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【短編小説】バスに乗ったら30年後の未来に行ったお話~第4話~
【第4話~突然の再開~】
こんにちは~♪ヒロのしんです。
それでは、【バスに乗ったら30年後の未来に行ったお話】
本編第4話スタートです。
今回は少し長いお話となっております。
最後までお付き合い頂けますと、めっちゃ嬉しいです♫
【プロローグ~30年前の貴女へ~】
【第1話~彼氏と花火を見に行ってきます~】
【第2話~浴衣じゃないから~】
【第3話~僕の知らない街~】
こちら👇️
【第4話~突然の再開~】
彼は、
わたしが差し出した新聞紙の日付欄を目を丸くして見ている。
バスを降りてからずっと不思議な事ばかりだった。
彼の態度もそうだし、この異常なくらいの暑さもそう。
そして、歩いてきた街並みやそこを行き交う人たちにも違和感があった。
新聞紙から目をそらした彼はふっと笑った。様に見えた。
いや、ため息をついたのか。
わたしはすでにパニック状態だったし、
よく知っているはずの彼の表情もわからなくなっていた。
その時だった。
【よお、何青ざめた顔してるんや!】
聞き覚えのない声が背後からしてきた。
二人同時に振り返った、そこにいたのは
私たちと同年代らしい、新くんと同じ背丈の男性だった。
わたしはその男性に目を向けつつも、
新くんの背後に隠れるように後ずさった。
新くんの横顔に目を移すと、
今までの沈んだ表情が、パッと明るくなったのがわかった。
「なな!!」
【久しぶりやな!こうさん。】
「えっ、久しぶりって。昨日おまえの家に行ったやん」
【そうやったか。すまん、忘れてしまったわ。】
「忘れたって、お前なあ。まあええか。なならしいわ。」
「あっ、響さん。ごめん。」
新くんはわたしの方を振り返り、
いつもと変わらない、と思う、笑顔で言ってくれた。
「こいつは、俺の高校時代からの親友で」
「七瀬 桂(ななせ けい)。」
「七瀬って名字やから、みんな[なな]って呼んでるんよ。」
「で、俺は神足って名字やからか、何となく[こうさん]って。」
「こちらは、俺の彼女で・・・」
急に紹介が始まり、わたしは焦っていた。
けど、心の奥底では、急に現れた彼氏の同級生のことを
冷静に考えていた。
何で30年前のこの202x年に、わたしらと同じ位の年齢の人が、
わたしらと同じような年格好でおるん?
この人も、時間を旅してきた人??
わたしは新くんと彼の会話を上の空で聞いていた。
案の定、口から出た言葉は、
初対面の人に対する第一声としては最低なものだった。
『あっ。はっ、はっ、初めまして、わたくし・・・あっ、わたしは・・・』
【響ちゃんでしょ。】
【響ちゃんも久しぶりやね。】
鳩が豆鉄砲を食らったような、と言うけれど、
その時のわたしは、いやわたしだけじゃなく、
新くんもそんな顔をしていた。
「な、な、なんで、久しぶりやねん。響さんを紹介するの初めてやろう。」
半分は怒ったような、半分は怖がっているような、
そんな声色だった。
新くんのこんな声聞いたことない。
わたしは、唖然として二人を見ていた。
【俺の悪いとこやな。こうさんに久々に会ったから】
【めっちゃ嬉しくって、つい調子に乗ってしまったわ。】
【詳しいことは・・・。俺が何でここにいるかとか。】
【そやな。そこのイートインででも話そうか】
【それよりふたりとも、喉渇いてるやろ。今日なんてめっちゃ暑いしな。】
【ジュースでも買ってきたら。】
【俺、そっちで待ってるから。】
彼は、そう一気にまくし立てるように話すと、
手を振りながら、ベンチに座った。
新くんの表情はまだ固いままだったけど、
無理やりに笑顔を作り、わたしの手を握って言った。
「何だか驚かせちゃったね。ごめん。」
わたしは何も言わず、首を振った。
「さてと、あいつが何を言い出すかやな。」
ぼそっと、独り言を呟く新くん。
そうだ、あの人のことはよくわからない。
ほんと、何となくだけど、得体の知れないもの?
