"整理は伝染する"
整理は伝染する
本業では通信インフラの保守を担当する仕事をしている。通信業界は昔から日々進化を遂げ、新しいサービスや機器が次々と導入されている。その結果、倉庫には役目を終えた機器や、未開封のまま数年、場合によっては数十年も放置された物が散らかっている状態だ。
厄介なのは、会社の物品は個人貸与のものもあるが、大半は共有物品であること。これが問題をさらに複雑にしている。誰もが「誰かが片付けてくれるだろう」と考え、自分の責任ではないと感じる傾向が強い。誰かが片付けない限り、物で溢れかえったこの環境は永遠に変わらないのだが、そうした感覚に慣れきってしまう人も少なくない。
自宅の整理と職場の整理には、明確な違いがある。それは、物の要不要を自分だけの判断で決められないことだ。家なら自分のものだから、何を捨てるか、何を残すかは自分次第。しかし、職場では物の役割や用途、誰が使っているのかといった複数の視点が関与する。そのため、物が溢れる職場環境は、なかなか整理が進まないのが現実だ。
さて、ここ数年よく耳にする「DX」(デジタルトランスフォーメーション)だが、これもまた、職場環境の整理と密接に関係していると感じる。整った環境でDXを進めるのと、物が溢れた環境でDXを推進するのとでは、効果が大きく異なる。新しいツールやシステムが次々に生まれ、効率化が叫ばれている現代だが、もしそのツールを有効に活用するための環境が整っていなければ、効果は半減してしまうだろう。
例えば、便利なツールを使って生成されたデータ。きちんと整理されているだろうか?必要なデータがすぐに見つからない、最新版を探し回ってデスクトップのファイルを漁る——そんな経験は誰にでもあるのではないだろうか?
整理された環境でこそ、ツールやシステムが最大限に活かされる。逆に、物が溢れかえり、情報が散らばっている状況では、せっかくのツールやシステムもその力を十分に発揮できないのだ。DXは便利なツールを導入するだけではなく、それを使うための土台となる環境作りも欠かせない。その意味で、「整理は伝染する」。一人が整理を始めると、周囲にもその効果が波及し、やがて職場全体が効率化される。
実際に、私は職場で整理収納アドバイザーやデジタル整理アドバイザーであることを公言している。最初は「整理なんて他人事」と思っていた人たちも、私が片付けを進める中で、整理のメリットや必要性に気づき始める姿が見られるようになった。すると、まずは自分のデスク周りから整理を始め、次第に共有スペースへとその動きが伝染していったのだ。
整理は個人の問題ではなく、職場全体の効率化や生産性向上にも直結する。だからこそ、一人の意識改革から始めることで、職場全体に良い影響をもたらす可能性がある。整理は、伝染していく。だからこそ、まず自分から始めてみてはどうだろうか。