第10回:音から映像を想起させる、新作アルバムをリリース。全曲紹介「Moderation digests light and shadow」。
[Podcast第10回:音から映像を想起させる、新作アルバムをリリース。全曲紹介「Moderation digests light and shadow」]
Podcast第10回は、HAPPY SADが12/10にリリースした新作アルバム「Moderation digests light and shadow」の全曲紹介です。
アルバムは全体的に映画のワンシーンを切り取ったような風景を彷彿とさせるサウンドトラックの様な作品になっています。当初、二年半前に8割方を完成させていたのですが、その後なかなか作業をする時間が無く2024年にようやく完成することが出来たアルバムです。
[アルバムへのコメント]
(キュレーターや音楽ジャーナリストより)
・Pyaar Music Records
「Nobody knows your hidden feelings」は繊細なピアノの旋律がアンビエントや自然音と絡み合い、深く内省的で映画的な体験を生み出している。音楽を通して感情を呼び起こし、心象風景を描くHAPPY SADの能力には目を見張るものがある。映画音楽の要素とアンビエントなテクスチャーの組み合わせがこの作品を際立たせており、サウンド・デザインが意図的かつ見事であることは明らかだ。より幅広いアルバム『Moderation Digests Light and Shadow』は、トリップホップ、アンビエント、オルタナティヴ・ロック、アーバン・ハウスといったジャンルをシームレスに融合させ、まとまりのある喚起的な旅に仕立てた、HAPPY SADの多才さを示している
・Music Crowns
オルタナティヴ・ロックやトリップ・ホップから影響を受け、この曲のような傑出したトラックを作り上げるエレクトロニック・ミュージシャン、HAPPY SADによる「Red sun, red rain fall on the ground」は、魅惑的なサウンドスケープと中毒性のあるシンセ・ビートで魅了する。
・Euphony.com
本物の才能を持つアーティストが見せた驚くべき職人技。
・Zonagirante.com
「The Flow of Time」この録音はちょうどいいタイミングで届いた。今夜、私に親切で満足のいく形で平和をもたらしてくれたからだけではない。インストゥルメンタル曲の新しいプレイリストを立ち上げる口実にもなったからだ。現実のものであれ、架空のものであれ、映画の音楽の一部となりうるような作品だ。
・Oghamyst Music
「Red sun, red rain fall on the ground」は、オルタナティブロック、トリップホップ、チルウェイヴの要素を巧みにブレンドして、切迫感と内省の音の風景を作り出した、心に残る刺激的なトラックのように聞こえる。感情に訴える日本語のボーカルと雰囲気のあるプロダクションで、この曲はその音のイメージの緊張感と美しさを捉えています。ボーカルの表現は、控えめな内省と高まる切迫感の間を行き来し、赤い太陽と雨のイメージによって伝えられる絶望と希望の二重性を反映しています。曲のタイトルと叙情的なイメージは、荒涼とした、ほとんど黙示録的なビジョンを呼び起こしますが、音楽の流動的なダイナミクスは回復力と適応を示唆している。とてもユニークで気に入っています!
・Sentimental Music
「The Flow of Time」のプロダクションは絶妙です。すべての音のレイヤーは、最も没入感のある体験のために意図的に考え抜かれているように感じます。このトラックは、映画のようなエレガンスと落ち着いたフォーク風の魅力を融合させ、時代を超越した品質を保っています。静かな内省とリラクゼーションの瞬間に最適です。素晴らしい仕事です。
・QMC
HAPPY SADの「Red Sun, Red Rain Fall on the Ground」は、ジャンルと感情を巧みに組み合わせた音の体験を提供しています。オルタナティヴ・ロックやトリップホップの影響を、チルウェイヴやシンセウェイヴのサウンドを想起させるシンセサイザーと融合させ、オリジナリティと深みを際立たせる音楽提案を生み出しています。冒頭から、バンドのスタイルの特徴である内省的でノスタルジックな雰囲気を伝えています。象徴的な表現に富んだタイトルは、「赤い太陽」や「赤い雨」などのイメージを指しており、困難な状況や痛みの瞬間の比喩と解釈でき、喪失感や憧れを呼び起こします。 この曲は、優美なメロディーと深遠な歌詞を通じて音楽の物語を展開し、リスナーを個人的な内省の空間に誘います。丁寧に作り上げられたプロダクションは、パフォーマーの感情的な声と包み込むような楽器を組み合わせて、憂鬱と希望の魅惑的なコントラストを実現しています。この光と影のバランスが、力強く響く感情的な深みを加えています。
■新作アルバム詳細情報
アルバム名:「Moderation digests light and shadow」
アーティスト名:HAPPY SAD
作曲・編曲・演奏:Hiroaki Kusano (草野洋秋) / Happy Sad
楽曲配信先:配信先一覧はこちらからご確認いただけます
