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葬儀業のPEST分析《Politics》

あまり知られていないお葬式の業界について経営学の視点からお伝えしています。

Politics(政治面)

  政治面では、葬儀業への規制に関しては、許認可制度や法律が無いことは前述の通りだが、地方自治体が葬儀関連施設(葬祭場、遺体保管所、エンバーミング施設等)に関する条例を施行する事例が増えている。これらの条例の作成は、実際に葬儀関連施設が建築された前後の周辺住民の反対運動を契機にしていることが多い。

(出所)各自治体HPを基に筆者作成

 この他にも、埼玉県・千葉県・大阪府・京都府等の自治体でも条例が制定されている。表2-6の中でも、神奈川県川崎市の事例については、以下のような経緯で施行された。
 2014年(平成26年)に、川崎市中原区において、葬儀業者によって既存建築物の内部の仕様変更と用途変更によって遺体安置施設の開設が計画された。計画が周辺住民に発覚した直後から強硬な反対運動が行われ、テレビ・雑誌などのメディアでも取り上げられた。反対運動は感情的な問題であり、業者側の計画は、現行の消防法等はクリアしていたことから、遺体の搬出入が外部から見えないようにするなどの変更点はあったものの、概ね業者側の計画通り施設が開設している。
 この問題を契機に、当時の川崎市長が国に「遺体保管施設に関する法整備を求める意見書」を提出し、市内の条例としては「川崎市葬祭所等の設置等に関する指導要綱(案)」を2014年12月に作成して公表、市民からの意見を募集した。最終的にパブリックコメント等加味した内容の「川崎市葬祭場等の設置等に関する要綱」が2015年(平成27年)3月に施行された。
 このように、地方自治体毎の条例は徐々に制定されているが、自治体への事前申請や周辺住民への説明会開催などを義務付けるものが多く、具体的な立地や建築内容の規制までは踏み込まれていない条例も多い。
 また、条例の制定以外にも、従来葬儀業界では見過ごされがちだったコンプライアンスの遵守についても、強化され始めている。独立行政法人国民生活センターによると、PIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)に寄せられた相談件数は2012年以降年間700件を超えている。

(出所) 独立行政法人国民生活センターHPを基に筆者作成

 コンプライアンス遵守の一例として、「見積書の提示」が挙げられる。かつての葬儀業界では、葬儀を執り行う前に見積書を提示せず、終了後に請求額のみ提示するということが横行していた。請求額が生活者の金線感覚と異なる、多額になることも少なくなく、生活者が葬儀社に不信を持つ要因の一つであった。独立行政法人国民生活センターが2015年(平成27年)12月17日に発表した「大切な葬儀で料金トラブル発生!-後悔しない葬儀にするために知っておきたいこと-」で紹介された相談案件でも、見積もりを依頼したが、請求書と同時に渡すと回答された、という案件が紹介されている。
 また、チラシ等の広告物の表示については、景品表示法による規制の対象であり、2012年(平成24年)2月3日には消費者庁から「葬儀事業者における葬儀費用に係る表示の適正化について」が公表された。これは、消費者庁が葬儀事業者の葬儀費用の表示について調査を行ったところ、景品表示法4条1項2号(有利誤認)違反のおそれがある表示をしている事業者が確認されたため、事例を示して注意喚起をしたものである。具体的には、不当表示に該当するおそれのある葬儀費用表示、および葬儀費用について、不当表示に該当するおそれのある比較広告の事例が示され、この注意に従わなかった葬儀社に対し、9月7日には景品表示法に基づく措置命令を発している。
 更には、霊柩車・寝台車といったご遺体の搬送に関する車両は、一般貨物自動車運送事業許可(霊柩限定)を取得し、営業ナンバーでの運行が義務付けられているが、この手続きを行わず通常の車両番号(白ナンバー)で運行して摘発され、行政処分が下る事例も発生している。
 このように、従来の葬儀業界はコンプライアンスに対する認識が甘く、また世間からも緊急時にしかかかわらない業種であることから見過ごされてきたが、昨今では一般的なサービス業と同じようにコンプライアンスの遵守が課題となっている。
 このような背景から、葬儀施設開設に関する規制が増える事で、出店スピードが鈍化する恐れがある。また、コンプライアンス遵守する姿勢が企業に対して、これまで以上に求められる事で、顧客に対するよりしっかりとした説明が必要となるとともに、コンプライアンスへの対応コストが増加する可能性がある。

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