の「平成29年版高齢社会白書(概要版)」によると、インターネットを活用する高齢者が増加している。過去1年間のインターネット利用に関する、5年前との比較では、70~79歳が14.3ポイント増と最も大きく、次いで60~69歳が12.2ポイント増となっており、インターネットを利用する高齢者が増加傾向にある。
また、総務省が発表した「平成28年版 情報通信白書」によると、情報通信機器の普及については、全体的に飽和状態の中、スマートフォンの保有者は年々増加し、2015年末には、72%となっている。
インターネットを利用した情報発信は葬儀業界において必要であり、今後スマートフォンを中心とした顧客との接点が重要となる。
また、この他にエンバーミング技術の発達が挙げられる。IFSA(一般社団法人日本遺体衛生保全協会)のホームページによると、エンバーミングとは、血液系を利用して血液と防腐剤を入れ替え、全身を灌流固定する遺体の防腐処置方法である。日本では、IFSA(一般社団法人日本遺体衛生保全協会)のエンバーマーライセンスを取得した者、もしくは医学資格を有した医療従事者によって行われる。エンバーミング処置には主に、①消毒・殺菌、②腐敗の防止、③修復・化粧、④心行くまでのお別れ、という4つの役割がある。
「消毒・殺菌」については、感染症の原因となる病原菌・ウイルスの有無にかかわらず、危険な感染を防ぐために、遺体の消毒・殺菌を行う。「腐敗の防止」については、遺体は、死後すぐに体内から腐敗が進むので、できるだけ早く薬剤で腐敗防止を行わなければならない。処置を施すことで、においがほとんど感じられなくなる。「修復・化粧」については、処置を施すことにより、生前の安らかな顔を取り戻し、故人に対して遺族の心に良い思い出を残せる。「心行くまでのお別れ」については、衛生的に安全となった遺体と心ゆくまでゆっくりとお別れができる。10日から2週間程度は安全に保たれる。
日本においては1974年池田明氏が解剖学主任教授として川崎医科大学に招かれ、医学教育・研究のため優れたエンバーミング技術を日本に初めて導入した。以来、約30年間普及し続け、現在、日本の医学系大学の65%から70%がこのエンバーミング方法を採用している。
葬祭業社では1988年埼玉県川口市に日本初のエンバーミングセンターがオープンする。1993年IFSA(当時:遺体の公衆衛生に関する自主基準研究会)が発足。日本におけるエンバーミング自主基準を制定。2015年には、21都道府県52施設エンバーミング件数は33,853体。累計365,681件になった。
このエンバーミング技術により、葬儀の時間の制約が自由になった。日本では、遺体の腐敗の進行の為に急いで葬儀を行わなくてはいけないという考えがある。これは、死の事実を受け入れ死の悲しみと向き合うグリーフワークにおいて、制約になる。エンバーミングにより、葬儀日程において遺体の腐敗という時間の制約がなくなった。(IFSAでは自主規制として49日までの火葬を目安としている)
親族が海外赴任等で日本に帰ってくる時間の確保や、親族の入院や受験など、様々な要因で時間を考慮したい場合にエンバーミングは有効な手段である。社会環境の変化に対応した葬儀サービスの実現がエンバーミングによって可能になった。また、遺体の衛生面での安全性が確保できたことにより、葬儀式の自由度が高まった。
従来の葬儀は、死穢の意識から遺体に関しては封印し、火葬もしくは埋葬するという方法をとった。死が穢れ、不浄だと思われていたのは、医学や科学が発達していなかった時に、遺体からの感染や遺体の腐敗の原因の解明が出来ず行き着いた解釈である。エンバーミングの処置により、滅菌防腐されていれば、安心して遺体に触れたり、そばにいたりすることが出来る。従来の葬儀式のスタイルに限定されない、故人との別れを中心とした葬儀式の演出が安全に可能になった。
また、遺体の状況の改善により、顧客満足度が向上した。生活者の葬儀の意義は成仏から、故人とのお別れに変化した。故人の死に姿の善し悪しが、葬儀の満足度に影響を及ぼすようになった。従来では死化粧などの技術はあったものの、エンバーミングほどの修復技術はなかった。医療の発達により病苦の期間が長期化している。また、長寿ではあるが全身状態は良くない状態になってしまっているケースもある。
エンバーミングの修復技術によって、生前の姿を取り戻すことで遺族感情に良い影響を与えることが可能になった。エンバーミングは、大切な人の死の悲嘆から立ち直るためのグリーフワークに有効とされている。グリーフワークで一番初めに行うのは死を受け入れることであり、死を受け入れるためには、遺体と一定の時間ともに過ごすことが必要になる。エンバーミングによって完全に安全な衛生状態を保ち、修復された状態であれば、安心して死者と過ごすことが出来る。
従来の日本の葬儀は、可能な限り短期間で行う事が良いという風潮であったが、エンバーミング技術の普及により、長期間をかけて故人とのお別れをする事が可能になる。このため、従来の葬儀の流れとは異なったサービスの開発、提供が可能となる。逆に言えば、生活者に新しい葬儀サービスが求められるようになるとも考えられる。
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