【ティラノサウルスの基礎知識 & 有名なティラノサウルス・レックス】
噛む力、恐竜No.1
分類 獣脚類 ティラノサウルス科 ティラノサウルス亜科 ティラノサウルス族
主な種 $${\textit{Tyrannosaurus rex}}$$
DATA
推定全長: 約12m
推定体重: 約6t~約9t
化石が発掘される場所: カナダ、アメリカ
生息時代: 後期白亜紀(約7270万年前~約7090万年前、約6800万年前~約6600万年前)
史上最大級の肉食恐竜
恐竜のなかでも大人気な肉食恐竜。種の命名に使われた化石標本は1902年にアメリカのモンタナ州ジョーダン付近で発掘されましたが、当時研究されていたどんな陸上の肉食動物よりも化石のサイズが大きかったことから$${\textit{Tyrannosaurus rex}}$$ (意味: 暴君トカゲの王)と命名されました。
推定全長は最大級かつ多くの骨が発見されたお年寄りの"スー"で約12.3m、"スー"達大人の推定体重は複数の研究で約6t~約9tと考えられています。
大人の推定全長は路線バスと同じくらいで推定体重はアフリカゾウと同じくらいと、全長はスピノサウルスやギガノトサウルスよりも短かったかもしれませんが、他の推定全長10mを超える肉食恐竜よりもがっしりとした体格と太い太ももの骨を持っていたため、体重においては最重量級の肉食恐竜だったようです。
【体の特徴】
歯: 大人になると、個体によって数本の違いはあるが、バナナみたいな分厚い歯が約60本生え、約2~3年毎に生え変わっていたと考えられている。成長と共に歯が太くなるので、顎(あご)の歯が入る穴の数も減る。
口周り: 上顎(うわあご)と下顎(したあご)の骨に神経と血管が通る小さな穴がたくさんあって、かなり敏感だったと考えられている。物を触る時はワニみたいにまずは口を使っただろう。
鼻: CTスキャンを使って脳が入る骨の内部を調べたところ、脳の嗅覚(きゅうかく)を司る部分は他の獣脚類(じゅうきゃくるい)よりも比較的大きかった。一度嗅ぎつけられたら逃げ切るのは難しかったかもしれない。
目: 大人の目が入る穴の直径は12cmから約14㎝あり、視力は良かったと考えられている。また大人が自然な姿勢(しせい)になると頭は斜め下を向くため、さらに頭を下に向ければ両目で立体的に物を見ることもできただろう。
首: 首の骨の数は10個で、左右と上への動きが得意だったようだ。獲物を襲う時や肉を食べる時は、強力な噛む力と首の力を活かして力いっぱい食いちぎっていただろう。
前肢(まえあし): 他のティラノサウルス科と同じく、前肢の指の数は2本で、手の甲の骨の数は3本だった。役割についてはさまざまな研究があるが、その小ささを踏まえるとあまり積極的に使う前肢ではなかっただろう。
腰: 上から見ると胴体と比べてかなり幅が狭くなっている。恥骨(ちこつ)という骨の先は前後に伸び、ピュービック・ブーツと呼ばれる構造になっている。休む時や寝る時はこのピュービック・ブーツと後肢(うしろあし)で体を支えていただろう。
後肢(うしろあし): 推定全長10mを超える獣脚類のなかでは長めで、大人でも効率的に動けたと考えられている。大人の大股での歩幅は約4mあり、大人がスピードを出す時は、キリンのように、動きはゆっくりでも大きな歩幅で動いていただろう。
尾: ほぼ全ての尾の骨がつながっていると考えられる個体の研究はまだ発表されていないが、“スー”からは36個の尾の骨が確認され、47個として復元された。尾の骨には太ももの骨を後ろに引く筋肉もかなり付いていたようだ。
皮膚(ひふ): かなり成長した“ワイレックス”から部分的な皮膚の印象化石が発見されていて、かなり細かな鱗(うろこ)が確認された。羽毛の跡はまだ発見されていないが、ティラノサウルス科よりも大きなグループであるティラノサウルス上科に分類されていて羽毛の跡が確認されたディロングとユティラヌスのことを踏まえると、子どもや若者の頃は保温のためにふわふわした羽毛があったのかもしれない。
"ナノティラヌス"は若者のティラノサウルス?