◎Spotify
◎Amazon mp3
◎Line music
[今回ご紹介する楽曲]
1.Red sun, red rain fall on the ground
この曲は二十代の時からコード進行とおぼろげにメロディのアイデアがありました。今まで過去に4回くらいこの曲のデモを作ったのですが、あまりしっくり来なくて捨てていました。随分時間が経ちましたが今回試みたら上手くいったのでアルバムに入れています。
曲が頭の中で描いていた形になるまでアレンジや機材の使い方を試行錯誤したり、これまで仕事で制作をたくさんしてきた事も糧になっています。
制作当初はもう少し音が多く、インドや中東楽器の様な要素もあったのですが蛇足な部分は削りました。
シンガーソングライター、Jeff Buckleyのアルバム「Grace」は長い間、自分にとっての憧れで、彼の作品は空間をどう使うかというヒントになりました。オルタナティブ・ロックの要素を自分の曲の中でどう使うかがこの曲のコンセプトになっています。
2.The flow of time
水の環境音とピアノの音が合わさってゆく様な音像になっています。
間接的な影響としては、近代フランスの作曲家の作品を聴いていた時にメロディとベースの2音だけでドラマティックに進行してゆく曲があって、それが印象に残っていたのもあるかも知れません。
アンビエント的なシンセサイザーの音を要所要所で配置しています。
絵画で近景の対象物と遠景の空間を描いている絵を見ると、その奥行の色味が柔らかく変化している事に気付きます。つまり、空間の奥に行けば行くほど、画家の目と遠景の距離間に空気の層が増えるため、色味が変化しているのです。その様な絵画的な要素もサウンドデザインとして入れたいと思いました。
サウンド制作の仕事をする以前から、水の環境音を録音するのが好きで、たまに河原に佇んで収録していました。今回もその名残がありますが、録音中に遭遇した人には不審者だと思われるので注意が必要です(笑)
3.Changeable
仮タイトルが「NHK大河ドラマ風」でした。
大河ドラマのオープニング曲は毎シーズンとても良く出来ていて、ついCDを集めてしまいます(Spotify上にはほとんど無いため)。大河ドラマOPは数小節ごとに巧みにアレンジが施されていて、どんどん見える景色が変わってゆくようです。
自分の曲にどう活かすかを考えると、短い曲の尺の中で起承転結がある展開にする、とかそういう事をぼんやり考えていました。
頭の中にしばらく保留されていた曲で、仕事か何かで活かす時が来るかなと思っていたのですが、合う様な世界観の案件が無かったので自主的に制作しています。
4.Daily life
コロナ自粛期間で皆が自宅にこもっている時期に作った一曲です。この期間は個人的には自宅で穏やかに暮らしていました。心理的なものも作用してか、音数も多くなく自然体で作っていたように思います。
日常生活の穏やかさ、そのものを一枚の写真に撮ったような作品です。
ピアノ、アコースティック・ギター、ストリングスを自然にあるべき場所に配置していきました。普段の生活の中で自然に存在しているもの、それは習慣の中で小さいものの様に感じられる時もあるかも知れないのですが、実は自分を構成している大切なものだと気付く時があります。
心の中で静かに慈しむ様な気持ちで作りました。
5.Inner city paradise
ジャズ寄りのアルバムを色々聴きながら、断片的な技法に何かヒントが無いかなと思っていた時に出来た曲です。
モードジャズのミュージシャンが使う音運びは本来時間軸に沿って有機的に演奏される所なのですが、それらを全て無機質にかっちりとした音運びにしてサウンドもデジタルにして、楽譜的に言うと縦に音を積んでゆきました。
風景を直線と単純な色で描くモンドリアンという画家がいますが、この人は元々風景を細かく模写する様な作風でした。それが、次第に線と単調な色で風景が描かれるようになり、最後は抽象画の様な見た目になっていきます。
このサウンドも同様に、有機的な素材を無機的な線と色に置き換えてゆくイメージです。音風景をデザインするような心持ちです。
6.Old punks
海外のゲーム作品で「Cyberpunk 2077」という作品があるのですが、この作中の雰囲気を見て何か作りたいと思いました。
イギリスでビックビートが流行っていた頃にPrimal screamの「Exterminator」というアルバムがあり、これはダーティな質感がクールな作品なのですが、この要素を映画「ブレードランナー」の作中の雰囲気と掛け合わせて軽く一曲作りたい気持ちになったのがこの曲のコンセプトです。
(この両者の雰囲気やイメージはブレンドするのに相性が良いと思いました)
普段PC上の作曲ソフトの中で、プラグインエフェクトを用いて効果的に音を加工するのですが、ここではシンセサイザーのデジタル音をアナログの真空管機材を通す事でより旨みのあるサウンドにしています。
ハードのアナログ機材は最終的なサウンド質感を変えるので、コロナ期間中に色々レンタルして試しました。じっくり取り組むとわかるのですが、アナログ機材は微量なスパイスとはいえ確実にソフトと異なる影響を全体に及ぼすので、より効果的だと思われる使い方を日々試しています。
今回のアルバム全体でも、アナログ機材が音像を深める手助けをしてくれています。
