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思い出せない40年前の夏

 外出のしたくに手間取り、朝の散歩がいつもより30分遅い出発になってしまった。外は太陽が照りつけて暑い。9月もなかばだというのに、あいかわらずの猛暑だ。ほんとうかどうかわからないが、子供のころから、秋のほうが陽射しは強いと聞かされてきた。

 たしかに、秋の陽射しには鋭さを感じる。去年も9月のなかばまで暑かった記憶がある。「暑さ寒さも彼岸まで」という昔からのことばをあらためて噛みしめた記憶があるからだ。それにしても、去年はこれほどの暑さではなかったと思う。

 6時の出発だったせいで、この夏、一度も顔を見ていなかった散歩の常連さんと逢えた。かわいい女の子のダックスフンドを連れた40代の男性である。引っ越してしまったのかと思えるほど久しぶりだった。連れているダックスは、ますますかわいく成長していた。

 久々のあいさつをかわしたとき、彼が、「朝晩は少し涼しくなってきましたね」といった。今朝は真夏なみの暑さだが、たしかに、秋を感じる日もある。犬を飼っていると、暑さには敏感になる。きっと、彼もひたすらかわいいダックスのために涼しさを待っているのだろう。

 だが、次のことばに、「え、そうだったっけ?」と思ってしまった。「40年ばかり前、ぼくが子供のころの夏はいつもこんなでしたよね」という。「昼間は暑いけど、朝夕は涼しくなる。それが夏でしたよね」と——。

 9月なかばの陽気をいっているのか、それとも今年の猛暑の夏をいっているのかまでは聞きそびれた。40年前というと、ぼくが40歳くらいのころである。あのころの暑さや寒さはまったく覚えていない。

 父親になった年、1990年の夏がひときわ暑かった記憶は鮮明だ。その年がとりわけ暑かったのか、それとも、新生児を抱いて過ごしたからなのかは判然としない。40年前とて、まったく記憶が途切れている。ただ、今年の夏の暑さはやはり異常だと思う。

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