アメリカ・モンタナ州の地層から発見された肉食恐竜の化石に対して"ナノティラヌス・ランセンシス $${\textit{Nanotyrannus lancensis}}$$"という種が1988年に命名されました。しかし、この恐竜は他のティラノサウルス科の若者にも見られる特徴と成長したティラノサウルス・レックスに見られる特徴の両方を持つため、現在では若者のティラノサウルス・レックスと考える説が主流になっています。
そんな若者に見られる特徴は、薄くて数が多い歯・ほっそりとした頭骨・円形の目が入る穴・太ももの骨よりも長い脛(すね)の骨、などです。
バナナみたいな分厚い歯・頑丈な頭骨・鍵穴状の目が入る穴・脛(すね)の骨よりも長い太ももの骨などを持ち、多くの研究で3t以上と考えられている非常に強力な噛む力を生み出せる大人と見比べると、はっきりと違いが分かるので是非とも見比べてみて下さい。
意味が分かると速い話
生きたティラノサウルスにスポーツテストをさせることはできませんが、近年の多くの研究で、大人の推定最高速度は時速約30km~約40kmと考えられています。
この数値だけを見ると「車や競走馬よりも遅い」と感じるかもしれませんが「推定全長約12m・推定体重6t以上で二足歩行の動物が歩幅約4mで追ってくる」と考えたら、相当の迫力だったでしょう。そして2020年の研究では「ティラノサウルスは同じくらいのサイズの他の肉食恐竜と比べて効率的に動けた」と考えられました。
さらに、若者の頃はダチョウやエミューのように太ももの骨よりも脛(すね)の骨の方が長く、速く走るのに向いた体形をしていました。
ハンターだったのかスカベンジャーだったのか
「ティラノサウルスは生きた獲物を襲うハンターだったのか死肉を食べるスカベンジャーだったのか」という話題はこれまでに多くの本やテレビ番組で取り上げられました。
そして、共存していた植物食恐竜のトリケラトプスやエドモントサウルス・アネクテンスの化石を調べると、ティラノサウルスが付けたと考えられる噛み跡が残された化石とティラノサウルスに襲われた後に傷が治った痕がある化石の両方が発見されています。従ってハンターとスカベンジャーのどちらでもあったと考えられています。
さらに、何頭かのティラノサウルスの化石には他の個体が付けたと考えられる噛み跡が見られたため、時と場合によっては共食いもしていたようです。
また、若者の頃は速く走るのに向いた体形と獲物の肉を切り裂くことができる薄い歯を持ち、大人になると大きな一歩を踏み出せる体形と恐竜のなかで一番強い噛む力を生み出せる分厚い歯・頑丈な頭骨・強力な顎の筋肉を持っていたため、ワニやコモドオオトカゲのように、子ども・若者と大人とで主な獲物は違っていたようです。
「いいか 恐竜好き 老いぼれた恐竜を見たら『生き残り』と思え」
何頭かの化石を見ると、病気やけがの痕がはっきりと残されています。なかでも今までに研究された個体のなかで一番のお年寄りである"スー"には痛風(つうふう)や骨髄炎(こつずいえん)と考えられる痕も残っています。
「病気やけがをするなんて、弱い、残念だ」と思うかもしれませんが、薬や獣医さんがいない時代に高齢になるまで生きた"スー"は、病気やけがとも戦いながら懸命に生きた生き残りと言えるでしょう。
もう一種のティラノサウルス
ティラノサウルス・レックスの化石は約6800万年前~約6600万年前の、カナダのアルバータ州・サスカチュワン州、アメリカの主にモンタナ州・ノースダコタ州・サウスダコタ州・ワイオミング州にある地層から発掘されます。
しかし、約7270万年前~約7090万年前のアメリカのニューメキシコ州の地層から発掘された化石に対して、ティラノサウルス・マクラエエンシス$${\textit{Tyrannosaurus mcraeensis}}$$という新種が2024年に命名されました。この種の化石はまだ部分的な頭骨などのわずかな化石しか確認されていないため、さらなる化石の発見が期待されます。
有名なティラノサウルス・レックス
ジェーン Jane
若者の特徴をしっかりと観察出来る個体。
“ナノティラヌス”に分類する研究もある。
スー Sue
これまでに研究された個体の中で一番のお年寄り。
福岡県の北九州市立いのちのたび博物館で全身骨格のレプリカを見ることができる。
スタン Stan
頭を構成する骨がバラバラの状態かつほぼ欠けずに発掘された個体。
世界中の博物館で全身骨格(冒頭の写真含む)や頭骨のレプリカを見ることができる。
AMNH FARB 5027
初めて頭骨が丸ごと発掘された個体。
ジュラシック・パークシリーズのロゴのモデルにもなった。