【まいぶっく01】何でも願いがかなうなら~ロバのシルベスターとまほうのこいし
あせると「突拍子もないことを言ってしまう」というのはよくあることだろう。でも、ロバのシルベスターよ。なぜ、ライオンに襲われ絶体絶命の時に「ぼくは岩になりたい」などと言っちゃうのか。
せっかく何でも願いがかなう「まほうのこいし」を持っていたのだから「ライオン、あっち行っちゃえ!」「空を飛びたい」など他にもいろいろあったではないか。
でもそれは、安全な場所にいる第三者だから思えること。その立場になったら、きっと私もとんでもないことを言ってしまったのにちがいない。
しばらくぶりで読み返してみると、あわてふためいたシルベスターが「岩になりたい」と言ってしまったその心の動きもていねいに書かれていた。
岩になるとは・・ 声が出せない、体も動かせない、助けをよべない、気づいてもらえない。元にもどるには「まほうのこいし」を持って願いを言わなければならない。その「まほうのこいし」は、岩になったシルベスターの横に落ちたまま。
もう元にもどることは不可能だ。この絶望感を思うと体が冷たくなる。
シルベスターがだんだん目を開けないようになり、いっそ岩になりきろうと思い、眠ってすごすようになったのもあたりまえのことだ。
突然息子がいなくなった両親の驚き。悲しそうな顔のページが続く。
なぜ私はこの絵本に心をひかれたのだろう。改めて考えてみると、両親がとってもシルベスターのことを大事に思っているのをびしびし感じられたからというのが大きいと思う。
むすこの好きなもの「きれいないし」をちゃんと知っていたダンカンさん(おとうさん)。
むすこの「ここにいるよ」という必死の願いを「ふしぎなむなさわぎ」という形で感じるおくさん(おかあさん)
そしてその思いがシルベスターを元の姿に戻す大きな力になる。
初めてこの本を読んだ時、「読み終わった後この本をだきしめたくなった」と感想を書いた。23年たった今でもだきしめたくなる1冊だ。
ロバのシルベスターとまほうのこいし(A)
ウイリアム・スタイグ
せたていじ やく
評論社 1975年