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【短編小説】バスに乗ったら30年後の未来に行ったお話~第5話~

【第5話~行くしかない!~】


こんにちは~♪ ヒロのしんです。
第4話公開から1週間。第5話の公開となりました。

今は少しずつですが、物語を紡いで行けてます。(*^^*)
(貯金があると、後は公開前に校正を行う程度なので、気持ち楽ですね。)
アイデアは寝る前に。布団の中で練りまくってます(^_^;)

それでは、【バスに乗ったら30年後の未来に行ったお話】
本編第5話スタートです。

【プロローグ~30年前の貴女へ~】
【第1話~彼氏と花火を見に行ってきます~】
【第2話~浴衣じゃないから~】
【第3話~僕の知らない街~】
【第4話~突然の再開~】
こちら👇️


【第5話~行くしかない!~】

頬に伝う涙を愛おしいものにでも触れるように、
優しく拭いながら、
「なんで、俺泣いてるんやろ。ワケわからんわ。こんな気持ち。」

初めてだった。
男の人の、ましてや、大好きな彼氏が
人目も憚らず、大粒の涙を流すところを見たのは。


テーブルの上には、
彼が飲んだペットボトルが置かれたままだった。

わたしには、
まだ彼がそこに座っているように感じていた。

新くんが落ち着きを取り戻すまで、
わたしはずっと彼の手を握りしめていた。

「ごめん、響さん。かっこ悪いとこ見せちゃって」

ようやく、彼は顔をあげた。
無理に笑顔を作ろうとしている姿が痛々しい。

わたしは何も言えず、
ただただ首を振るしかできなかった。

わたしは上手に笑っているだろうか。
彼が好きだと言ってくれた、
満面の笑顔で彼を見ているだろうか。

『ううん。わたしは大丈夫。』
『新くんは?』

「俺ももう大丈夫。何かよくわからん気持ちやけど。」

(やろうね。それはわたしも同じ。)
(わたしの場合は、元カノのことでやけど。)

店を出て、駅の方へと向かう。

『で、これからどうするの?』
「実家って言えば良いのかな」
「まあ、自分の家?に行ってみようかなって。」

「ちょっと、怖いけど。」
最後の方はほとんど呟くだけになっていた。

そりゃ、そうよね。
30年後の未来、自分の家がどうなっているのか。
自分の親は?家族は?そして、自分自身は?

不安でしかない。
自分にとって一番身近な人たち
(自分自身も含めて)の未来を知る、
この目で見ることは、これ以上ない恐怖だろう。

これから行く場所に、どんな現実、いや未来か、
が、待っているか誰にもわからない。

けど、どんな未来が待っていても、
わたしは彼のそばを離れない。
彼を支えて行くんだと、強く心に誓っていた。

『ちょっと待って。』
彼の実家近くまで来たところで、
わたしは彼の手を引き、足を止めさせた。
今、聴いておかないとって、直感だった。

「どうしたん。響さん。」
『聞きたいことがあるんやけど。良い?』

「元カノのこと?」
『それも気になるけど。そっちは今度ゆっくりと聞かせて。』

彼の表情が引き締まる。
「じゃあ、ななのこと?」
『うん。さっき、七瀬くんに対してゴメンって』
『言ってたけど、何かあったの?泣いて謝るくらいのことが』

彼は困ったような表情で首を振る。
「泣いて謝らないとあかんのは、ほとんどあいつなんよね。」
「俺は、いっつもあいつの尻拭いばかりしてるし。」
「けど、あいつの尻拭いするの嫌じゃないんよ。」

わたしは黙って聴いていた。

「高2の時、クラス替えしてあまりしゃべり相手が」
「いなかった俺に、あいつは一番に声をかけてくれた。」
「話してみると、あの通りいい加減なやつやけど」
「それでも、友達のことを一番に考える」
「ここがめっちゃ熱いやつなんよ。」

