【初級・進化ゲーム理論②】進化ゲーム理論の威力~Instagramの普及分析~
Instagramが普及する時期を想像してみてください。
Instagramが登場した初期においては、あなたの友達やおしゃれなカフェはInstagramをやっていません。なので初期にアプリをダウンロードしても肝心な「友達とつながる」だったり「おいしいお店を見つける」という楽しみは小さいのでショック…
なので、やりたくないと考えてしまうかもしれません。
しかし、今からInstagramを始めてみるとどうでしょうか?
自分自身の周りはほとんどの人がInstagramをやっていて日常の出来事を毎日共有して楽しんでいます。おいしいお店も発見出来てあなたにとってはチョー満足!!
なのでアカウントを作るモチベは爆上がりです!
このように、ほかの人の行動(Instagramをやるかorやらないか)であなたがInstagramをやった時の満足度は大きく変わることでしょう。
このような状態も戦略的状況と呼べそうです。(前記事参照)
では、Instagramをやる戦略とやらない戦略をする人間の分布は時間の経過でどう変わるのでしょうか?
これを数学を使って表現してみましょう!!!
数理モデル
まず数理モデルを組み立てていくうえで、どんな要素が登場するのかをはっきりさせましょう。
つまり、登場人物の設定ですね。
仮定
この数理モデルでは、以下の部品が登場します。
「Instagramを使用したときの満足度」
「Instagramを使用したときのコスト」
「使用しないときの満足度」
この3つの部品があれば完成します。
まず、「Instagramを使用したときの満足度」と「Instagramを使用したときのコスト」を表現しましょう。以下のように1つの式にまとめることができます。
$$
u_A(x)=bx - c
\tag{1}
$$
まず左辺を見てみましょう。$${u_A(x)}$$は戦略$${A}$$(今回はInstagramを使用することを戦略$${A}$$とします)を選択したときの効用関数を表しています。効用とは何かモノやサービスを消費した時の満足度のことで、今回はInstagramを使用した時の効用を意味しています。
続いては、右辺ですね。$${x}$$は集団内のInstagramユーザーの人数割合を表し、$${b}$$とはInstagramユーザーが増加したときの増分を表現しています。つまり、$${x}$$が増えたら、効用は$${b}$$に比例して増えるということですね。ここで、「Instagtamユーザーの人数(割合)によって個人の満足度が変わる」ということが表現できているわけですね。
最後に$${c}$$ですが、これは、Instagramを使用した時のコストを表すことになります。コストなので、満足度から差し引かれています。具体的には、Instagramの使用時間などがコストと考えられるでしょうか。
次に「使用しないときの満足度」を以下のように表現します。
$$
u_B(x)=d
\tag{2}
$$
$${u_B(x)}$$は戦略$${B}$$(今回はInstagramを使用しないことを戦略$${B}$$とします)を選択したときの効用関数を表しています。
先ほどの逆ですね。
右辺の$${d}$$はInstagramを使用しなかったときの効用を表します。これの特徴としては、$${x}$$は含まれていないため、Instagramユーザーの人数に関わらず効用は一定ということになります。
微分方程式
では、$${(1)}$$と$${(2)}$$を作ったのはいいものの、何を知りたいんでしたっけ?
それは、時間が経過したときの戦略$${A}$$をする割合(普及割合)の変化量でしたね。
つまり、全人口のInstagramをする人の割合の変化量です。
数理モデルでは、時間経過による変数の変化量を調べるには微分方程式を用います。ここでは定式化を省略しますが、$${(1)}$$と$${(2)}$$は以下の微分方程式に帰着します。
$$
\frac{dx}{dt}=x \cdot ((b \cdot x -c) - (x \cdot (b \cdot x -c)+(1-x) \cdot d )) \tag{3}
$$
なんだか文字が多くてよくわかりませんね…
もちろん意味わからなくても大丈夫です!
次のグラフを見てみましょう!
分析結果
数理モデルを作っているわけですが、モデルの外で決まる変数を外生変数と言います。つまり、分析者が勝手に設定することができる変数ということです。この例では、$${c}$$と$${b}$$と$${d}$$が外生変数にあたります。
では、この3つの変数に数字を入れて、微分方程式のふるまいを見てましょう!
ケース1:初期設定
$${b=2}$$、$${c=1}$$、$${d=0.5}$$と外生変数を設定します。
この時の$${(3)}$$式をグラフで表すとこんな感じになります。
このグラフを見て分かることは、何本もの矢印が$${0.75}$$を境に、右に行くにつれて$${0}$$または$${1}$$に収束していることが分かります。
つまり、現在の状態が普及率$${0.75}$$以上の状況だったら$${1}$$に収束して、現在の状態が普及率$${0.75}$$以下の状況だったら$${0}$$に収束しています。
ここから、Instagramを運営するMeta社(当時のFacebook社)はこのようなマーケティング戦略を立てることができます。
「普及率が75%になるまで広告や宣伝などを積極的にやろう!
