わが家はハトの故郷らしい
故郷へ懐古の念をいだくのは、どうやら人間だけではないらしい。鳥たちもまた、生まれた場所をなつかしむ心があるとぼくは思っている。
生まれた場所へ戻っているらしい鳥を最初に見たのは一昨年の秋だった。1羽あるいは3羽のムクドリだった。そこは、毎年、戸袋にムクドリが営巣している家の前である。
電線にとまったムクドリは、いつも戸袋を見つめていた。彼らの風情から、巣立っていった子たちだなとわかる。
マンション住まいのぼくの家の玄関の前にも、北側のテラスから巣立っていったハトが、ときおり、きているらしい。そのハトだという確たる証拠はないが、あのムクドリたちを見ているので、そう思えてならない。
数年前からこのマンションでは、ハト対策に大金を注ぎ込んできた。昨年は66万円をかけた。だが、屋上に設置したトラップで捕らえたのはわずかに17羽だったという。
いつも、構内をハトたちがわがもの顔で飛んでいる。わが家の北側のテラスにハトが巣をかけ、ヒナを育てはじめたのは、ハト対策を実施する前だった。
ヒナが巣立ちしたのを見すまして、テラスを掃除し、ハトが二度と営巣できないようにした。それでもしばらくは、二羽のハトが巣をかけようとやってきた。水鉄砲で追い払おうとしたが、ぜんぜん逃げない。
今年はハト対策で、中庭にある噴水池の水を抜いた。効果は抜群だった。まったくハトを見かけなくなった。それなのに、わが家の北側にある玄関の前には、ときおり、ハトがやってきているらしい。
突然、床が汚れるだけではない。ハトの羽が落ちているからだ。早朝、ドアを開き、ポーチと呼ばれる場所にハトがいないか見ているが、いつもハトの姿はない。それなのに、ハトの羽が落ち、覚えのない泥も落ちている。
わが家のテラスから巣立っていったハトが戻ってきている。帰巣本能が強いハトだけにそう思えてならない。