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精霊の舎-22(連続短編小説)
マギは真っ赤なマルベリーの実から
取ったオイルでバスタブを
泡いっぱいにして楽しんでいた。
大好きなバスタイムは、
彼女にとつていろんな効果がある。
リラックスしたい時や、
リフレッシュしたい時、
また、考え事をしたい時、
マギはいつも入浴する。
今日は、リラックスしようと、
甘い香りのマルベリーを選んだのだが、
その濃厚な香りを胸いっぱいに
吸い込んだ時、彼女の心に、ふと、
ある思い出がよぎった。
まだ、物書きとして大成する前に書いた、
真っ赤なマルベリーオイルが関係する
物語についてだった。
マギは、何気なくバスタブの泡の
下の湯をすくってみる。
手の中は、マルベリーの赤で
染まっていた。
その色が、物語の内容をゆっくりと
マギの心に映し出す。
確か、マルベリーの赤く濃い液体と
愛する青年の体からあふれ出す
温かい血を重ねるといった話だった。
その青年のモデルになった
カイのことは、
ずっと気になっていたのだけれど、
この風変りな物語自体を
思い出したのは久しぶりだった。
カイという青年は、
マギの多くの物語の主人公の
モデルになった人物である。
常々、ホンナに、
カイのことを聞いてみたいと
思っていたのだが、
他のこととは違い、
何やら自分の魂の中核に
触れることのような気がして
延ばし延ばしになっていたのだ。
今でも、まだ触れていいのかどうか
わからない。
この世界に来て、
まだ出会っていない
カイと、彼に関する多くの疑問。
それを解く日は、
運命が決めることのように思えて、
マギは沈黙を守っているのだった。
続