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【第102回】 電子交換日記(2)


藤井百海

今⽇は、約2週間ぶりの「センチMENTALミーティング」である。前回、みんなで「電⼦交換⽇記」をすることが決まり、実際に、この2週間、みんなで試してみたのだが、今⽇は、その感想等を共有するための、ミーティングになりそうだ。

今⽇は、前回、ご⽋席だった、藤井百海さんも含めた6⼈全員が出席予定だ。例のアプリ「クイック・ダイアリー」で、出席者の告知が事前にあったのである。
前回、私は、みなさんに遅れをとり、⼀番最後の到着となってしまったため、今回は、さらに1時間早く到着できるように、出発したのだが、結局、今回も、私が⼀番最後だった。えーっ! みんな、どんだけ早く来てるの!

「こんにちは! みなさん、めちゃくちゃ早いですね!」
「はは、このテーブルは、早く来て取っておかないと、⼈気テーブルですから。」
と、森さん。
なるほど。カフェ内には、⼤テーブル席は、ここ⼀か所しかないので、早い者勝ちなのだそうだ。すると、林先⽣が、
「北川さん。こちらへ。藤井さんをご紹介します。」
「あ、はい。」
「藤井百海です。初めまして。⽇記にも書きましたが、居酒屋店員をやっていて、《○○脳機能障害》を患っています。よろしくお願いします。」
「北川美⾹です。ラジオパーソナリティをやっています。双極性障害を患っています。よろしくお願いします。」
⽇記の⽂⾯とは違って、ちょっとおとなしい感じの⼈ね。もっと「きゃぴきゃぴ」なのを想像していたわ。それとも初対⾯だから、遠慮しているのかしら。
「どうしますか? 北川さんも来られたことですし、ちょっと早いですけど、みなさん、始めますか?」
「はい!」
「では、ミーティングを始めます。よろしくお願いします。」
「お願いします!」

「さて、今⽇のウォーミングアップは、実は、僕は、何も考えてきてませんが、みなさん、なにかやりたいことはありますか?」
うーん。林先⽣が、考えてきてくださるものだと思ってたから、私も特に何もないなぁ。
「みなさん、特に何もおありでないのでしたら、《近況報告》でよろしいのではありませんか?」
と、牧⼝さん。そうだ、私、まだ、みなさんの⽇常⽣活、ほとんど知らないから。牧⼝さん、ナイスアイデアだわ。
「異論がなければ、そうしますが、いかがですか?」
と、林先⽣。
「ありません!」
と、みんな。
「では、そうしましょう。今⽇は、前回、ご⽋席だった藤井さんから、反時計回りで⾏きましょう。簡単なご報告で結構ですので、藤井さん、お願いします。」
「はい。藤井です。あたしは普段通りです。仕事に⾏って帰ってきて、⾃分の部屋で、⼤好きな⾳楽を聴きながら、晩酌をする毎⽇です。特に⼤きな出来事はありません。以上です。」
パチパチパチ。
「ありがとうございます。では、続いて牧⼝さん。」
「はい。牧⼝です。私も特に変わったことはないですね。講演依頼も、しばらくストップしていますので、家でのんびりしています。以上です。」
パチパチパチ。
「ありがとうございます。では、次は桝井君。」
「はい。桝井です。俺は出来事、⼤ありですねぇ。⽇記にも書きましたが、社⻑がコクってきました。いまだに信じられません。お付き合いは、させてもらうことにしたのですが、いろんな問題がありまして、これからどうしていくか、まだ決めかねています。今度、林先⽣に、相談に乗っていただく予定です。以上です。」
パチパチパチ。
そうだったわね。イケメン君、彼⼥ができたんだったわ。イケメンで超才能があるから、社⻑なんて⼈を引っかけられるのよね。
「ありがとうございます。続いて、北川さん。」
「あ、はい。北川です。私も⼀つ事件がありまして。私の番組には、《こころ》を病んだ⼈が、ゲストとして来られることが多いのですが、この前、収録中にゲストの⽅が、倒れられましてね。《てんかん》の⽅だったのですが、あわてて収録を中⽌し、救急⾞を呼んだというハプニングがありました。以上です。」
このあと、森さん、そして最後に林先⽣が、近況報告をされた。お2⼈とも、⼤きな出来事はおありでなかったものの、それぞれ⼩さなお困りごとがおありだったようだ。