と、彼は彼の左胸を叩きながら続けた。

「一浪して、大学に合格したときも、」
「わざわざ家まで来てくれて、いきなり抱きついてくるんやで」
「おめでとう!って、頭をぐしゃぐしゃに撫でながら」

キモいよな。って、最後に彼は呟いた。

『人の幸せを願って、人の幸せを心の底から喜べる人、』
『それが一番人間にとって大事なことだって、わたしは思ってるよ』
『在り来たりかもやけど。』

「そんなことないよ。ありがとう」
と、彼は笑顔で返してくれた。

『七瀬くんと、これからも親友でいてね。』
『さてと、新くんの30年後のおうちに行こ!!』

もう一度私たちは手を繋ぎなおして、
彼の実家へと歩みを進めた。

「さっき、バスの窓から何となく外を眺めてて」
「変な違和感があったけど、こういうことか・・・。」

近くまで来て見てみると、実家の隣にあったはずの民家が
取り壊されており、更地になっていた。
さらにその隣は食堂だったはずなのに、
新しい戸建て住宅が建っていた。

(そっか、新くん、バスの窓からこの景色を見て)
(それで怯えているようにわたしには見えたんだ。)

『でも、良かったよね。おうちあるよ。』
努めてわたしは明るく振る舞った。

緊張の面持ちで、彼は実家へと向かう。
わたしは、その一歩後を手を離さないようにして、
ついて行った。

彼の実家のすぐそばまで来ると、
一人のおばあさんが門扉の向こうのポーチで、
背中をこちらに向けてしゃがんでいるのが見えた。

ごくっ!
アニメでもよくあるような、つばを飲み込む音?
が、隣で立っている彼の喉元から聞こえてきた。

「あの、すいません。ここって。」

【やっぱり、こういう事やったんやね。】
と、そのおばあさんは振り返らず、
独り言を呟いた。

「すいません。僕は・・・」
そこで、彼は言葉を止めた。
多分、何を言ったら良いのかわからなくなったんだと思う。

何となくその気持ちは分かる気がする。
だって、なんて言ったら信じてもらえるんだろうか。
30年前からやって来ましたって、
普通に考えて、頭のおかしい人が来たって、
追い返されてしまうだろう。
警察を呼ばれても仕方ない状況やん。

わたしは彼の手をさらに強く握りしめていた。

【新やろ。おかえり。】
おばあさんは、腰を押さえながら立ち上がり、
振り向きながらそう言った。

(えっ?)
「えっ?僕のことが分かるんですか?」

彼の一言目とわたしの心の中での呟きが被った。
(めっちゃ夫婦みたいやん。)

と、またもや変な想像をしてしまい、
顔がにやけそうになるのを必死に抑える。

【あんたねえ。息子の声を忘れるわけないやん。】
【それか、あんたは親の顔を忘れてしまったんかな。】

おばあさんは嬉しそうに話を続けた。

【新、今何歳?】
「は、はい。21歳です。」
「あっ、こちら今お付き合いしてる人で、」
「山崎響さん、って言います。」

(めっちゃ敬語やん。)
と、おどおど彼氏に対して内心で突っ込みながら、

『初めまして、山崎響です。よろしくお願いします。』
と、わたしは丁寧に頭を下げた。

(よし!今度はうまく言えた。)
心の中でガッツポーズをして、顔を上げた瞬間、
おばあさんの顔が一瞬驚きの表情に変わったのを、
わたしは見逃さなかった。

(なに?今の顔・・・)

【そっか、21歳か。ほな、やっぱり30年前から来たんやね。】

(やっぱり?やっぱりって?)
【ひびちゃんもよく来たね。二人とも暑かったやろ。】
【今年の夏は特に暑いから、ほんと大変やわ。】
【家の中は冷えてるから。ささ、中に入ろう。】

(ひびちゃん?)

わたしは二人には気づかれないように、
小首を傾げながら、彼の後に続いて家の中へと入っていった。

玄関を入ると、廊下がまっすぐに伸びてあった。
右手に洗濯機が見えたので、水回りだろうと想像する。
まじまじと見るわけにはいかないので、
横目でちらっと見ただけだけど。

おばあさんが先に歩きながら、左側の部屋の引き戸を閉めた。

【この部屋は見ない方が良いよ。】
【あんたらに関わる未来が多すぎるから。】

(あんたら・・・あんたら・・・あんたら・・・)
呪文の様に、心の中で繰り返し唱えていた。
(あんたら・・・あんたら・・・あんたら・・・)

廊下の先に、ダイニングテーブルが見える。
その手前には、2階へと続く階段。

【新、30年後もこの家はなんも変わってへんやろ。】
【所々、手直しはしてるけどね。】

「うん、そうですね。」
(まだ、敬語やん)

