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【エッセイ】限界超えたら楽になる?


 あれはたしか中学時代の体力測定での出来事だ。
持久走の測定で1kmを走る。
当時運動部に所属していた私は、絶対に学年上位に入りたくてスタートの合図と同時に飛ばした。
部活動のトレーニングではいつも1km以上を走っていたので、普段よりハイペースでも順調に進むことができた。
もっと行ける。
段々と速くなる足。ぶっちぎりで先頭を走っていた。

残り200mくらいだろうか。
急に電池が切れたように首から下が重くなった。
頭のなかではもっと先を走っているはずなのに、追いつけない実際の私。
歩くまではいかなくても、かろうじて走っているような私の横を、随分後ろに感じていたクラスメイトたちが次々と抜き去っていく。
ああ、もう駄目だ。
どうせ上位はもう無理だし、諦めて歩いてしまおうかと足を止めようとした時だった。

「辛い?もう限界?」

後ろから声がかかった。
彼女は、女子校の我が校のなかで、カッコイイ!と称賛されていたテニス部のエースだった。

私はぜえぜえと息を切らしながら頷いた。

「今が一番キツイと思う。

でも限界超えたら楽になるから。

先に行って待ってるよ。」

なんだそのドラマみたいなセリフは。
思い出しながら書いている今でもそう思う。
だが、不思議と全然嫌味のない彼女の言葉が当時の私に思いっきり刺さったのだ。

今を超えたら楽になるなら、楽になりたい。

我武者羅に足を動かした。
もう先頭とか上位とかどうでも良かった。
限界を超えた先の楽というものを味わってみたかった。

ゴールラインを踏んでアスファルトの上に倒れるように寝転がった。
息を整えているとテニス部エースの彼女が「よく頑張ったじゃん!」と嫌味のない笑顔で声をかけてくれた。

とにかく我武者羅に走ったラスト200m。
どんな感じだったか思い出そうとしてもあまり思い出せない。
1人くらい抜かしたような気もするが、結局上位に入れたのかすら今ではどうでもよくなっている。
だけど間違いなくあの時、足を止めて諦めなくて良かったと今でも思う出来事だ。
限界超えたら楽になると嫌味なく引っ張ってくれた彼女は一体どのくらいの限界を超えてきたのだろう。
そして今でも自分の限界と闘いながら、誰かを引っ張っているのだろうか。
色々と逃げることで楽を味わってしまった今、自分で、限界まで自分を追い込むことはなかなかできないけれど、たまには未だハッキリと掴めていない限界の先の楽というものを、追い求めてみるのもいいかもしれないよ、私。なんて(笑)。


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