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イメージどおりの花が咲く一方、見たことのない花も出現・・・世に出る品種はわずかでも、育種は面白く楽しい

 こんにちわー
 一昨日東海地方から西側の梅雨が明け、今日は関東も梅雨明けになりそうです。今年は、梅雨明け前から各地で私達の体温と同じような暑さが続いています。これからどうなるのかと思いますが、お互いに熱中症にならないよう気をつけていきましょう。

 九州北部、島根県、北陸、秋田県の皆さん、豪雨の被害は大丈夫でしたか。被害に遭われた方には、心からお見舞いを申し上げます。

 育種家の体験も今回で16人目となります。一人目芦川さんの体験を3月初めに投稿してから、読んでくださる皆さんから185ものスキをいただいたことが励みとなり、月に3人の体験を投稿することができました。

 職場を退職した65歳から聞き書きボランティアになりましたが、当初は「文章に書くので、あなたのことを話してもらえませんか」と頼んでも、「自分は、本に書かれるような人間ではない」などと、断られてばかりで、4年間に書いた聞き書き作品は6人のみでした。

 その後、育種家の集まる団体の事務局などを頼まれたおかげで、その会員の育種家の皆さんに協力してもらえるようになり、これでけ多くの聞き書きを残すことができました。頑張られた人の話が聞け、それを活字にして残し、多くの方に紹介できることに、大きなやりがいを感じて取り組んでいます。
 
 今日も、私の投稿を開いてくれてありがとうございます。では、長野県千曲市でリシアンサス(トルコギキョウ)を育種されている中曽根健さんの体験をご覧ください。

 

話し手  中曽根 健さん

 
 ❒ 日本最古のリシアンサス産地で、就農と同時に育種を開始
 北は長野市、南は上田市に挟まれ、千曲川が中央を流れる長野県千曲市は、戸倉上山田温泉、江戸時代に善光寺街道最大の宿場町だった稲荷山宿、姥捨て伝説が残り、月の名所でもある冠着山(別名姥捨山)等を有する地域です。

 その千曲市で、リシアンサス(これは旧学名で、正しくはユーストマ、和名はトルコギキョウ)を生産している株式会社ナカソネリシアンサスの中曽根健です。

 長野県は、リシアンサスの出荷量が日本一で、私の住む力石地区は昭和 20年代から栽培に取り組む日本最古のリシアンサスの産地です。私は南九州大学園芸学部を卒業し、24歳で父の跡を継いでリシアンサスの生産を始めると同時に、育種にも取り組み始めました。

 大学では、ニガウリを栽培しただけで育種の勉強はしていませんでしたが、リシアンサスは、元々生産者育種が主体です。私の地区でも農家ごとに育種と採種を行っていたので、私も自然に育種をやるようになりました。私が20歳の頃、種苗メーカーのリシアンサス育種が盛んになり、我が家に来たブリーダー(育種家)と会話する中で育種の知識を身に付けることができたと思っています。
 
 ❒ 交配して新たな特性の花が咲いても、均一になるまで6年以上かかる
 恵まれていたのは、父が育ててきた花を育種資源として豊富に使えたことです。私はそれらを用いて、これまでになかった色などを求めて、交配を続けてきました。

 交配を行うといろいろな色彩や形態の表現などが出てくるので、その試験に3年、それらの色彩や特性が100%揃うようになるまでに早くて6年、通常10年を要します。困ったことは、生産している中に貴重な突然変異の花が咲いたとき、変わった色が嫌いな父がすぐに切ってしまうなど、家族との葛藤があったことです。
 
❒ 大輪、八重でフリンジ咲きのコサージュシリーズ3品種が人気商品に
 そのような中で、大輪、八重でフリンジ咲きの3色の品種を育成し、平成18年に「コサージュ」の商標を登録したサカタのタネから売り出すことができました。

