IRコミュニケーションを深めるための本/情報
はじめに
重松さんからお誘いいただいて、裏IR系ACに参加します。テーマは、「IR支援事業を始め、IRコミュニケーションについて学びを深める上で、お世話になった本/情報」です。IRについて取り組みを深化/進化させていきたい方におすすめのものを挙げますので、面白そうなものがあれば読んでみてください。
紹介に入る前に、こちらは「個人的に参考になった」という主観的な基準で選んでいる点をお伝えしておきます(コミュニケーションが専門ではない私には書かれている内容の正確性や妥当性は検証できません。また、それぞれの内容全てに同意しているわけでもありません)。あと、アフィリエイトではありません。
IRコミュニケーションについて
さっそく本論です。私は、IRは企業がその正統性を担保するために必要なコミュニケーションの一つだと考えています。
コミュニケーションはとても身近なものでありながら、極めて重要度が高く、かつ難しい行為です(人生の悩みのほとんどはコミュニケーションから発生していると言ったら言い過ぎでしょうか?)。そのため領域を細分化して、さまざまな研究・実践が行われています。
IRコミュニケーションは合理性の比重の高さ、時間軸の長さ、不確実性の高さの観点でやや特殊なコミュニケーションだと考えますが、コミュニケーション一般および他領域のコミュニケーションに関する知見に触れることで学べることは多いと感じています。
ここではコミュニケーションの中でも、特に私が投資家としてあまり触れてこなかった、メッセージング(伝える内容作り)、デザイン(伝わるように表現する方法)、対話(相手にカスタマイズして伝える)の3つについて学ぶ上で役に立った本/情報を紹介していきます。
メッセージング
伝え方―伝えたいことを、伝えてはいけない。
松永光弘 (著)
読みやすさ: ☆☆☆(1〜3星。星が多いほど読みやすい)
伝えることの難しさの構造と、伝える上での実用的な「思考の型」が、とてもわかりやすく解説されています。資料作成をする時になんとなくやっていたことがクリアに言語化される感覚で、IRコミュニケーションにも活用できると感じています。
余談ですが、起業家としては、同じく松永さんの「アタマのやわらかさの原理。」という本が、アイデアを拡張する方法論として勉強になりました(どちらの本もタイトルが「。」で終わっているのは何を伝えているんだろう)。
PRE-SUASION: 影響力と説得のための革命的瞬間
ロバート・チャルディーニ (著)
読みやすさ: ☆☆(1〜3星。星が多いほど読みやすい)
人を動かす6つの原理(返報性とか)を解説したベストセラー「影響力の武器」の著者で、説得、交渉分野の専門家による本です。極端に一言で内容を言うと、「6つの原理をより有効に使うために重要な、人の注意を操る方法」について書かれた本です。ちょっと怪しい表現になりますが、要素は参考になると感じました。
(怪しさを消すためか)アカデミックな研究等にも触れていて読みにくい部分もあるため星2とします。IR文脈で特筆する点としては、バークシャーハサウェイのアニュアルレポートが人を動かす好例として説明されている箇所です(私の注意がグッと引き寄せられました。まんまと操られてしまったw)。
ストーリーが世界を滅ぼす―物語があなたの脳を操作する
ジョナサン・ゴットシャル (著)
読みやすさ: ☆☆(1〜3星。星が多いほど読みやすい)
IRといえばエクイティストーリーが欠かせませんが、近年意味を重視する価値観が広がる中で、ストーリーに注目が集まっていると思います(プロセスエコノミーとか)。ストーリーはとてもパワフルで、人を惹きつけますが、そこにはメリット/デメリットあるよねという話をあえてデメリット側を(相当)強めに書いている本になります。
個人的には世の中のさまざまなストーリーの「普遍文法」という視点から見てその功罪を分析している部分が興味深く感じました(エクイティストーリーにも普遍文法当てはまります)。読みやすさは星2としますが、人間心理等に興味があればスラスラ読める本だと思います。
デザイン系
Baigie 枌谷さんBlog
読みやすさ: ☆☆☆(0〜3星。星が多いほど読みやすい)
ウェブ制作会社でB2Bマーケティングの先駆者Baigie社の代表枌谷(そぎたに)さんが公開されている、提案書の書き方徹底解説です(本note執筆時点で79万Viewsってすごい)。
