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まぎれもない美男だった

 アラン・ドロンが死んだ。11月生まれの88歳だった。往年の美男も老いてはただの老人でしかない。年をとるというのはそういうことなのだろう。

 アラン・ドロンが来日したとき、当時、芸能記者だったぼくに、多くの女性からさまざまなツテを頼って記者会見に連れていてほしいとの依頼がきた。ぼくが30歳くらいのころだったから、ドロンは40歳のあたりだろう。男の絶頂期でもある。

 日本のテレビでは、ドロンを起用したダーバンのコマーシャルが流れていた。きっと、売れただろうと思う。ダーバンを着れば、ドロンになれたような気になる。似ても似つかない肥満体の男から、半分はウケ狙いもあったのだろうが、わざわざ上着の裏を見せ、ダーバンを着ているといわれたことがある。

 記者会見には、「ドロンなんかたいしたことがない」と主張する女性を伴った。「ジャン=ポール・ベルモンドのほうがいい」という彼女は、ナマのドロンを見たとたんに彼の美貌に魅了され、うっとりしていたのが、いま、思い出してもおかしくてならない。

 記者会見は、かつて、ドロンを単独インタビューしたことがあるという、著名な映画評論家の女性が取り仕切っていた。もっとも、ドロンのほうは彼女をまったく覚えていないようだった。

 だれかが、「いま、何を着ているのか?」と訊ねた。アパレル会社の台本どおりの寸劇だったのかもしれない。待ってましたとばかり、ドロンは何度もうなずき、上着の裏を見せて、「もちろん、ダーバンだ」と答えた。そのしぐさに例の肥満体の男が重なり、ぼくは吹き出していた。

 あのときのアラン・ドロンはとてもクールだった。表情が和んだのは、「何を着ているのか?」と訊ねられたときだけだった。あとは映画『サムライ』で見せた冷ややかなドロンに終始した。美貌の男は、クールに振る舞ったほうがその美貌がさらに引き立つのをよくわきまえていたのだろう。

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