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巨大なドブにも生きものたちが

「台風だけじゃないのよ。ちょっと雨が降るたびに、しじゅう、あふれていたんだから……」と、昔の境川について語ってくれたのは、去年まで犬の散歩仲間だったYさんである。

 どのくらい昔かというと、「わたしがお嫁にきたころ」だという。彼女は、ぼくより三つばかり年長のはずなので、60年ほど昔らしい。

 改修以前、川は蛇行して流れていたという。ぼくが育った東京・杉並の善福寺川が、これも「改修」という名の元に、高い護岸が造られ、とても川遊びなんかできないつまらない大きなドブと化したのが70年あまり前である。

 もっとも、善福寺川があふれたという記憶はない。改修前の善福寺川には、リアカーのタイヤほどの、巨大なウナギが生息していたという。実際に巨大なウナギを見たことはなかったが、そのころの東京の郊外を流れる、自然が豊かな川ならありうる話だ。

 ちょっと雨が降ると、蛇行して流れる境川があふれたというのも、容易に想像できる。川は改修によって蛇行せずに流れるようになり、10メートル近く掘り下げられた。コンクリートで護岸がされ、胸まである金網で仕切られた。ただ、相変わらず、川をゴミ捨て場と勘違いしている人はあとを絶たない。

 したがって、お世辞にも清流とは呼べないものの、多くの生き物たちが環境に適応して生きている。川のそこかしこに中州ができ、夏ともなるとアシがはびこる。むろん、ほかの草花も、感心するほどしたたかにいついて住み着いている。

 町田市の鳥となっているカワセミも珍しくない。清流に住む鳥といわれるだけに、悲しくなる。エサになる小魚は豊富らしい。

 いま、洪水に備えた新しい遊水池が建設されている。この地へやってきた新参者が建設に反対するのは理解できる。しかし、さんざん洪水に振りまわされてきた地元の農家までもが、遊水池の建設には反対のノボリを掲げているのがよくわからない。

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