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猫が早朝の廊下を歩く

 去年の夏は、朝5時少し前に散歩に出かけていた。まちがいなく、午前5時前である。なぜ、そんなに早く出かけていたのか、きのうまではわからなかった。しかし、この暑さを体感して、あすは5時に出ていこうと思った。

 ぼくが住むマンションでは、建物の構内での犬の散歩を禁じている。外へ連れ出すときも、抱くか、カートなどへ載せて移動しなくてはならない。住人たちは厳格にそれを守っている。違反して通報されると、たちまち注意を促す勧告が掲示板に掲出される。

 去年の早朝、廊下で猫を散歩させている住人がいた。真夏、同じ時間に何度か見ているので日課らしい。猫はリードもつけずにおとなしく歩いている。犬ではないが、これもりっぱな違反だろう。

 排泄をしているわけではないし、まあ、いいじゃないかと思った。廊下を散歩する猫につきそっているぼくぐらいの年寄りの男性もパジャマのままだ。いちいち管理事務所に通報するなんてヤボなマネはしていない。

 このマンションでは、多くのルール違反が黙認されている。とくに子供がらみの違反には寛容である。ケガをすると大騒ぎするが、どうやらケガをした側に落ち度があったのか、うやむやになってしまったケースもある。

 両親たちが共働きで、学校から帰っても部屋にいてはいけないだろう、おおぜいの子供たちがエントランスホールへ集まってくる。近所の子も多い。おとなしくゲームでもやっていてくれればいいのだが、ホールと廊下を使ってスケートボードをはじめる子がたくさんいる。夢中になるとわがもの顔である。

 中庭ではサッカーがはじまる。掲示に禁止とあっても、管理組合の役員をやっている親たちが堂々と禁を破っている。どちらも、だれかがケガでもしないと放置されたままだろう。

 厳しいのは構内での犬の散歩の厳禁である。早朝、猫が廊下を歩くくらいは見て見ないでいてもいいじゃないかと思う。

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