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アートってなんだろう(1)

インスパイア

前の記事に書いたようにデジタルカメラの技術革新によって、誰でも簡単に上手な写真が撮れるようになってきました。アーティストとしてそのテクノロジーを使わない手はないのです。が、「ファインアートフォト」(芸術写真)とは何か?ということを理解しないといけないのです。

何事もそうですが最低限の知識が必要なのです。海外のキュレーターやギャラリスト、イベンター、出版社(以降プロフェッショナル)から良く聞かれる質問があります。それは「アートの世界でのあなたのポジショニングは?」「あなたがインスパイアされた作家は誰ですか?」などです。それに対してさっと答えられないといけません。

よく聞く意見として「私は誰の影響も受けてない、私は自由な表現をしているのだ」というアーティストがいます。いや、意外と多いのです。だめではありませんが、人間である以上、誰からか何かしらの影響を受けているのには間違いないのです。どうも日本人は誰から影響受けたとうニュアンスが嫌いな人が多く、自由な表現と簡単に独自性を訴えますが、海外のキュレーターやギャラリストがそれを聞くと少し顔をしかめます。「中身のない薄い奴だ」と言わんばかりに。

歴史に学ぶ

海外でプロフェッショナルの方に自分の作品を評価してもらい、できれば美術館やギャラリーで展示し、販売してもらうということは、お金がからむ話になるので正に真剣勝負となるのです。彼らプロフェッショナルと議論しながら自分の作品のコンセプトを訴えます。もちろん機材のことや撮影技術の話はよほど特殊なものでない限り話題になることはありません。

それらのディスカッションが成立させるためには「アートの文脈」という大きな流れの中で最低限のアートの知識と自分の立ち位置を示す必要があるのです。また、海外のプロフェッショナルは思っている以上に歴史を重んじる傾向があります。

意味不明な現代アート

「そもそもアートって何だか分からない」と多くの人は答えます。確かにそうだと思います。それにはそうなった理由があります。そこでアート、特に現代アートを理解する上で、おすすめの書籍があります。「13歳からのアート思考」末永幸歩著 という本です。分かりやすく現代アートの歴史と、アートとは何かを解説しています。この本の一部の内容を要約した図を示します。


アートの歴史を要約してみた「13歳からのアート思考」より


人類のアートの歴史は見つかっている最古級のものでフランスの「ラスコー洞窟の壁画」が有名です。約2万年前に描かれたものです。その後エジプト、ギリシャ、ローマへと文明とともに独自の進化をしながらつながって行きます。但し、そこまで遡っても仕方ないので、14世紀ころから始まったルネッサンス時代の絵画から話を始めましょう。

当時は「見た通り正確に描く」ことがアートの定義でした。発注者は権力者や教会です。お金のない人にはアートは無縁でした。絵具やキャンバスも高額でした。当時は完成までの時間もかかっていました。レオナルド・ダ・ビンチの「最後の晩餐」など10年の歳月を費やしていますし、それにかかる人件費や様々な経費も相当高額になっていたことが予測できます。

また権力者から依頼は肖像画がほとんどでした。見た目以上に美しく「神のように」描く能力が要求されました、「私は神に一番近い存在」と言わんばかりです。ベルサイユ宮殿に飾られている多くの絵を見ても納得できます。

ルイ15世の肖像画 正に神のようです


絵画と写真の深い関係

西暦1900年ころから写真が大衆化されます。これはアートの世界において衝撃が走ったのです。「見た通り正確に描く」ということに対して、プロの画家でさえも勝てなくなってしまったからです。しかも絵画に比べ安価で、数日で完成します。神のようにあまり盛って表現できない欠点はありますが、誰もが新しいもの好きなのは時代を超えて変わりません。画家の仕事はあっというまに写真に奪われて行きました。彼らにとって正に「万事休す」でした。

起死回生の一発!

マティスやピカソなど有名な画家も失業の危機に襲われました。私は仕事の関係でバルセロナに行くことがありました。訪れる度にピカソ博物館を訪れました。そこの展示を見るとよく分かるのですが、ピカソの若いころの作風は写実性に優れた「上手」な絵画でした。

ところが写真の登場と同時に、例のキュビスムに突然変異しているのです。対象を分解し様々な方向から見たものを、再度統合し独自の多眼視的かつ立体的表現手法を生み出しています。(キュビスムとは立体という意味)これはレンズをひとつしか持たないカメラにはできないことでした。

大事件

当時のアーティストは写真の登場で失業の危機に陥り、その結果、絵画でしかできない表現を生み出したのです。彼らは「見た通り正確に描く」という何世紀も続いた規制概念からアートを解放をしたのです。

そして1917年、アートの世界で歴史的大事件が起こります。(続く)



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