 コサージュ・シリーズのコンセプトの「花びらのフリルが繊細で柔らかい雰囲気を持ち、大振りで八重咲ならではの華やかさがあり、花首が硬く垂れないで花持ちが良い」等が評価されて人気商品になり、「コサージュ・グリーン」がジャパンラワーセレクション2007~2008年に切り花部門でグランプリ、「コサージュ・ラベンダー」と「コサージュ・アンティークピンク」が共にIFEX▾2015と2016に切り花部門でグランプリ等、多くの賞をいただくことができました。

 販売が軌道に乗ると、少量の種子を自家用で扱っていたときと違い、種子を大量に扱うようになり、採種、乾燥、精選の失敗で発芽率が低下することなどで苦労しました。
  

コサージュ・ラベンダー


コサージュ・アンティークピンク


コサージュ・ジョーカー


コサージュ・カシスボール


 ❒ 生産者は1枝に1蕾つけることなどを条件にコサージュ会に加入
 コサージュ・シリーズの種子は、コサージュ会という生産者の会の会員にのみ販売し、生産してもらっています。現在、北海道から沖縄県まで約170人の会員がいて、市場や会員からの紹介や自己推薦で毎年増え続けています。生産した種子は、生産者の指定した地域の種苗店に販売してもらっています。

 トルコギキョウの八重品種は、一般的に1枝に蕾を2 つつける仕立てが取られています。しかし、コサージュ会では花1輪に養分を集中させて、大きな花を下垂させず、長持ちさせるために1枝に1蕾だけをつける仕立てとし、それを守ることを会員となる条件としています。

 コサージュ・シリーズを売り出す前の平成17年頃までは、新品種が発売されても高価格で販売できるのは初年度だけで、次の年には品質の悪い品物が溢れてしまっていました。そんなことから価格の暴落が繰り返されていて、市場や生産者からも高品質で高単価の商品が望まれていました。私は生産者でもあるので、自分の品種の市場価格を暴落させたくありません。それで、生産者を選んで会員制にすることにしたのです。

 また、販売する花の出荷規格については、当初産地ごとに自分たちに都合の良い規格になっていました。そのことが市場から「大きさや長さが曖昧になっている、季節ごとに品質に振れがあり売りにくい」といった意見が出たことから、コサージュ・シリーズでは主な生花市場の担当者に一律の出荷規格を決めてもらうようにしています。
 
 ❒ イメージ外の花が咲くのも育種の楽しみ  
 私の持っている育種のイメージは、その植物が本来持っていても、事前の状態では決して発揮できない特性を、一瞬だけ目に見えるように発現させることです。

 私はF1育種をしているので、どんな花が咲くかを想像して交配しています。ですから想像していた花が咲くのもうれしいのですが、ときどき私のイメージ外の品種表現が出てくることもあり、そこが育種の面白さであり、楽しさだと感じています。


コサージュ・レンガ


 ❒ 育種は思い切って捨てても、残った品種から新しい特性が出現する
 これまで、「育種は捨てることだ」と先輩の育種家から言われていたのですが、私は過去の品種を捨てられず、品種がどんどん増えて農場が植物園のようになっていました。育種に使える面積には限りがあるので、それでは育種のスピードが落ちてしまいます。必要な形質以外のものを思い切って捨てると、残された品種から新しい表現が出てきてスピードが上がることを学びました。
 
 ❒ 良い結果が出にくいのが育種、ダメでも失敗とは考えずに取り組む
 育種は、元々うまくいく確率の低い仕事なので、うまくいかなかったことを失敗とは考えていません。私も毎年数百のかけ合わせをしていますが、そこから2~3品種が世に出たら幸せだと思って、育種に取り組んでいます。また、夏場の育種期間以外は切り花生産者なので、頭を切り替えて栽培技術のことを考えています。

 今後も、多くの方々に感動を与えるリシアンサスの新品種を開発していきたいです。遠い将来になるかもしれませんが、複雑な色表現でもあるコンポーズ・ブルーの花色の品種を作り出したいと願っています。 
 
            用語(▾印)解説
▾IFEX:  国際フラワー&プランツ。花や花に関する様々なものが世界中から
   集まる商談がメインの展示会。花業界の専門家の審査により、入賞、
   グランプリの決定も行われる。
 
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