増水した川をのぞいてみたいが
午後3時、雨が熄(や)んでいる。昨夜から、豪雨という雨ではなかったが、絶えまがなく、下界の見慣れた風景を隠すほど降り続いた。この雨だったら、毎朝、散歩に出かけていく境川の水量もさぞかしふえているだろう。
実際に見たいのだが、川まではおよそ30分かかる。いつ雨になるかわからないのでやめた。若いころだったら、この野次馬は喜び勇んで出かけていたろう。少年時代から台風がくるというと、すっかり高揚したものだった。父もそうだったというから血筋なのだろう。
川を見にいく気がなくなってしまったのは、それだけ老いたのだと痛感する。今朝の9時、ぼくのスマホに「緊急速報」として、「避難指示」の連絡がきた。聞きなれない警報音に驚いたが、さもありなんと思う。
ここ町田市は、多摩丘陵の一部に位置するので、洪水や地滑りの危険のある場所に建つ家もかなりの数を見かける。雪が降っただけも家から出て、あの急坂を降りるのは大変だろうと思ってしまう。ぼくが毎朝、川筋を歩いている境川にしても、その昔はツルが飛来して「鶴間」という地名になっているそうだ。洪水でお寺が何度となく流され、いまは、対岸の高台に引っ越したと川端の公園にあった。
日本橋の老舗の御曹司で、父とはきょうだいのような交わりだった人は、神社仏閣で手を合わせ、「天下大乱、天下大乱」と祈っていた。新妻を遺し、硫黄島で戦死してしまった。「あんなことを祈るもんじゃない」と父はしみじみいっていた。
そんな祈りをしなくても、台風10号の被害は、広範囲におよんでいる。しかも、関東地方もまだ数日は雨が続くそうだ。文字どおりの「記録的大雨」である。これからの24時間だけで、関東地方では150ミリの降水量が予想されるという。
増水した川のカルガモたちが気になるのは、はやり、年をとってしまったからだろう。それだけに、君子でなくても危険には近寄らない。