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ともに歩んだ60年

 毎朝の散歩道にはいくつかの保存林がある。そのうちのひとつ、「高木道正山河畔林」では大きな切り株が風雪にさらされている。コナラの老木の切り株である。フェンスに掲げられたプレートによると、4年前の2020年11月に伐採されたという。

伐採は断腸の思いだったろう

 コナラはクヌギとならんで武蔵野の雑木林を構成する代表的な木である。この辺りの保存林には、このコナラがとても多い。秋になれば葉が赤く色づき、丸みを帯びたたくさんのどんぐりの実を落とす。東京・杉並の田園風景のなかで育ったぼくにとっては思い出深い、いとしい木のひとつである。

 最近、秋になるとあちこちの保存林の掲示で、カシノナガキクイムシによる「ナラ枯れ」の危機を見かける。4年前に伐採されたこの老木もまた、ナラ枯れで倒木の危険が生じ、伐採されたそうだ。刈った木の運び出しはトラック12トンにもなったという。

 巨木がなくなり、保存林では日当たりがよくなって若木が育っているそうだ。なるほど、新旧交代は悪いことばかりではない。むろん、だからといってナラ枯れは食い止めたい。

 カシノナガキクイムシは昔からいた虫で、この虫が「ナラ菌」というカビの仲間の病原菌を運んで木を枯らしてしまう。いわば伝染病である。このところ被害が増えつつあるという。この虫が樹幹に侵入したと思われる痕跡を見つけても、木が雄々しく戦っているのか、枯死を免れているのも見ている。

 しかし、4年前に伐採された老木は巨大で、倒れたときの危険から、人間の手で命を絶たれた。保存林を守っている人々にとっては「苦渋の決断」だったという。むろん、相手は木である。ことさら感情移入しているわけではない。

 樹齢は60年と推測されている。ぼくより若いが、同じ時代を生きてきたたわけだ。そして4年前、その役割を終えて永遠の眠りについた。やはり、「おつかれさま」と語りかけずにはいられない。

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