コーポレート・ファイナンス サーベイデータ③ペイアウト
ひろです。
『日本のコーポレートファイナンス: サーベイデータによる分析』を(若干飛ばし飛ばしながら)眺めていくことを続けたいと思います。
またここからは有料(といってもお小遣いにもならない金額ですが)にしておきますが、どこかのタイミングでは無料にすることを検討しています。
気になる人は書籍をそのまま購入することをお勧めします。
(※追記:無料化済みです)
ペイアウト政策
「ペイアウト」は株主還元の意味であり、主に配当と自己株式取得のことを指します。1999年には配当2.8兆円、自己株式取得5,000億円程度だったところ、2018年度には11.4兆円と6兆円にまでペイアウトが増加しているそうです。
ペイアウト理論
ペイアウトの理論としてMM配当政策無関連命題(ペイアウトは企業価値に影響がなく、配当も自己株式取得にも差異はない)はありますが、現実的ではない仮定(情報の非対称性、取引コストの不存在等)も必要です。そこで一部の条件を緩和して仮説が展開されていくことになります。
<フリーキャッシュフロー仮説>
余剰資金を抱えると経営者は自らの利益のための行動をとる可能性が上がる。そこでペイアウトを実施することでそのようなエージェンシーコストを引き下がるので、企業価値や株価が上昇する。
<ペッキングオーダー仮説>
内部資金→負債→株式、と資金調達コストの低い方から利用することを前提とすると、ペイアウトはできるだけ実施しないことが見込まれる。
<ライフサイクル仮説>
ペイアウトを実施するコストとベネフィットの大小関係は、企業が成熟するに従い変化する。成熟するほどにペイアウトの必要性は増していく。
<情報効果仮説>
ペイアウト(配当・自己株式取得)は経営者が将来の利益増加という情報を伝える効果(第1の情報効果)があり、自社株式取得であれば、現在の株価が割安であるという情報を伝える効果(第2の情報効果)がある。
<税の顧客効果>
市場には個人・法人等様々な形態の投資家が存在しており、配当とキャピタルゲインに適用される税率にもそれらに応じて大小関係がある場合がある。その場合、個々の企業は特定の投資家層の要望に合うペイアウト政策を採用する(たとえば機関投資家が配当を好んでいれば、機関投資家に保有してほしい企業は配当を重視する)。
<リントナー仮説>
企業には目標となる配当性向があるが、利益変動に応じて目標配当性向に基づく配当額に瞬時に調整を行うのではなく、時間的なラグを伴いながら部分調整を行っていく。
他、書籍には「配当と自社株買いの代替性」「買収防衛策としての自社株買い」というトピックもカバーされていますね。
ペイアウトのサーベイ調査
書籍は2006年と2017年の企業向け調査結果、2009年の機関投資家向け調査結果、それぞれをまとめています(加えて米国の先行調査)。
主な示唆は以下の通りです。
・企業も機関投資家も、配当は硬直的で保守的なものとして見ている(リントナー仮説)。
(※投資政策との兼ね合いでも、「減配してまで投資需要を満たす」という意識は観察されない)
・特に配当・自己株式取得の選択について、余剰資金については自己株式取得の検討において、より重要な要素とされている。実際、自己株式取得の方が時期や金額面で柔軟性があるとの認識も増えている。
(※投資政策との兼ね合いでも、減配とは異なり、「自己株式取得を減らしてでも投資需要を満たす」という意識が観察される)
・配当性向は企業からも機関投資家からも最重要視されている(リントナー仮説)。
・企業も機関投資家も、配当と自己株式取得を「代替的」とは認識していない。
・フリーキャッシュフロー仮説については、余剰資金をペイアウトの回そうとする割合は企業においては比較的低く、求める割合は機関投資家において高い。「自社内での有利な投資機会の存在」の重要性も企業では比較的低く、機関投資家では高い。企業は概して言えばフリーキャッシュフロー仮説に従っていないが、機関投資家は求めており、互いの思いに違いが見られる。
(※逆に、投資政策との兼ね合いでは、特に企業が減配してでも投資優先、という意思はあまり見られない一方、機関投資家は過半数が減配も受容する姿勢がある)
・ペイアウトの将来利益の第1の情報効果については企業においては肯定的な認識ではあるが、は配当については2006年→2017年にかけてやや弱まっている。機関投資家は肯定的な態度である。自己株式取得の第2の情報効果についてはむしろ2006年→2017年にかけて、企業における認識はより強まっている。実際に、「株価」は自己株式取得検討の重要な要素と認識されている。
(※自己株式取得ではEPS(Earnings Per Share)も重要な要素と認識されている)
・ペッキングオーダー仮説については、ペイアウトを可能な限り抑制して内部留保を高めようとする傾向はなく、整合的な結果は得られなかった。
・税制の影響については、基本的にそこまで重要視されていないが、特に配当については自己株式取得よりも注目されている。
主なものはこんなところでしょうか。書籍では米国との比較も積極的に行われいますから、是非とも手に取ってみるとよいと思います。
企業のペイアウト政策を考える時に、このようなサーベイ調査結果から入れば全体としての傾向は掴めますし、とても有意義ですね。
さて、次は「M&A」の章なのですが、個人的にもとても関心のある章なので記述量も増えると思っています。今回はここまでとして次に回すことにしますね。
ではではまた。
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