苦しい時、小さな親切にもの凄く救われた話
私の職場には某警備会社から出勤している警備のおじさんがいる。職場の人からは「隊長」という愛称で親しまれている。隊長は優しくてフランクな人だ。朝会うと、「ウッス!今日もよろしくね!」と元気の良い挨拶をしてくれる。
朝出社すると、職場は、「これから仕事だぞ」という緊張感ある空気に包まれている。新入社員である私はその空気に少し圧倒されてしまう。周りの人はみんな年上だし、怖そうな上司もいるため、気軽に話すことが出来ない。
だから隊長のような直接仕事と関係ない人だと気軽に話すことが出来た。毎日わずか2.3分ぐらいだと思うが、私にとってはそれが職場での小さな楽しみだった。心の拠り所だ。
ある木曜日。仕事に行くのが一段と憂鬱だった。
電話でお客さんに怒られてしまったこと。ここ最近新入社員が辞めていってしまっていること。2年目以降になると営業ノルマがきついこと。
何事にも強く反応してしまい、不安になってしまう私は、うつむいたまま電車に乗った。
「今でさえ会社に行くのが精いっぱいなのに、この先仕事を続けることが出来ないんじゃないか」という気持ちがよぎった。
でも会社では気丈に振る舞ったつもりだ。新入社員は元気さが求められているし、先輩の前で「仕事は不安で」なんて言えないと思ったからだ。
かの有名な「入社1年目の教科書」にも1、年目は仕事の成果ではなく、人として当たり前のことが出来るかだ、と書いてあったことも意識していたのかもしれない。
表面的には明るく振る舞って、でも内心は大きな不安を抱えていて。そんなことから、精神的にいっぱいいっぱいになってしまった。
そんな時に隊長にバッタリ会った。「ウッス!」という声と共に私に缶コーヒーを差し出してくれた。「内緒だぞ」と言いながらいたずらな笑顔を受けてくれた。
おそらく私が少し落ち込んでいたのが分かったのだろう。
私は思わず泣きそうになった。自分のことを気に掛けてくれて、支えてくる人がいることに感謝の気持ちを持った。
私は思った。
「苦しい時に自分に支えてくれる人を大事にしよう」「困っている人が周りにいたら、その人を元気づけよう」
隊長は新入社員の私に大切なことを教えてくれた。
自粛期間が終わったら、一緒においしいお酒が飲みたい。
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