こんなこと、新くんの親友に対して思っちゃダメかもだけど。
初対面だからってわけじゃなくって、雰囲気自体が何となく普通じゃない。
見た目や話し方とかではなく、
もっと根本的な人としての普通が感じられない。
うまく言えないけど・・・。
それよりも今はもっと切実な問題があった。
30年後?の未来で30年前のお金が使えるかどうか。
ああ、ややこしい。
とにかく、わたし達の時代のお金がこの時代でも流通しているのか、
これ使えなかったら、最悪じゃない。
その考えは新くんも同じだったようだ。
「これ使えます?」
と言いながら、
恐る恐る財布から100円硬貨を数枚を取り出していた。
店員さんは、何も言わず受け取り、
お釣りとレシートを受け皿に置いた。
新くんは首を傾げながら、
お釣りとレシートをズボンのポケットに押し込んでいた。
「この店って、袋くれへんのかな。」
『ほんまや。いつもは何も言わずに袋に入れてくれるのにね。』
と、わたしも同じように首を傾げる。
わたしに買ってくれた、
缶コーヒーを「ちょっと持ってくれる」と言いながら、
新くんはポケットからレシートだけを取り出して眺めていた。
「やっぱりね。」
半ば諦め顔の新くんを見つめながら、
わたしも『そっか。やっぱ、そうやったんやね。』
と呟いていた。
テーブルにつくと、
「ほい。ななの好きなやつ。」
そう言って、新くんは彼の前に、
真っ黒で有名な炭酸ジュースを置いた。
【おっ!覚えてくれてたんか。さすが、こうさんやな。】
【相変わらず優しいし、良い男や!!】
そして、新くんの横に腰を落ち着けたわたしの方に向き直って、
【響ちゃん、こうさんのこと絶対に手放したらあかんで。】
【こんなやつ、なかなかおらんし。】
と、笑いながら言った。
言葉そのものは笑っているように聞こえたけど、
わたしには泣いているように感じた。
「で、やっぱり。ここは202x年の8月やな。」
ぶっきらぼうに新くんが話し出す。
話しながら、強く手で握ってしまっていたからか、
くちゃくちゃになったレシートを彼の前に差し出した。
[202X年8月3日]と、
印字されているレシートをちらっと横目で見ながら、
【そうやな。けど、まずは頂きます、からやで。ありがとう。】
彼が一気に炭酸ジュースを飲み干す。
【ああ。美味し!この味も久しぶりやわ。】
またもや、わたしと新くんは目を合わす。
ほんと、驚きっぱなしだ。
そんなに珍しいもんではないはずなのに・・・。
この世界で、
見るもの、聞くもの、味わうもの、感じるもの、
この人にとっては全てが久しぶりなのかもしれない。
わたしは心の中で、そんなことを考えていた。
だから、普通には見えないって思ってるの?
そう考えながら、わたしも新くんに、
『ありがとう。頂きます。』
と言って、とコーヒーを口に含んだ。
「もう一回聞くけど」
「ここは、この世界は、202X年の8月3日って。」
「まあ、信じたくはないけど、ほんまなんやな。」
新くんは大好きなはずの、ミルクティーを口にしない。
話の続きを促すように、彼を見つめていた。
【そう、俺たちのいる今の時代は202X年で間違いないわ。】
【けど。なんで、お前らがこの世界に飛ばされたかは俺は知らん。】
【もっと言うと、悪いけど・・・】
【お前らが元の時代に戻る方法も俺にはわからん。】
「じゃ、なんでお前はここに、俺たちの前に急に出てきたんや!」
(めっちゃ苛立ってるやん)
いつもニコニコ笑顔、時々オドオドしている、
そんなイメージの新くん。
どっちかというと、相手に合わせてばっかりかと思っていたけど。
新くんの意外な一面を見て、わたしは驚きよりも嬉しさが勝っていた。
【そやな。こうさんのピンチやったからかな。】
「へっ?」
『はっ?』
私たちは二人とも、同時に変な声を発していた。
「俺のピンチ・・・って、この状況のことやんな。」
「この訳わからん世界に急に飛ばされてきたってことやんな。」
【そりゃそうやろ。】
【こんなこと、ほんまに一大事やで。】
【しかも、こんな可愛い彼女まで一緒にやねんから。】
はっはっはーって、場違いな大笑いをしながら、
彼は続ける。
(新くんもそうやけど、友達までストレート過ぎるわあ)
わたしは恥ずかしさのあまり、顔が真っ赤になっていくのがわかり、
コーヒーを飲みながら、心を落ち着かせようとしていた。
【そう、ピンチ。親友だったこうさんが困っている。】
【何とか手助けしたい、って思ったらな。】
【気づいたら、この店の前にいた。】
【で、お前ら二人がこの店にいるのを見たから、声をかけたってわけ。】
(だった・・・。今、[だった]って言った。)
ようやく、新くんもミルクティーに手を伸ばし、
一口だけ、喉を潤す程度にペットボトルを傾けた。
「俺のピンチに、ななは駆けつけてくれたんや。」
「あの時もそうやったな。」
