
したたかな女に対抗する男のずるさ
若い時代を生きていく上で、いちばんやっかいなのが男と女の関係だろう。身近で垣間見てきた男女のあり方でも、つくづく面倒である。
ふたりはどちらも家族思いの男たちだった。ひとりは家が遠いので、平日は部下の恋人と事実上の同棲だった。女は若くして事故死した。自殺とのうわさが流れた。だが、彼は冷静だった。
いま、老いた彼から家族の自慢をされても聞く気になれない。滑稽過ぎて、「あっ、そっ……」としか反応できないでいる。
もうひとりの男の恋人は仕事の仲間だった。経済的に豊かな彼の生活のベースは、奥さんの東京近郊の実家である。世渡りの巧みな彼が、その後、恋人とどうなったかは知らない。何事にも達者な男なので、とっくにうまく別れ、いまは素知らぬ顔で豊かな老後を送っているだろう。
とかく、別れるタイミングを外すと、こんな男と女は、生きているかぎり、ズルズルと続いていく。腐れ縁というヤツだ。夫婦も男と女なので同じだが、道ならぬ、ゆがんだ関係ではなおさら身動きが取れなくなる。
そんな男と女の地獄をくぐり抜けてきた知り合いが、酔いにまかせて教えてくれた。グズグズの関係を長く続ける女(男も同じだという)は、必ずいずれ“浮気”する。そのとき、見て見ないふりなどしてはならない。まして、怒るなど愚の骨頂だそうだ。
関係を清算する絶好のチャンスである。歯の浮くような感懐——たとえば、「人を好きになるなんてすばらしいじゃないか」などといってやる。自分の裏切りで気持ちが追い込まれていた相手はホッとする。意外にも背信を肯定されたからだ。しょせんは“セフレ”でしかない。
あとは慎重に距離を広げ、新しい恋を祝福してやる。別れてしまえればこちらのものである。ただ、その後は決して振り向いてはならないそうだ。せっかくドロ沼から抜け出せたのである。逃げる姿を悟られないような慎重さが必要だという。