そうすれば軌道に乗って勝手に100%になるまで普及するはずだ!」
このようなマーケティング戦略を数理モデルを使って正当化することができます。
ですが、普及率75%になるまで広告や宣伝をするなんて大変ですよね。そこで、Meta社はさらにこう考えるでしょう。
「Instagramの利便性を高めよう!!」
これはつまり、コスト$${c}$$の減少です。
次は$${c}$$を低めに設定してグラフで表してみましょう!
ケース2:初期コストの減少
$${b=2}$$、$${c=0.1}$$、$${d=0.5}$$と設定してみます。
ケース1と比較して、コストが下がったので$${c=1→c=0.1}$$になりました。(他は変えていません)
この時の$${(3)}$$式をグラフで表すとこんな感じになります。
ケース1のグラフと結構形が変わりましたね。
分かることとしては、やはり増加・減少する境界線(破線)が$${x=0.75}$$から$${x=0.3}$$に下降したことでしょうか。
これにより、Meta社は、Instagramの利便性を向上させて消費者のInstagram使用にたいするコストを下げることで、普及率が30%になるまで広告を頑張ればあとは自動的に普及していくことが分かります。
しかし、Meta社は利便性以外でもInstagramの拡散する強さを高めることができます。つまり、共有機能を充実させるということです。
例えば、写真以外にも動画やコメントの共有機能を追加したり、カフェやアパレル店などビジネスアカウント機能の追加が考えられますね。
次はこのようなケースを考えてみましょう。
ケース3:拡散力の増加
$${b=5}$$、$${c=1}$$、$${d=0.5}$$と設定してみます。
ケース1と比較して、拡散力が増したので$${b=2→b=5}$$になりました。(他は変えていません)
この時の$${(3)}$$式をグラフで表すとこんな感じになります。
ケース1と大きく変わり、グラフの形状が激しくなりました。
まずわかることとしては、短時間の間($${t=3}$$ぐらい)に普及もしくは衰退がはっきりすることが分かります。
あと、コスト減少と同様、普及・衰退の境界線が$${0.3}$$になっていることもわかります。
ここから、Meta社は普及するスピードを加速させるには利便性を向上させる(コスト$${c}$$の減少)よりも拡散力を向上させる(拡散力$${b}$$の増加させる)ほうがいいのではと考えることができます。
最後のケースは、競争相手の衰退を想像しましょう。
Instagram以外にも、SNSはfacebookやTwitterを使えばInstagramと同様のことが可能です。その他者SNSの衰退を考えてみましょう。
つまり、Instagramを使わないという戦略$${B}$$の効用である$${d}$$の減少です!
ケース4:競争相手の衰退
$${b=2}$$、$${c=1}$$、$${d=0.1}$$と設定してみます。
ケース1と比較して、Instagramを使わない時の効用が減少するので$${d=0.5→d=0.1}$$になりました。(他は変えていません)
この時の$${(3)}$$式をグラフで表すとこんな感じになります。
今回はケース1とあまり変化はありませんね。
変化があるとすれば、若干、境界線が下降したことでしょうか。
ここからわかることとしては、Meta社は自身のアプリケーションの利便性や拡散力の向上を主軸にマーケティングの戦略を考えたほうがいいことになります。
まとめ
いかがだったでしょうか。
今回のInstagramの事例では特に、「ネットワーク外部性」という概念を説明するための好例であると考えられます。ネットワーク外部性というのは「SNSなどのサービスの利用者が増えれば増えるほどよりサービスの魅力度が上がる」というものです。利用者が増えれば増えるほど普及率の増加率は増えていたことがグラフからも読み取れます。(詳しくは専門書に当たってください)
このように進化ゲーム理論は微分方程式を用いて、集団内のグループの戦略の分布を時間経過によってどう変化するかを表すことができます。
さらに、外生変数を変化させることで企業のマーケティング戦略の効果まで想像できてしまうことにも数理モデルの強さがありますね。
もちろん、この数理モデルは完璧ではなく様々な改造が可能ですが、物事の本質(今回だとネットワーク外部性)をついていることに意義がある気がします。
次回は、進化ゲーム理論の創始者であるジョン・メイナード=スミスが考えたタカハトゲームを分析したいと思います。
お楽しみにしてください!
参考文献とPythonコード
本記事で扱ったグラフを作成するPythonコードと、進化ゲーム理論を学ぶ上での参考書をいくつか紹介します。募金箱でもあります( ´∀` )
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