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睡眠を削って生きる

 会社勤めをしていた4年前まで、夜、ベッドへ入るのは午前2時過ぎが当たり前だった。頭がいちばんが冴えるのが2時くらい。典型的な夜型だった。

 起きるのは午前7時。犬の散歩をして、たしか、8時前に家を出て会社へ向かった。35歳から勤めた会社は毎朝9時30分の出社だったから、いつも睡眠不足である。

 かといって、週末に寝不足分を補っていた記憶はない。休みがうれしくて早々と目が覚め、好きなクルマで出かけていた。

 会社は漫画の出版社だったので、睡眠時間が短いのは当たり前のような気持ちだった。「シュラバ」と呼んでいた締め切りまぎわのあわただしい時期になると、締め切りに間に合わせようと、寝ないで原稿に向かって絵を描く漫画家さんたちが少なくない。

 女性の漫画家さんたちは、きちんと締め切りに間に合わせる方たちが多かった。中には締め切りから仕事をはじめる女性の漫画家さんもいた。

 男の漫画家でも、締め切りをきちんと守ってくれる人を担当した記憶はあまりない。シュラバになると、漫画家さん本人はもちろんだが、アシスタントさんたちも寝ないでがんばった。

 担当したある漫画家さんは、「30分だけ寝かせてください」といって、太り返った身体を汚れた部屋で横たえ、たちまち眠ってしまう。デッドラインは迫っていても「ダメだ」とはいえなかった。ずっと寝ていないのに、30分たつと、むっくり起き上がり、原稿に向かうのである。

 彼は40代で死んでしまった。睡眠時間を極端に削っての仕事が寿命を縮めたとしか思えない。運動不足もあったろう。
 いまでは、漫画家さんの仕事の環境は劇的に改善した。それでも、やはり、睡眠を削って作品を仕上げている夜型人間はあとをたたないのではないか。

 午前4時、かなたに最近、建った高層マンションでは、いつも寝そびれている部屋がある。いまや、ぼくはその時刻に目覚めている。

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