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トリケラトプスのご近所さん!|トロサウルス・ラトゥスの見分け方を解説

タレント「恐竜のお兄さん」加藤ひろしです。

 皆さまはトロサウルスという恐竜をご存知でしょうか?

 この恐竜はとても人気があるトリケラトプスのご近所さんだった、つまりトリケラトプスとも共存していた大型の角竜類で、陸上動物のなかでも史上最大級の頭骨を持っています(Lull, 1933)。
 現在ではトロサウルス・ラトゥス $${\textit{Torosaurus latus}}$$
とトロサウルス・ユタエンシス $${\textit{Torosaurus utahensis}}$$の2種が分類されていて、トリケラトプスと共存していたのはトロサウルス・ラトゥスの方になります(図1)。

図1: トロサウルス・ラトゥス(黄土色)やトリケラトプス・ホリドゥス(茶色)、トリケラトプス・プロルスス(赤茶色)と共存していた(=同じ地層から化石が発見される)恐竜たち

引用元: File:Hell Creek Formation Fauna.png - Wikimedia Commons

 これまでに発見されたトロサウルス属の化石の数はトリケラトプス属と比べるとかなり少なく、2018年までに確認されたトリケラトプスの化石は325体以上にもなった一方で(Stein, 2019)、トロサウルスの化石はラトゥス種とユタエンシス種を合わせてもわずかに17体程でした(Tokaryk, 1986; Carpenter and Young, 2002; Sullivan $${\textit{et al.,}}$$ 2005; Hunt and Lehman, 2008; Stein, 2019)。

 この化石の数の少なさも遠因となり、古生物学者のジョン・スキャネラ博士を含むアメリカのモンタナ州立大学の研究チームは【トロサウルス・ラトゥスはお年寄りのトリケラトプス】と考えています(研究例: Scannella and Horner, 2010; Scannella $${\textit{et al.,}}$$ 2014; Scannella, 2020)。
 2010年に発表されたこの“トロサウルス・ラトゥス=お年寄りのトリケラトプス説”は当時のネット記事恐竜の本でこぞって取り上げられ、中には「トリケラトプスが教科書から消える?」と間違った情報が書かれた記事も投稿されました。

 しかし、この説に対しては複数の研究者・研究チームから反論する論文が出版されており(Farke, 2011; Longrich and Field, 2012; Maiorino $${\textit{et al.,}}$$ 2013a; Mallon $${\textit{et al.,}}$$ 2022)、現在では【トロサウルスとトリケラトプスはやはり別々の属】と考える説が主流とされています。

 トロサウルス属の2種 ラトゥス種とユタエンシス種の化石を調べると、ラトゥス種の方がより部位が多く残っている、つまり完全度が高い化石が多く知られています。そして先述したとおり、トリケラトプスと共存し、研究によってはお年寄りのトリケラトプスと考えられているのもこの種であるため、今回はそのトロサウルス・ラトゥスを紹介し、トリケラトプス属との見分け方も説明します。

トロサウルス・ラトゥス Torosaurus latus

図2: トロサウルス・ラトゥスの復元模型(筆者撮影)

 トロサウルス・ラトゥスはトロサウルス属のなかで最初に命名された種で、トリケラトプス属が命名された2年後の1891年に命名されました。種の基準となる化石(ホロタイプ標本)は部分的な頭骨ですが、後述するトリケラトプス属との違いの一つでもある、フリルの真ん中の骨にある2つの穴は命名時から確認されていました(Marsh, 1891)。

 日本の博物館では、熊本県の天草市立御所浦恐竜の島博物館で頭骨レプリカを見ることができます。

トロサウルス・ラトゥスとトリケラトプスを見分ける主なポイント

図3: 奥: トロサウルス・ラトゥス “トロⅡ”の頭骨レプリカ、手前: トリケラトプス・プロルスス “モート”の頭骨レプリカ(筆者撮影)

  動物を見分ける時に大切なのは「同じところ」と「違うところ」の両方を見つけることです。

 今回の場合、まずはトロサウルスとトリケラトプス(図3)の「同じところ」を探します。トロサウルスとトリケラトプスはどちらも角竜類のケラトプス科カスモサウルス亜科トリケラトプス族に分類される恐竜です。
 カスモサウルス亜科だけの特徴は上くちばしの骨や骨盤の構造などに見られ(Dodson $${\textit{et al.,}}$$ 2004)、より細かなグループのトリケラトプス族だけの特徴は上顎の骨の構造などに見られます(Longrich, 2011; Brown and Henderson, 2015)。

 次に「違うところ」です。トロサウルスとトリケラトプスの主な違いはフリルと上顎の骨に見られます。特にフリルの違いはよりはっきりとしているため、この2つの違いをこれから詳しく説明します。

フリルの違い

図4: 正面から見たトロサウルス・ラトゥス “トロⅡ”の頭骨レプリカ(筆者撮影)
黒色と水色でフリルの両脇の骨【鱗状骨】、オレンジ色ででっぱりを示す

 角竜類のフリルは真ん中の骨【頭頂骨とうちょうこつ】と両脇の骨【鱗状骨りんじょうこつ】の3つで出来ていますが、フリルの真ん中の骨【頭頂骨とうちょうこつ】にある2つの穴はトロサウルス・ラトゥスが命名された時から知られている特徴です。トリケラトプスにはこの特徴が見られず(研究例: Marsh, 1891; Forster, 1996; Farke, 2006)、彼らのフリルには穴がないのが大きな特徴です(図3、図5)。