【あと、今日は2階もだめね。理由はさっき言ったとおり。】
そう言いながら、
おばあさんはわたし達をダイニング・キッチンへと
招き入れてくれた。

【ひびちゃんはアイスコーヒーで良かったよね。】
【はい、あんたはお茶。】

キョロキョロと部屋を見回しながら、
彼の隣に腰を落ち着かせていた、わたしは、
「はい!ありがとうございます!」
と起立、気をつけ!の姿勢で答えていた。

【ははっ、可愛らしい子やね。】
【ええ子と出会えて良かったね。新。】

わたしはまたもや恥ずかしさのあまり、
俯くことになってしまった。

【ここキッチン周りは全然変わってへんやろ。】
【って、言われてもひびちゃんにはピンとこんよね。】

『は、はい。そうですね。』

「けど、冷蔵庫は変わった。テレビも。あと」
「金魚鉢?めっちゃ小さくなってる。」
「あの鯉レベルまで大きくなった金魚は死んだん。」

【実感ないかもしれんけど、ここはあんた達からしたら】
【30年後の未来やねんよ。】
【もう知っているとは思うけど。】
【そりゃ、金魚も、ね。】

【ひびちゃん。】
と、おばあさんは突然わたしに呼びかけた。
【怖かったよね。しんどかったよね。】
【でも、もう大丈夫やから】

おばあさんは、優しくわたしの肩を撫でてくれた。

【ひびちゃん、新を支えてくれてありがとうね。】

「あの、お、お、お母さん。」
「元の時代に帰る方法って知ってる。」

(やっと敬語がおさまってきた。)
それは、目の前のおばあさん?
いや、お義母さんも気づいたようだった。

【お母さんって、いつも通りオカンで良いわよ。】
【けど、孫と同じ位の年の子からオカンって言われるのもね。。。】

って、
小声で呟いたのをわたしは聞き逃さなかった。

【ま、お母さんでもオカンでもいいわ。】
【帰る方法は簡単。】
【さっき降りたバス停からもう一度同じバスに乗って】
【二人が乗ってきたバス停で降りる。ただそれだけ。】

「それだけ?」
『それだけ?』

またもや、シンクロ。
ほんと、嬉しくてにやけてしまう。

「けど、同じバスってどうやって見分けるの」
もっともな疑問だ。
わたしも同じ疑問を抱いていた。

【それも簡単。】
【バス停に着くとすぐに、誰も乗っていないバスが来るはずだから】
【それに乗れば良いの。降りる場所さえ間違わなければね。】
【で、乗ってきたバス停で降りると元の時代に戻ってる。】

『あっ、そうか。』
(そうだった。確かあの時も)

【そう、ひびちゃん。さすがやね。何かに気づいた?】

『この時代に来ることになった時も、』
『最後、バスにはわたし達以外誰も乗っていなかったやん。』

(そうだったのか。バスにはわたし達以外誰も乗っていなかった)
(そしてあの橋を渡る瞬間、何かの衝撃があって・・・)

「ほんとに、ただそれだけで。」
彼はまだ半信半疑のようだった。

【疑り深いのは相変わらずのようやね。】
【そんな性格のままやったら、あんた】
【ひびちゃんに逃げられちゃうよ。】

ぷっ!思わず口に含んでいた
コーヒーを吹き出すところだった。

「そ、そんなこと、ないよね。」
彼はふてくされたような顔でわたしを見つめる。

『どうかな・・・ははっ。』
笑うしかなかった。

【もっと、素直になりな。】
【ひびちゃんも、自分を変えたい、素直になろうって】
【努力してたみたいやし】

(えっ?どうして、それを・・・)
(もしかして、もしかして。)

「えっ、そうなんや。ごめん、俺も頑張るわ。」
【はい、素直でよろしい!!】

【あとは、今日中にはそのバスに乗らないと】
【二度と元の時代には戻れないみたいよ。】
【なんだか、シンデレラみたいやん。ロマンチック。】

「70代のおばあさんが言うことか。」

完全復活!親に悪態をつけるようになったやん。
よしよしと、わたしは我が子の成長を見守るような
母親の気分で彼の横顔を見ていた。

【で、ここからが一番大事な話。】
【あんた達二人に絶対に伝えなきゃならない事ね。】


第6話に続く・・・。

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