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フィッシュマンズ「コーデュロイズ・ムード」について初めてちゃんと語る

少しだけ時間ができたので止まっていたnoteを書きたいと思います。
2024年夏、なんとフィッシュマンズの「ごきげんはいかがですか」が地上波ドラマのテーマ曲として使われています!フィッシュマンズがデビューしてから33年前には予想できなかった展開、「映画フィッシュマンズ」が公開してからのこの数年はさらに加速化しSNSとかでいろんな人が普通にフィッシュマンズをごく普通に語っているしこんな世界線があったのか〜!というまるでSF的な、アニメみたいな、正にナラティブな存在になりました!

そしてこの「ごきげんはいかがですか」が収められている1991年冬にリリースしたミニアルバム「Corduroy's Mood〜気分はコール天」についてあまり触れられていない、書かれている機会があまり無いのかなと思っていたりしました。同じ年の5月にリリースされたデビューアルバム「Chappie Don't Cry」に比べてもパブリシティ記事も少ないしその頃に関わった人たちも少なかったので仕方がないと思います。そこで当時関わることができた数少ない人間であり、あの頃は駆け出しの下っ端宣伝マンの立場からではありますが、覚えていることや今だから推察出来ることなどまぜこぜにはなりますが書き留めておきたいと思います。

最初にとても個人的な意見になりますが、小玉和文さんのプロデュースする「Chappie Don't Cry」前の段階として初期のフィッシュマンスという原型みたいなものがあります。「Corduroy's Mood」に収められた楽曲はとてもその原型のようなものに近いのです。小玉さんに鍛えられる前の初期のフィッシュマンズのサウンドというのは世に出た音源で言えば2005年にリリースされた「空中 ベスト・オブ・フィッシュマンズ」のディスク2に収められた「ひこうき (Studio Demo 1990)」バージョンがそうだったのですが現行のCDではディスク2はついていないのかな?これはいわゆる「りぼんデモ」と呼ばれる1990年春にハカセが初めてフィッシュマンズに参加した時期にマネジメント事務所であったりぼんと音楽出版社のフジパシフィック音楽出版が共同で制作したもの。「ひこうき」の他には「ワンダラーズ」「FUTURE」と言った曲のデモが制作されていて、自分もヴァージン・ジャパンに入社して初めてフィッシュマンズのサウンドを初代ディレクター山本氏に聴かせてもらったのもこの3曲のデモ音源です。

当時の小玉さんのインタビューでも発言のあった「まるでユーミンみたいな楽曲だった」「バンドの演奏はティン・パン・アレイみたいだった」と言う表現。ハカセの参加によりキーボード・パートを加わったことで「Panic Paradise」時のサウンドからより発展した高度な演奏が可能になっていたこの時期のデモ、他にも1990年夏に一口坂スタジオで録った「Walkin'」などのデモ音源も存在するのですがそのあたりの音源については先日の公開されたフィッシュマンズTVで発表された「The History of Fishmans(4枚組)」でも収録されるのではないかと思います。

話がそれましたが「Corduroy's Mood」の収録曲はその原初期フィッシュマンズが出していたサウンドにとても近いのです。そしてデモ時代からさらに小玉さんとのセッションで培ったロック・ステディなどのカリブ海系グルーヴをブラッシュアップさせた、後のフィッシュマンズの長い歴史につながる基礎体力的な表現をこのミニアルバムで会得したのではないかと個人的に考えております。1曲づつ見ていきましょう。

1.「ごきげんはいかがですか」
2024年夏に於いてフィッシュマンズ2曲目のタイアップとなる地上波連続ドラマ『飯を喰らひて華と告ぐ』主題歌として使われることになった隠れた名曲。どうやら監督の方がフィッシュマンズ好きでタイアップに至った模様ですがかなりマニアックな趣味ですね。この曲は元々はデビュー時のプロモーションで埼玉のFM局NACK5の音楽番組「MUSIC BLOOPER」に出演する際に佐藤くんが描き下ろした曲が元ネタとなっていたはずです。その時は「ごきげんはいかがですか〜」から「ラジオ好きなラジオ好きなあの人は♪」までだったと思いますがちゃんと続きが書かれた時はびっくりしました。そしてさっそくハカセのオルガンが活躍します。この曲のオルガンの音、他のフィッシュマンズのアルバムでは聴けない独特なサウンドをしていてレコーディング現場にいたわけではないので確約はできませんがハカセがこの頃手に入れてよく使っていた日本の老舗楽器メーカー、エーストーン社のビンテージなオルガンのサウンドなのではないかと予測します。そして曲全体に通底するビートルズ的なムード、佐藤くんがビートルズ好きをストレートに表したのもこの「Corduroy's Mood」から「100ミリちょっとの」「King Master Gerge」まで続くこの時期のフィッシュマンズならではの特徴なのではないかと個人的に思うのです。

