生命保険協会アンケート(1):企業と機関投資家の視点

小野喜康先生の『資本主義の方程式 -経済停滞と格差拡大の謎を解く』を読んでいて、資産への選好をほどほどにしたいと思いつつもついつい消費が増えない、ひろです。
関係ないですけど、↑は最近読んだ本では抜群に面白かったですね。新書で比較的手軽ですし、皆さんも是非ご一読下さい。

生命保険協会アンケートとは

さて、今回は、生命保険協会が長年公表している企業・投資家向けアンケート(最新2021年度版)があるので、それを紹介しようと思います。
なんと1974年度から今日の2021年度に至るまで48年間実施されているアンケートということで、非常に長い歴史を誇っています。

企業向け」と「投資家向け」にアンケートは分かれているのですが、なんとそれぞれの「結果比較」もしてくれています。すごく親切ですね。今回は基本的にはそちらのみを見るようにしましょう(時短です(笑))。

なお本アンケートでは企業側は近年500前後の企業が、投資家側は100前後の機関投資家が、それぞれ回答をしているようです。

主な結果

何しろ比較資料も42ページある大作ですので、全てをピックアップすることは困難です。
以下では主な結果を拾って見ていきしょう。

持続的な成長と中長期的な株式価値向上の観点からの課題や取組み強化領域

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生命保険協会「企業価値向上に向けた取り組みに関するアンケート

これはなかなか面白いですね。大きく言えば概ね傾向は一致しているわけですが、「企業側はESGSDGsが最重要と考えている」一方で、「投資家側は経営計画・経営戦略が最重要と考えている」という状態です。
もちろんアンケート結果からも企業側も計画・戦略を軽視しているわけではないのですが、中長期を考える時の比重が、企業側はESG・SDGsの観点が少し増してくる、というところだと思います。中長期には足元の事業(計画・戦略)よりもより広い観点が必要、という意識もあるのかも知れません。
更に、投資家との対話や情報開示については、企業側がそこまで重視していない一方でやはり投資家側は重視する傾向にあります。これは立場の違いが多分に影響した結果と思います。

中期経営計画の公表KPI(企業側)/重視するべきKPI(投資家側)

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生命保険協会「企業価値向上に向けた取り組みに関するアンケート

互いの重視するKPIですね(※企業側アンケート結果は「公表」したものに限られる点には留意)。これは互いの視点に結構細やかにばらつきがある印象ですね。
たとえば「d売上高・売上高の伸び率」と「e利益額・利益の伸び率」を見ると、「e利益」については企業・投資家の考えは近い位置にありますが、「d売上高」については投資家側が顕著に(より)軽視しています。
aROE」は、企業側もかなり意識はしていますが、投資家側の意識は更に強いものになっています。「m総還元性向」も投資家側の強い意識が明らかですね。
hROIC」や「q資本コスト」もズレがありますね。ただし、ROICはわかりませんが(「誰もが算出するような親しみのある指標」とは言えないと思うので)、資本コストについては、「社内向けに算出はしている/具体数値を意識はしているが公表はしていない」という可能性もあるように思います。
まあ企業側から「私たちの資本コストは●%です!」と経営計画の中で公表するというのも、決定主体が異なる(市場が決定する)ことからの違和感を覚えるのも事実かと思います(「聞かれたら自らの認識を答える」くらいの位置づけくらいでよいのかも知れません)。
と、幾つかかいつまんでみましたが、結構互いの考えの違いが出てきている結果かと思います(繰り返しですが、企業側は「公表」したKPIに限定される点には留意)。

資本コストに対するROEの水準

生命保険協会「企業価値向上に向けた取り組みに関するアンケート

ROE水準(対資本コスト)の認識については企業と投資家で、これまた大きく違いがあります。
平たく言えば企業側は「ROEが資本コストを上回っている」と認識していることが多く、投資家側は「下回っている」と認識していることが多い、という、完全に真逆の認識となっています。
個別のアンケート結果の方を見ると水準格差が明らかなのですが、企業側の多くが「8~10%」が目標となっており、投資家側の多くは求める水準が「10%以上」となっています。
これは真逆の結果になることも頷けますね。

資本効率向上のために重視している取組み/期待する取組み

生命保険協会「企業価値向上に向けた取り組みに関するアンケート

そんな中、資本効率向上のための取り組みの中ではどのような意識が見られるのでしょうか。
「b製品・サービス競争力強化」が重要というのは企業・投資家の一致するところですが、「a事業規模・シェアの拡大」と「cコスト削減の推進」では顕著に投資家のウケが悪くなっています。
規模・シェアは売上高に直結する話であり、上述の「売上高より利益や効率性」という投資家観点と合致するところでしょう。他方、コスト削減への期待が少ないことは意外ですが(企業側は最重要項目となっています)、既存事業を前提とするコスト削減よりも「e事業の選択と集中」だったり、コストに限るものではなく「f収益・効率性指標を管理指標として展開」(その中の一環としてコスト削減がなされる等)といったことの方をより重視しているのかも知れません。


…ふう、なかなかの量になってきたのでここでいったん切りたいと思います。
こうして改めて結果を眺めてみるとなかなか面白いですね。次回も本アンケートから気になるトピックを取り上げていきたいと思います。

ではではまた。

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