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精霊の舎-1(連続短編小説)

マギは、明るいサンルームで
目をさました。

時という概念のないこの場所では、
いつ眠ったのか、今何時なのかと
いったことは関係ない。

今、マギが目をさましたという
事実があるだけだ。

白いソファから起き上がると、
ずっと開け放したままの窓から、
庭園の花の香りが風に乗って
押し寄せてきた。

マギは、その新鮮でさわやかな空気を
深く吸い込む。

体の中で、幸福感がしみ込んでいく。

愛する大きな庭園と、小さくまとまった
居心地のよい平屋。

しばらくソファに腰かけたままだった
マギは、花の香りを十分に楽しむと、
立ち上がった。

そして、バスルームに向かった。

本来、この世界では、肉体というものが
存在していなかったが、
必要な時には、それを自由に可能にできた。

入浴の時、マギは、一番近い過去の肉体を
存在させる。
その褐色の肌と豊満な肉体は
あまり気に入ったものではなかったが、
一番身近に自分のものとして実感できた。

肉体は、昔のものであればあるほど、
他人行儀で、感覚さえも鈍くなってくる
ような気がする。

よく、架空の肉体を存在させる者もいるが、
マギは遊び以外では、美しい女の姿にも
男の姿にもなろうとは思わなかった。

この世界で重要なのは、精神である。
肉体、ましてや、その形ではない。

全ての者が両性の精神を持ち、自在に
その姿を変えられる中、
性や容姿といったものへの
関心は急速に失われていく。

そして、入浴といったような肉体を
必要とする場合のみ、
自分の一番心地よく感じる肉体を
存在させるのである。

マギは女の姿で、花びらを散らした
バスタブにつかっていた。
この世界でも、マギが好きなのは
入浴と花づくり、
そして窓を開け放した部屋で
清潔なシーツにくるまれて眠ることだった。

ホンナはよく、そんなマギを見て笑った。

一人、楽園で時を過ごすマギが、あまりにも
楽しそうだというのである。

ホンナは、マギの知る精霊の一人だった。

まだ、マギがこの世界に来る前、
ほんの少女だった頃、
何度か、その存在を意識したことがあった。
が、結局は、幼い、夢見がちな少女の幻想に
過ぎなかったと思っていた。
そのマギが、大人になって、
その生での約束を果たして、
こちらの世界に戻ってきたとき、
人間の幼い頃の勘の大切さを
思い知らされて、驚いたものである。

ホンナは、夢の産物などではなく、
本当にずっとマギのそばに
存在していたのである。

               続

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