 次にトロサウルス・ラトゥスとトリケラトプスのフリルの両脇の骨【鱗状骨りんじょうこつ】を比較すると、トロサウルス・ラトゥスの両脇の骨は幅が狭く(図4の黒色と水色)、トリケラトプスの両脇の骨は丸まっていて幅も広いです(Forster, 1996; Maiorino $${\textit{et al.,}}$$ 2013b)(図5の赤色)。

図5: トリケラトプス・ホリドゥス “ケルシー”の頭骨レプリカ(筆者撮影)
赤色でフリルの両脇の骨【鱗状骨】を示す

 トロサウルス、トリケラトプス、“ネドケラトプス(トリケラトプスに分類するかどうかの議論あり)”のフリルの両脇の骨の形をコンピューター上で比較した研究(Maiorino $${\textit{et al.,}}$$ 2013a)においても、トロサウルス・ラトゥス(図6の青色の丸)とトリケラトプス属(図6の灰色の丸: ホリドゥス種、黒色の丸: プロルスス種)とでは、形の違いがはっきりと見られました。

図6: トロサウルス、トリケラトプス、“ネドケラトプス”のフリルの両脇の骨【鱗状骨】を比較した図
引用元: Maiorino et al. (2013a)

 さらにトロサウルス・ラトゥスのフリルの両脇の骨には、真ん中の骨との境目あたりにでっぱりがあります(図4のオレンジ色)。このでっぱりはトリケラトプスやトロサウルス・ユタエンシスには見られない特徴です(Farke, 2006; Hunt and Lehman, 2008; Mallon $${\textit{et al.,}}$$ 2022)。

 またフリルの縁に付く骨【縁後頭骨えんこうとうこつ】の数や付く位置についても、トロサウルス・ラトゥスとトリケラトプスとでは違いが見られますが(研究例: Farke, 2006, 2011; Longrich and Field, 2012)、この骨は化石になる過程で失われてしまうケースも多いので、見分ける時には注意が必要です。

上顎の骨【前上顎骨ぜんじょうがくこつ】の違い

図7: トロサウルス・ラトゥス “トロⅠ”の実物の頭骨(筆者撮影)
※お年寄りのトリケラトプス・ホリドゥスとしての展示であることに注意
黄緑色で上顎の骨【前上顎骨】の鼻角を支える部分を示す

 トリケラトプスの種を見分けるポイントの一つに、上顎の骨【前上顎骨ぜんじょうがくこつ】の鼻角を支える部分の角度と横から見た時の幅があります(Longrich and Field, 2012; Scannella $${\textit{et al.,}}$$ 2014)。

 トロサウルス・ラトゥスの(可能性があるものを含む)上顎の骨を調べると、鼻角を支える部分の幅が狭く、斜め上を向いています(Scannella $${\textit{et al.,}}$$ 2014; Scannella, 2020)(図7の黄緑色、図8のB)。この角度と幅はトリケラトプス・ホリドゥスの上顎の骨のそれ(図8のC)と似ていて、トリケラトプス・プロルスス(図8のE)とはかなり異なっています。

図8: 右側から見た、A)エオトリケラトプス、B)トロサウルス・ラトゥス(?)、C)トリケラトプス・ホリドゥス、D)ホリドゥスとプロルススの中間の特徴を持つ個体、E)トリケラトプス・プロルススの、上顎の骨の鼻角を支える部分
引用元: Scannella (2020)

 この鼻角を支える部分などの上顎の骨に見られる違いを踏まえ、トロサウルスはお年寄りのトリケラトプスと考えているジョン・スキャネラ博士も「もしトリケラトプスと‘トロサウルス’が近縁な別の属であるのならば、(フリルだけではなく)上顎の骨にも違いが見られるかもしれない」と記述しました(Scannella, 2020)。


まとめ

 これまで行われてきたトロサウルスとトリケラトプスに対する分類についての研究とトロサウルス・ラトゥスの見分け方をまとめると以下の2点です。

  1. トロサウルスとトリケラトプスの分類については、やはり別々の属とする説が現在では主流である

  2. トロサウルス・ラトゥスとトリケラトプスの主な見分けポイントは、フリルの真ん中の骨にある2つの穴・フリルの両脇の骨の幅・フリルの両脇の骨にあるでっぱり・フリルの縁に付く骨の数と付く位置・上顎の骨の鼻角を支える部分の角度と幅である

 冒頭で取り上げたように、2010年代のネット記事や恐竜の本には“トロサウルス・ラトゥス=お年寄りのトリケラトプス説”が載っています。
 トロサウルス・ラトゥスがお年寄りのトリケラトプスであろうと、トリケラトプスとは別々の属であろうと、今回紹介した見分け方を覚えておけば「トロサウルス・ラトゥスはどんな特徴をしているのか」「トリケラトプスはどんな特徴をしているのか」をより深く知ることができます。

 トロサウルスとトリケラトプスの頭骨以外の違いやトロサウルスの成長についてはさらなる研究が必要です。今後はトロサウルス・ユタエンシスの完全度の高い化石がさらに発見されることも期待しています。

参考文献(本文登場順)

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  • Maiorino, L., Farke, A. A., Piras, P., Ryan, M. J., Terris, K. M., and Kotsakis, T., 2013. The evolution of squamosal shape in ceratopsid dinosaurs (Dinosauria, Ornithischia). Journal of Vertebrate Paleontology, 33(6): 1385-1393.

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