IRは(個人投資家向けであっても)B2Bコミュニケーションの性格が強く、このBlogで書かれている認知容易性を高めるためのデザインとの親和性は非常に高いため、本当に勉強になりました。
わかる!使える!デザイン
小杉幸一 (著)
読みやすさ: ☆☆☆(1〜3星。星が多いほど読みやすい)
認知容易性が重要であることはわかるけれど、他社がかっこいいプレゼンテーション資料を作っていると、追随したくなるのは人間の性でしょう。
美しくする部分のデザインについて、初心者としてわかりやすいと感じたのがこちらの本でした。商品やサービスを人格化し、その人格を表現する上で色は性格、書体は声色、文字間は話し方等、の考え方で整理されているため、イメージが掴みやすかったです(とはいえ自分で手を動かして美しいデザインを作るのは相当困難なので、デザイナーの方にお願いする際のコミュニケーションで役立てています)。
対話系
会話を哲学する~コミュニケーションとマニピュレーション~
三木 那由他 (著)
読みやすさ: ☆☆ (1〜3星。星が多いほど読みやすい)
コミュニケーションってなんだろう?という漠然とした疑問を持っていた時に参考になったのがこちらの本です。会話が当事者にどのように作用しているのかを、コミュニケーション(筆者の定義するコミュニケーション=約束事を形成する)とマニピュレーション(他者の心理や行動に影響を与える)という概念で紐解いていく内容です。
約束事を形成する、ことが会話の作用だと理解したことで、未来について語ることの多いIRコミュニケーションの巧拙が、過去に形成された約束の取り扱いを含む適切な約束の形成にあることがよりクリアに理解できると思います。
哲学する、と書いてあると難しそうに感じるかもしれませんが、漫画等のシーンを事例にしているので一般向けになっています。
これは完全に余談ですが、この本を読む数年前にIR役員面談で「計画数字は必達、過去からそう言うカルチャーで経営している、経営者も従業員も死ぬ気でやっている」という普通は避けるレベルの強いコミュニケーション&マニピュレーションを受けたことがありました。
説明されたビジネスモデルの質や成長性に対して株価は割安だったのですが、気持ち悪さを感じ投資は見送りました。そしてしばらく経ったところでその会社で粉飾が発覚し、その後上場廃止になりました。
この本を読んでその時の面談を思い出し、実はあれは「投資しない方が良いよ」というメッセージだったのではないかとハッとしました。「内情は話せないけれど、投資家を巻き込むことは避けたい」という葛藤の中で、過剰な約束をする(コミュニケーション)ことで違和感を生み、投資をさせないようにしむけていた(マニピュレーション)と理解すると、非常に複雑な気持ちになります。
新版 営業の「聴く技術」
大堀滋 (著), 古淵元龍 (著)
読みやすさ: ☆☆☆(0〜3星。星が多いほど読みやすい)
新しく会社を始め、一番しんどかったのが営業です(涙)。悩んでいる時に紹介してもらったのがこの本です。おかげで目指すべき営業の型が見えました(身についたのかは・・)。
IR面談では投資家の質問に回答する時間がほとんどですが、企業側から適切に質問することで、投資家の未認知のニーズを顕在化してあげて投資意欲を喚起する余地はあるんじゃないかと思っています。前掲のPRE-SUASIONの内容とも重なります。
本当の勇気は弱さを認めること
ブレネー ブラウン (著)
読みやすさ: ☆☆ (0〜3星。星が多いほど読みやすい)
この本は、勇気ってなんだろうという問いが浮かんだ時に出会った本です。「素をさらけ出して生きることが、精一杯生きることであり、人とつながる最善の方法である」という考え方と、その実践方法について書かれています(さらけ出すのは怖くて難しいのが当然という前提で、実践までサポートする内容になっています)。
生きる指針としても良質の内容でおすすめですが、ちゃんとIRについてのインプリケーションもあります。素をさらすって、IRコミュニケーションとは通常親和性が低いと思うのですが、IRコミュニケーション当事者の違和感や不満の源泉はこの辺にあるように思うのです。限られた個人の体験でも、お互いにさらけ出せた時に、発行体と投資家という関係を超えて繋がれたように記憶しています。
おわり
以上、合計8つのご紹介でした。最後までお付き合いいただきありがとうございました。それでは良いクリスマスを!
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