7.lonesome cowboy
スライドギターを使用して映画のワンシーンの様な風景を描きました。
スライドギターの名手Ry cooderに対する憧れもあって、何かひとつ自分なりにスライドギターを使用した曲を作っておきたい気持ちになりました。音と音の間とか奥行きみたいなものが、映像と合わせた時により効果的にドラマを伝えるような気がします。
スライドギター、途中から入るアコースティックギターやボンゴも演奏しています。音の間(ま)を大切にしている曲で、無音のパートも存在しているようなサウンドです。
曲のタイトルになっている”Lonesome cowboy”は、前作のアルバム「The sower」のライナーノーツでJeffrey yamadaさんが書いていた「道に迷いやすいカウボーイズ・ラメントの免罪符として、独自性を手の中に握りしめ、カオスを越えて、HAPPY SADは進んでいる」という文章が何となくヒントになっています。
8.Velvet morning
ボサノヴァのテイストが入っているイージーリスニング・ジャズです。
70年代にアメリカのCTIというジャズレーベルが流行ったのですが、非常にメロウかつスムースで洗練された印象のあるサウンドが特徴です。何となくそちらのサウンドイメージが曲に合いそうだと思い、自然にそうなってゆきました。大体、曲のスケッチを書いている段階で、曲がどのアレンジに合うかがわかります。
メインメロディはクラシックギターを弾いています。自分はギタリストという認識は無く、あくまで曲アレンジのひとつとして楽器を演奏しています。
9.Confirmation
映画のワンシーンの様な音楽です。曲の始まりと共に映像が頭の中で視覚化されるようなサウンドを目指しました。
メロディやサイドでアコースティック・ギターを弾いています。ギターのサイズや鳴り方、マイクの使い方と後処理の仕方で聴こえ方は随分変わってくるのですが、自分の場合はギターを聴かせようと思って弾く事はありません。曲全体を聴かせるための一要素という程度です。
あとはエレクトリック・ベースを全体に渡って弾きました。指で弾いていたら、途中から指にマメが出来そうだったので全部ピックを使用して弾き直しました。慣れない事はしない方が良いというのが教訓でしたね(笑)
今回のアルバム全体に言える事ですが、作る際に気負いが無くて自然と曲ができていった感じです。
10.Nobody knows your hidden feeling
二曲目の「The flow of time」と兄弟のような曲ですが、この曲はピアノを一筆書きの様に録音して、それ以外の音を後から足していきました。厳密にアレンジを組み立てるのでは無く、フィーリングを重視しています。環境音やアンビエントの様な奥行きのあるサウンドが欲しくて、結果的にこうなりました。心が静かに閉じてゆく様子が描けたらよいなと思いました。
学生くらいの頃、フランスとイタリア、バチカン市国を旅しました。
その時、色んな美術館や博物館に足を運んだのですが、自然と自分の足が止まるのは、具象的な物(現実世界で存在する物質)と抽象的な要素が入り混じった絵を見た時でした。正反対の要素が一枚の絵の中に納まっているのに矛盾が無く、世界観をより広げている様に感じました。
その様な影響はアルバムの所々で散見されると思います。
11.Unrest
不穏なアンビエント曲です。
ひたすら不穏な雰囲気が伝わるサウンドを目指しています。
[アルバムを聴いて下さった方へ]
以上11曲になります。アルバムを聴いて下さり、ありがとうございます。
現在も次作に向けて制作を進めています。
今回の作品要素を更に追及したものになるのか、異なるものになるかはわかりませんが、描ける世界観をより広げられるように面白がりながら試行錯誤しています。これからもよろしくお願い致します。
[Happy Sad / 草野洋秋 プロフィール]
https://www.happysadsong.com/
Happy Sad ホームページ:
- HAPPY SAD / Sound designer Hiroaki Kusano (happysadsong.com)
作曲作詞、歌、楽器演奏、録音、ミックスまで一人で行うというスタイルで活動する サウンドデザイナー/シンガーソングライター。2013年、表参道ヒルズにて開催されたMTVとLenovo 主催のクリエイターコンテスト「CO:LAB」にて、自作曲 「Everyday」が国内DJ部門優勝/ファイナリストに選出される。
並行してゲーム作品のサウンドクリエイター職として多数の作品でサウンドディレクションとサウンド制作に参加している。
(Netease Games, Funplus, NHN Playart株式会社, 株式会社スタジオキング,
株式会社ノイジークローク等のゲームパブリッシャーやサウンド制作会社においてサウンドディレクター/サウンドデザイナーとして数多くのコンテンツ制作に関わる)
近年では、CM広告音楽やTV番組BGM、海外アーティストの楽曲リミックス制作等にも参加。BGMや効果音の制作、映像に対して音を付けるMA作業、そして作品全体のサウンドイメージを提案 / 映像側や企画側の要望をヒアリングして音に落とし込むサウンドディレクション業務を包括的に対応。