2.あの娘が眠ってる
1990年秋頃からライブで演奏されていた小嶋くんの曲。この「Corduroy's Mood」でレコーディングされるまでずっと小嶋くんが歌っていた気がします。「土曜日の夜」とかもそうですが小嶋くんの曲は独特なフォーク・ロック的な手触りがあったのですが今回の初めてレコーディングされて佐藤くんのヴォーカルに変更されました。ギターのカッティングリフは最初から変わっていないですがリスムセクションが大きく変わった印象があります。この曲のようなバウンス系ビートは当時のフィッシュマンズのライブではごく普通に演奏されたリズムパターンでしたが、フィッシュマンズでレコーディングされたのは初めてだったので「Chappie Don't Cry」から聴き始めた方は驚かれたかとも思います。特に譲くんのベースが小玉さんとのセッション以降は明らかに変わりました。この頃は自分も直接宣伝プロモーションを担当していたのでよくメンバーと話す機会も多かったのですが譲くんがよく「アッパーなビートについてはわかったんですよ!」と語っていたのを覚えています。中間部の小嶋くんのウォームなトーンのギターソロや佐藤くんのコルネットソロもこのアルバムならではの味わいでこのミニアルバムを代表するトラックと言えるでしょう。

3.むらさきの空から
この「Corduroy's Mood」を全体的に覆うアナログ的でウォームなサウンドメイク。レコーディングプロセス自体は実際には立ち会っていないのでわかりませんがディレクターの山本氏とは当時よく会話しておりアナログレコーダーを使った云々の会話をした記憶があります(もう随分前のことなので記憶が定かではありません)。この感触は3年後の「ORANGE」でも再び現れますが、前期のフィッシュマンズは楽曲の方向とサウンドプロダクションについてある一定のトンマナがあったように個人的に思えてなりません。「むらさきの空から」はそれまで全く演奏されたことがない楽曲でこの冬のミニアルバムに向けた描き下ろしの新曲でした。4ビートのリズムとエレクトリックとアコースティックピアノを重ねたサウンドは、ハカセが加入してからのフィッシュマンズの特色であり、前作「Chappie Don't Cry」での「ピアノ」から始まった、佐藤伸治がハカセとのコラボレーションを前提としたこれ以降のフィッシュマンズの楽曲制作の一つとなっていくコンビの加速点となった楽曲ではないかと個人的に思います。ここでも佐藤くんのコルネットソロも聴かれますがその後の後半部の欣ちゃんも加わったコーラスワークなどとても王道ポップスな展開はフィッシュマンズが本来持っているポップさを体現していると思います。

4.救われる気持ち
佐藤伸治とハカセとのコラボーレーションはさらに進みます。この曲もこのミニアルバムのために新たに書き下ろされた楽曲、さらにくぐもったようなハカセのピアノと佐藤くんのヴォーカルによるクロージング曲はその後もずっと歌われ続け佐藤くん亡き後も「フィッシュマンズのアンセム」として現在の世代にも知られる楽曲となっています。「Chappie Don't Cry」がそれまでのインディーズ活動期に書き溜めていた楽曲で構成されていたことに対しこの「救われる気持ち」は佐藤くんが目指していた普遍的な恋愛についてのピュアな想いをフィッシュマンズで最初に形にした楽曲だったのではないかと個人的に思います。どこかでも書きましたがフィッシュマンズの所属事務所の社長である奥田義行さんもこの曲に大きな感銘を受け、RCサクセションの名曲「スローバラード」と対比しながら言及されていたことをよく覚えています。

というわけで自分の主観で長々と書いてみましたがこの「Corduroy's Mood」が持っているサウンドの感触が原初期のフィッシュマンズの形をとてもよく表しており、小玉さんによって強化されたロック・ステディ・スタイルと表裏一体となっているわけであります。そしてこの年の夏頃にライブPAとしてのZAKと出会いまた新たな変化を起こしていくわけです。

https://note.com/hiroaki_kashimi/n/n0a46d5138099

同じ頃、当時FM局を中心にしたラジオプロモーションを担当していた私はフィッシュマンズの最初のレギュラーラジオ番組「ヨコワケできめて」を獲得し、これも別の意味で後のフィッシュマンズに大きな影響を与えることになるラジオディレクター、現音舎の横田太朗さんとコネクトすることになります。ここから「100ミリちょっとの」そして「King Master Gerge」への流れは、川崎大助さんの著書「僕と魚のブルーズ 評伝フィッシュマンズ」でも時間軸が整理されていない時代ですが、「世田谷3部作」の前からフィッシュマンズのクリエイティブはずっと変わっていないことを示した重要な時期ですのでこれについてもいずれ定義していきたいと思います。

このミニアルバムがリリースするタイミングで埼玉のFM局NACK5で30分のスペシャル番組を企画した記憶があります。メンバー全員が出演して「冬の季節に聴くフィッシュマンズ〜気分はコール天」的なものだったと思いますが予想通りメンバー全員が喋らなくて盛り上がらなかったような記憶があります。この番組、誰か録音残しているひといないかなあ?


最後まで読んでいただいたありがとうございました。個人的な昔話ばかりで恐縮ですが楽しんでいただけたら幸いです。記事を気に入っていただけたら「スキ」を押していただけるととても励みになります!