あの子が野良だったなんて
何事も聞いてみないとわからない。それにしても、自分の思い込みのあまりの外れ方に驚いている。わずかにいだいていた疑問もことごとく氷解した。それにしても、「まさか……」と思うばかりである。
毎朝のように逢い、ぼくが勝手に「ヒメ」と名づけたきれいな子は、この家の飼いネコではなく、10歳を過ぎた野良ネコだという。避妊手術で耳の先が切られた“サクラネコ”になっていない。それに、わがもの顔でいつもこの家の玄関や庭にいる。そこで、てっきりこの家の飼いネコだとばかり思ってしまった。
毛並みもこの子だけは特別である。似た子を、周辺でまったく見ていない。それゆえ、この家の飼い猫と信じきっていた。
疑問はいくつかあった。いつも、外でごはんを食べ、庭にある池の水を飲んでいた。ほかの野良ネコに張りついていれば、ノミなどが移ってしまうだろう。「いいのかなぁ」と、いつも思いながら見ていた。
今朝、イヌを散歩させているご主人を呼びとめ、ヒメの種類を訊いて、最近、死んだ子も含め、このお宅で面倒を見てきた3匹の素性がわかった。ただ、ヒメは子猫のころ、飼おうとしたが、家にいつかなかったという。骨の髄までの野良ネコらしい。
年齢は、死んだノラが10歳の後半、チビは10歳なかばすぎ、ヒメも10歳なかばだという。
ノラはドライフードのごはんを食べるのもやっというほど、口に障害を持っていた。そのため、自分で毛づくろいができなかった。身体にも傷らしきものがあった。ただ、それは病気のためだそうだ。
ヒメを、そんなノラに張りつかせていたのも、ヒメが野良だと聞いてよくわかった。
個性を発揮しながら10年余、3匹はネコとしての生を謳歌してきた。飼いネコが幸せだとはいえまい。3匹のネコたちにとっては自由に生きることこそ何よりの幸せなのである。
死んだノラを引き取りたいなどといいださずにいてよかった。
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