見出し画像

面倒だけどありがたい消防点検

 マンション住まいの便利さのひとつが、年2回の「消防設備点検」である。この日は、業者さんがそれぞれの部屋をまわり、火災感知器は正常に動作するかとか、消化器の点検などを数分ですませる。どうやら、消防法という法律にそった決まりらしい。

 一軒家住まいだったら年に2回も知らない人を部屋に入れなくてすむだろうが、ぼくにとっては、いまのところ、この「消防点検」は実にありがたいイベントだ。このマンションの場合、春と秋に実施されるので、衣替えのいい機会になる。

 もっとありがたいのは、ひとり暮らしでだらしなくなりがちなので、掃除のいい機会となる。ふだんから掃除をきちんとやっている方と違って、ぼくの場合、ウジが湧くほどではないがついつい気がゆるんでしまう。たとえ数分とはいえ、見ず知らずの人が部屋に入るのでそれなりに片づけざるをえない。

 40代、別のマンションに住んでいたころに管理組合の理事になった。分譲マンションだと、持ちまわりで管理組合の理事となって理事会の会議に出るのが義務である。ふだんは知り合えない方たちとおつきあいできるので、けっこう楽しかった。

 消防点検が議題になったとき、理事のひとりが「それは消防法の何条に定められているんだ?」と、舌鋒鋭く質問した。管理会社の担当者は、即座に、「すいません! わかりません!」と大声で謝罪し、土下座せんばかりに謝った。

 質問した彼は、「それでも管理会社か。自主管理だってできるんだぞ!」と追討ちをかけるように激しく責めている。何が起こったのか理解できずにいた。あとでわかったのは、質問した彼が別の管理会社の人間だったことである。

 自分がやられたことを立場が逆になってやっていたのかもしれない。とてもあと味がわるかった。しかし、年に2回の消防点検のほうは、準備こそ面倒だが、いまやぼくを立ち直らせてくれるまたとない機会だから大歓迎である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?