あの頃の東京を思い出す。BALMUNG2025年春夏コレクション
毎シーズン常に新たなアイデアや想いを洋服という形で世に出すファッションデザイナーには、幼少期や青年期に何かしら特定のカルチャーやムーブメントに強い影響を受けている方が多い。楽天ファッションウィーク3日目の夜にコレクションを発表したBalmungのデザイナー・Hachiからは今回、2000年代初頭に流行した東京のサブカルチャームーブメントを強く感じた。
今季のコレクションテーマは「movement / circle」。
カルチャーが生み出す運動や流行、人々が持つ価値観、時計や機械なども意味する「ムーブメント」と、円や輪・集合体などの概念を意味する「サークル」。一つの言葉に多くの意味が含まれるこれらを掛け合わせた文言をテーマに設定した。
また、自分にとっては非現実的に映る世界や事柄も、ある一方の人から見たら現実的に見えるという現象も洋服に落とし込んだとデザイナーのHachiは語る。
東京・四谷の普段は撮影スタジオとして使用されるショー会場には、2階建ての鉄筋ランウェイが建設され、コスプレイヤーやDJ、音楽プラットフォームのSoundcloudで人気を博した歌手など、様々なバックグラウンドを持つアーティストたちがモデルとして集結した。
また、今回のコレクションはそのモデル達が2階建てのランウェイから勢い良く飛び降りるというパフォーマンスも観客の注目を浴びた。
メインとなるカラーパレットにはホワイトやグレー、優しいブルーなどの淡い色が多く、そこにビビッドなイエローを掛け合わせた視覚的にメリハリのあるルックが多く登場した。
また、今回はHachiデザイナーの旧友であるアーティストの村田実莉が一部のルックのグラフィック製作を担当し、トランスペアレントなハイネックに近未来的なプリントを施した。
さらに、今回筆者が実は気になっていたアイテムが、アニメや漫画に登場する人型のキャラクターに動物・獣の耳がついているいわゆる「ケモ耳」だ。
SF感のあるグラフィックと「ケモ耳」の存在が今回のルックの世界観をより鮮明に描き出し、没入感とバランスが取れたコレクションを作り上げている。
その他にも、ボサボサの髪型のヘアメイクにオーバーサイズのトップスを合わせた日本の古典的な「オタク」を想像させるルックの数々や、ラージフィットのパンツを腰に引っ掛け、へそまで大きく露出させた「Y2K」を感じるルックなど、全体的に平成の東京を思い出すスタイリングが多く登場する。
これまではインスタレーション形式やルックブックのみでのコレクション発表がメインだったBalmung。もちろんそれでも強い世界観が存分に醸し出されていたが、今回のランウェイ形式でのコレクション発表ではそれを超えるインパクトで観客をHachiの世界に引き込んだ。
一見すると個性あふれる独特なランウェイだが、本来フィジカルで開催されるランウェイショーは、ブランドの世界観やコレクションの背景などを視覚や聴覚で実際に体感できるのが醍醐味である。
その点、今回のランウェイショーは非常にその役割に忠実であり、「行って良かった」と心から感じることができる満足感のある時間だった。