「ありがとうございます。では、今⽇の議題に⼊ります。前回、スマートフォンアプリ《クイック・ダイアリー》を使った《電⼦交換⽇記》を提案させていただき、そして、実際、この2週間、試してみていただいたわけですが、いかがでしたか?」
「ちょっとお待ちください。その前に俺の⽅から。」
と、桝井さんが割って⼊った。
「どうぞ。」
「実は、北川さんに頼まれていた、例のプログラムが、思ったより早く完成しまして、今⽇にも牧⼝さんの携帯のメールアプリに、組み込めそうなんです。これで、⽇記のコピーの送信の⼿間は、もう必要ありません。」
おお! やってくれたか。彼⼥さんのことで、⼤変だっただろうに、よくやるわ。
「ほう。それは朗報ですね。早速、今週から導⼊しましょう。で、みなさん、いかがでしたか?」
まず、最初に⼝をお開きになったのは、牧⼝さん。桝井さんのプログラムの成否が、気になるところだ。
「私は非常に感動しています! 桝井さんが整えてくださったやり⽅でしたら、キカイ⾳痴の私でも、問題なくみなさんと同じように、投稿できます。」
「なるほど。みんなの投稿の受信・閲覧(えつらん)の⽅は、いかがでしたか?」
「問題ありません。毎⽇、本当に楽しく、読ませていただいています。ありがとうございます。」
何も問題がなくてよかったわ。⼀番⼼配だった⼈が、こんなに喜んでくれている。本当によかった。
「ほかのみなさんはいかがですか? 森さん?」
「特に問題はありません。」
「桝井君は?」
「もちろん、問題なしです!」
「藤井さんは?」
「あたしは、このアプリ、絵⽂字が使えないのは、ちょっと痛いですね。顔⽂字を使えばいいんでしょうけど、使い慣れていませんので。」
「なるほど。どうしたものでしょう。桝井君、何か名案はありませんか?」
「そうですねぇ。あのアプリ、まだできたばかりですから、気の利いた機能が少ないんですよねぇ。なんとか絵⽂字が使えるように、プログラムを組んでみましょうか。」
「え! それは助かります! ありがとうございます!」
と藤井さん。よかった。そういえば、藤井さんの⽇記、⼥⼦度がすごいもんね。絵⽂字がなくても⼗分、かわいいんだけどな。
「北川さんはいかがですか? 何か問題はありませんでしたか?」
「⼤丈夫です。」
「わかりました。では、交換⽇記の件は以上です。ほかに話し合っておきたいことはありませんか?」
「……。」
誰も何もないようだ。
「ないようですので、最後に、来⽉のレクリエーションについて、最終確認です。《クイック・ダイアリー》でも確認しましたように、来⽉21⽇⽇曜⽇、午前10時に、このカフェに集合。カラオケですので、特に持ち物はありません。よろしいですね?」
「はい。」
「それでは、ちょっと早いですけど、これでミーティングは終わります。お疲れさまでした!」
「お疲れさまでした!」

ミーティングは終わったが、⽇が暮れるまでには、まだだいぶ時間があったので、私はカフェに残って、みなさんとおしゃべりを続けた。特に藤井さんとは、⼤いに盛り上がった。歳は近いし、2⼈とも同じく、「障がい者雇⽤」という雇用形態で働いていることもあって、すごく気も話も合うのだ。ここで林先⽣の⾔葉が、脳裏によみがえる。
「当たって砕けろ!」
ようし。私は思い切って、藤井さんに申し出てみた。
「連絡先の交換をしませんか? 藤井さんとは、《クイック・ダイアリー》だけじゃなく、もっと密なお付き合いがしたいです!」
「いいですよ、喜んで!」
やった! 念願の連絡先交換! 林先⽣に感謝。私たちは、今、流⾏りのSNSアプリ「サイン(SIGN)」で、連絡先交換をした。すると、藤井さんは……
「あたしには、敬語は使わなくていいですよ。ていうか、あたしも使わなくていいですよね?」
「もちろんです、いや、もちろんよ。よろしくね、百海ちゃん。」
「よろしく、美⾹ちゃん。」
そのあとも、夜が更(ふ)けるまで、2⼈で語り合った。そういえば、⼣⽅からの仕事をしている百海ちゃんにとっては、これからが本番だわね。でも私は、今⽇は、もう失礼しなきゃ。明⽇は仕事の⽇だからね。

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