「懐かしいな、つい3年ほど前やのに。」
【やな。けど、俺にとっては・・・】
わたしの知らない彼ら二人だけの思い出なんだな。
(えっ、今[けど]って言ったよね。)
(けど?けど?もしかして・・・)
彼ら二人だけの思い出。思い出って過去の一部分、過去の時間。
時間?時間って過ぎていく、過去から未来へと。
けど、未来の世界では・・・。
(もしかしたら・・・七瀬くんって。)
そこで、唐突に話題が切り替わった、いや、そう思ったのだけど。
【こうさん。俺の名字言ってみて】
「名字って、[七瀬]やろ、何を今更。」
【そう、[七瀬]。名字に漢数字の[七]がついてる。】
【で、こうさんの名字は[神足]】
【だから、俺は神のピンチに現れる七番目の使徒、ちゅうわけやな。】
「はあ。」
『へえ。』
今度もまた、わたしと新くんは同時に声が出た。
何だかさっきとは逆のようだが、そこは気にせずにおこう。
【まっ、とにかく俺はこうさんのピンチに遣わされた】
【守り人みたいなもんってことで、よろしく!!】
「よろしく!じゃないって。意味分からん。」
【意味分からんでも良いって。ただ、】
『ただ?七番目ってことと関係ある?』
つい、横やりを入れてしまった。
この後に続くだろう彼の言葉。
そこには、めちゃくちゃ重大な告白が隠されているような気がしたからだ。
彼はわたしの方に視線を移し、
【さっすが、響ちゃん。するどい!】
「響さん。ななの言ってる意味、わかるの。」
今にも泣きそうな、いや悔しそうな新くんの表情に、
場違いにも吹き出しそうになる。
『何となくだけど』と、言葉を濁す。
(ついつい横やりを入れたちゃったけど。)
(やっぱ、わたしの出る幕じゃない。)
これは、彼ら二人の問題。
違う、新くんとおそらく最低七人はいる使徒?って人たちのお話。
そこにわたしの入る余地は今のところないんだろうね。
【響ちゃんの言うとおり。俺は、七瀬家は七番目なんよ。】
【あー、あと、六番目は確か・・・。そやな・・・。】
【俺も最近知ったんやけど。】
【響ちゃん、ごめんね。ちょっと嫌な思いするかも。】
と、彼は前置きをしたうえで、さらに続けた。
【こうさん。高校時代のお前の彼女、菜穂ちゃんの名字は?】
「ろ、六波羅(ろくはら)・・・。」
『えっ。』
(と、声を出したけど、何となく想像はついていた)
(元カノとは思わなかったけど・・・)
(元カノ、元カノか・・・六波羅菜穂さんとはキスとかしたんかな。)
と、こんな大ピンチな状況にも関わらず、
超個人的なこと、嫉妬も含め、を考えていた。
【思い出してみ。こうさんがこれまでに出会った中で】
【名字に漢数字がつく人らのこと。】
「うん」と新くんは深く頷いていた。
【で、今回の俺みたいに】
【その人らにとってもその時が来たら、ってことみたいやね。】
【タイミングがいつかってこと、ただ、それだけ。】
【あと、帰る方法は俺にはわからんって言ったけど】
【こうさんにとって大切な場所てか、帰る場所かな。】
【そこ行ってみて、話を聞いたら良いんちゃうかな。】
【俺よりも全然頼りになると思うで。】
と、彼は一方的に言い切った後で、
指でブイサインを作って二カッと笑った。
(なんでブイサインやねん!)
思わず、心の中で突っ込んでしまった。
【じゃ、俺は帰るわ。こうさんに久々に会えて嬉しかったで。】
【あっ、最後に。】
【元の時代に戻れたとして、いや、絶対に戻れるとは思うんやけど】
【その時代の俺にこの話をしても絶対に覚えてないからな。】
【あと、響ちゃんのこと、ちゃんとフォローしとけよ!】
と言うが早いか、唐突に彼は立ち上がり、
店の外へと歩き出した。手を振りながら。
店の外へ消えていく彼の後ろ姿をわたしはただ眺めていた。
新くんは彼が出ていったあとの店のドアをじっと見つめていた。
『行っちゃったね、なんだか七瀬くんの勢いにのまれちゃった。』
(ほんとは、元カノの話とか3年前のピンチの話とか聞きたいけど)
(今はその時じゃないよね。)
と、彼の方に顔を向けたその時だった。
「なな・・・ごめんな。」
(えっ)
彼の目から涙がこぼれ落ちるのを見た。
「えっ。」
「俺、今なんて・・・言った。」
彼の声が震えている。
『新くん・・・なんで、泣いてるの?』
わたしは彼の背中にそっと手を置いた。
その時になって初めて、
彼は自分が泣いている事に気がついたようだった。
頬に伝う涙を愛おしいものにでも触れるように、
優しく拭いながら、
「なんで、俺泣いてるんやろ。ワケわからんわ。こんな気持ち。」
初めてだった。
男の人の、ましてや、大好きな彼氏が
人目も憚らず、大粒の涙を流すところを見たのは。
最後まで読んで頂きまして、ありがとうございました。
少しファンタジー的な要素が入っちゃいましたが、
第3・第4の人物を登場させたかったもんで・・・。
次回、第5話に続きます。