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【第175回】 悩み相談

今⽇は、私と林先⽣、桝井さんの3⼈が、⽇本に帰国してから、3回目のミーティングになる。今⽇の議題はいったい何だろう。
「では、今⽇の議題に⼊ります。実は、今⽇は珍しく、桝井君が、悩み相談に乗ってほしいと、⾔ってきていましてね。
僕が個⼈的には、相談に乗って差し上げたんですが、どうもいまいち、納得がいっていないようでしてね。そこで、みなさんのお⼒をお借りしたいのです。
ですので、今⽇は桝井君を話題提供者とした《分かち合いのトーク》の時間に、させていただきたます。」
そっか。桝井さんが。多分、彼⼥さんとのことよね。なにせお相⼿は、勤め先の会社の社⻑さんだし、いろいろあるわよね。それに向こうは、おそらく健常者よね。

ちなみに、今⽇の出席者は、5名。お休みが2⼈いる。幽霊部員の牧⼝さん、あと森俊⼀さんもご⽋席だ。でも結婚している⼥性の、百海ちゃんと森瑞⾹さんがいるから、⼼強いわね。
ちなみに百海ちゃんは、もちろん、ヴァーチャル参加である。
「では、桝井君、お願いします。」
「はい。みなさん、おそらくお察しだと思いますが、悩みというのは彼⼥のことです。付き合うことになったいきさつは、だいぶ前に⽇記に書かせていただいた通りです。
それ以来、付き合い⾃体はうまくいっているのですが、⼼の葛藤(かっとう)と言いますか、俺が勝⼿にいろいろ悩んでるんです。」
なるほど。この⼈、頭がいいから、いっぱい⾃分で悩み作ってそうね。
「で、具体的には、どんなことで悩んでいるのですか?」
と、森さん。


「実は、彼⼥は俺と違って、いわゆる《健常者》なんですが、《障がい者》である俺と、《健常者》である彼⼥との間に、なんか⾒えない壁を感じるんです。
気持ちがすれ違うことは、あまりないんですけど、なんか、違和感を感じます。」
うーん。私は「健常者」の⼈と、つきあったことないからな。そういう経験ないからわからないけど。
私は、
「彼⼥さんは、桝井さんが《障がい者》であることは、知っておられるのですか?」
「うん。《障がい者雇⽤》ではないけど、内々に病気のことは社⻑には話していて。」
そっか。じゃあ、理解はあるはずよね。でも、その理解って、本当に正しい理解なのかしら。
すると、その疑問を代弁するかのように、百海ちゃんが……
「それって、ひょっとしたら社⻑さん、桝井さんにどう接していいか、実はわかっておられないのかも。
うちもそうだったけど、結婚したての頃は、夫、あたしの扱いがよくわからなかったみたいで、なんか距離を取っていたらしいんです。まるではれ物を触るかのように、接していたらしくて。」
林先⽣は、
「なるほど。社⻑さんは、ひょっとしたら桝井君の逆鱗(げきりん)にお触れになりたくないのかもしれませんね。まぁ、それだけ愛しておられるという証拠でもあるのですが。
それで、桝井君には、彼⼥の不⾃然な接し⽅が、違和感として感じられるのかもしれませんね。」
桝井さんは、
「なるほど。それで謎が解けました。実は俺達って、喧嘩(けんか)したことがないんですよ。でも、もう付き合って⻑いですし、よく考えたらおかしいですよね。全部彼⼥が、我慢してくれていたんだ……。」
「そうなのかもしれません。そして、今のところ、それが社⻑さんの、桝井君に対する愛情表現なのでしょう。《障がい者》としての桝井君として接するということが。」
「そうだと思います。でも、俺はそれでは満⾜できない。やっぱり、付き合う限りは《対等》でいたい!」
すると、森瑞⾹さんが、
「私の考えはちょっと違います。私のところは、2⼈とも《障がい者》ですが、最初のうちは、お2⼈の場合と似ていて、私が夫に気を使っていました。
したがって、相⼿が《健常者》だからって⾔うのは、必ずしも当たっていない気がします。それよりもむしろ、2⼈の役割の⼤きさに偏りがある可能性があります。
うちの場合で⾔えば、私が完全に主婦をしていたことが⼤きいです。私のために無理をして、働いてくれている夫には、私は何も⾔えなかった。
でも、2⼈で働くスタイルに変わってからは、かなり対等な関係になっていると思います。」
「なるほど。でもうちの場合、彼⼥は社⻑で俺は平。この関係は変えようがありませんよ。」
と、桝井さん。
確かに、そうだ。少なくとも会社においては、対等な関係にはならないわよね。
そうだわ! それなら、会社以外の関係でバランスを取ればいいんだわ。でもそのためには、お2⼈に決断していただく必要がある……。
私は、
「⼀つ解決⽅法を思いつきました。でもこの⽅法を取るには、お2⼈に⼤きなご決断が必要です。」
「というと?」
桝井さんは、物珍しげな顔で私を⾒る。はいはい、そうですよ。私が名案を思い付くなんて、めったにありませんよ。
「仕事以外の部分で、バランスをとって、対等な関係を作るんです。つまり、⼀緒に住んで、家計を共にし、家事分担などでバランスを取ったら、いいのではありませんか?
そうして、役割において、対等に近くなれば、社⻑さんも桝井さんに、ものを⾔いやすくなられるのではないでしょうか? 今は、《何もできないかわいそうな⼈》、と⾒られているのかもしれませんね。」
「な、なるほど。でも⼀緒に住むって、いきなりハードルを上げるなぁ。まぁ、付き合っている期間は⻑いから、無理ではないかもしれないが。」
「そうですよ。よく彼⼥さんと話し合って、⼀緒に住んでみたらどうですか? それともいっそのこと結婚しますか?」
ひゅー、ひゅー!


みんなのひやかしの声が響き渡たる。桝井さんは顔が真っ赤だ。
「では、桝井君の悩みも無事解決しそうな感じですし、そろそろお開きにしましょうか。お疲れさまでした!」
「お疲れさまでした!」

ミーティングが終わり、帰ろうと思った⽮先、誰かが私の肩を叩く。振り返ると桝井さんである。
「なあ、ちょっとだけ残らないか? ラテおごるわ。」
「やった!」
お礼のつもりなのかしらね。さすがはイケメン君。
私たちは、⼤テーブルから別の2⼈席に移って、おしゃべりをしていた。いやぁ、たまにはイケメン男⼦と、2⼈で話すのも悪くはないわね。まぁ、おっきな⾍のついたイケメン君だけどね。
それにしても、私もなんだか恋愛したくなってきたなぁ。うちのメンバー、リア充が多いしね。何かいい出会いはないかしら。

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