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釣ったドンコを鍋にしてもらった

うららかな陽気に包まれた土曜日、良く晴れていたので奥さんと海釣りに出掛けることにした。

張り切って竿を投げるも、釣れるのはクサフグばかり。食べられない魚なので辟易としていたが、帰り間際に妻がドンコを釣り上げた。

ドンコは身がとても柔らかいので刺身には向かない。煮付けや鍋にするのが定番の食べ方、らしい。

私も奥さんも釣りを初めて半年のビギナー。魚料理に関して自信がない。
せっかく釣れたドンコなのでどうせなら美味しくいただきたい。そこで、これを近所の居酒屋に持って行き料理してもらうことにした。

生ビールを飲みながらメニューに目を通す。
さすがに持ち込んだ魚だけ食べて帰る訳にもいかないので、いつも通り注文することにした。

「カツオの刺身」に目が止まり、さっそく注文する。

もう初鰹の時期かあ。
江戸の頃、初鰹は病を治す食材として重宝がられていたとか何とか、テレビで観たことがある。

周りのテーブルからも鰹をオーダーしている声が聞こえてくる。今も昔も私たちは「初物」をありがたく感じるようだ。

ビールをぐびぐひやっていると店員さんが「先ほどのお魚、フグ鍋と一緒に料理してよろしいですか?」と尋ねてきた。

間髪入れず「それでお願いします」と即答。鍋の種類を問われたらお店の意のままにお願いしようと最初から決めていたのだ。

ほどなく、良い具合に野菜の入った「フグ・ドンコ鍋」が到着した。さっき釣り上げた魚が見事な鍋に変身している姿を見て、私も奥さんも盛り上がる。

「私、熱燗にする」と奥さん。

普段は熱燗なんて飲まないくせに、この酒食をよほど大事に捉えているのだろうなと感嘆した。

私も熱燗をいただきたいと思っていたが、冷酒で流し込むのもまた楽しそうである。
結局、奥さんは「田酒 純米吟醸」の熱燗を、私は「匠 大吟醸」の冷酒をいただくことにした。

鍋のお味は薄口。
魚の風合いがよく分かるのでありがたい。

ドンコの身は空気を噛むようにふわふわとしていた。そこに鍋の汁が絡み合うと、何とも優しい世界が口の中で創造される。

ドンコの肝もまた絶品であった。
くせもなく、旨味が凝縮されている。口当たりもぷりぷりと小気味良い。

奥さんはといえば、それはそれは幸せそうに鍋をすすっていた。
きっと、魚を釣り上げた時の感触や感動も一緒に噛み締めているのだろう。
それはとても贅沢なことである。

魚市場で買う一匹のドンコと、金と時間と労力をかけて釣り上げた一匹のドンコとでは、価値が違う。今の時代における贅沢とは、敢えて不便を選択することかも知れない。

きっと、この日の鍋の味を、奥さんは一生忘れないであろう。

締めに「気まぐれパスタ」をいただいて店を後にする。
いつもよくしてくれるお店なので、これからも大事に通いたい。

それにしても、冬の厳しい寒さを過ぎ海も賑やかになってきた気がする。

早くまた釣竿を担いで海に行きたい。
そして良い魚を釣り上げた日にはまたこの店に甘えさせていただこうと、そう思いながら家路を辿った。

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