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バー・ターキーにて(シナリオ)

あらすじ
子供の頃、両親によく
連れて行かれた、バー・ターキー。
そこにいる「にしのオッチャンこと、
ターキー西川に、 懐いていた秀典。
30年の時を経て再会したターキーに、
秀典は人生を謳歌している人々の姿を見る。


人物

ターキー西川(35)(65)バー・ターキーのオーナー
山本秀典(3)(33)音楽雑誌の記者
山本公一(35)秀典の父・ターキーの同級生
青木幸広(45)ヒース・ミュージック社の部長
前川のぞみ(26)秀典の会社の後輩女性客1
女性客2
バンドマン1
バンドマン2

○バー・ターキー・外観(夜)
   大阪・心斎橋。
   雑居ビルの中にある、バー・ターキー。
           
○同・ターキー・中(夜)
   カウンター席とテーブル席がある、
   薄暗い店内。
   壁には古いレコードのディスプレイ。
   カウンターには二人の女性客、
   テーブル席には、3人の家族連れがいる。
                 

   バーのドアが開き、ラーメンの
   出前が家族席に届けられる。
            
山本「おい、にし、普通に
   金払っといたらええんやな?」
                 

   山本公一(35)にたずねられ、
  ターキー西川(35)が
  カウンター内で酒を作りながら
  うなずく。
             
女性客1「へーえ、ここ、出前OKなんや?」
             
ターキー「オレ、酒しかよう作らんからな」
               
   その時、家族席から、
   甲高い声がする。
             
秀典の声「にしのオッチャン!」
               
   山本秀典(3)が、パタパタと
   カウンターの下をくぐってくるのを、
   ターキー、大きな背をかがめて、
   楽しそうに見る。
             
ターキー「おう、なんや、ヒデ?」
             
秀典「チョコちょうだい。ここやろ?」
               
   勝手に冷蔵庫を開ける秀典。
   ターキーがチョコをやると、
   また両親のもとに帰って行く。
             
女性客2「すごいな、ほとんど、
    自分ちやな」
             
ターキー「あの子、オレがここに住んでると
    思てるらしいわ。
    冷蔵庫もトイレもあるし」
             
女性客2「何で‘にしのオッチャン‘なん?」
              

 ターキー「オレの本名、西川やねん。
    で、ヒデのオヤジとは
    高校ん時の同級生で、未だに
     ‘にし‘いうて呼ぶから、
    ヒデ的には、‘にしのオッチャン‘なんやろ」             
                
         秀典、またテーブル席から、声を上げる。
             
秀典「にしのオッチャン、これ、なにぃ?」
                
     壁にかかっているギターに触れようと
     椅子の上に立つ秀典。
             
ターキー「山本、あかんて、
    それ、高いんや」
             
山本「これ、にしのオッチャンの宝物やねんて。
  触ったらあかんて」
             
ターキー「ヒデが大人になったら、
    触らしたるわ」
             
秀典「にしのオッチャンのケチー!」
                
               バーの中、笑いに包まれる。 
               

○ヒース・ミュージック社・外観(夕方)

○同・会議室・中(夕方)
     三十年後。
     ホワイトボードに書かれた
    『Beyond the Age』という文字。
     青木幸広(45)が、山本秀典(33)と
     前川のぞみ(26)に説明している。
             
青木「今回の特集は、60歳以上の
  現役アマチュアミュージシャン。
      7時からアメ村でライブがあるので、
  取材を申し込んである。
       客層は意外と若いらしいので、
  まぁ、よく見てきてくれ」
                  
               青木に資料を渡され、
    渋々受け取る秀典。
             
秀典「何か、人生最後の謳歌って感じが、
   悲しいですねー」

○心斎橋・アメリカ村(夜)
                
                若者たちでごった返す街の様子。

○ライブハウス・ミューズ・中(夜)
       ライブのリーフレットを
    手にする秀典。
              バンドの演奏が始まる。
    年輩のバンドマンたちが
             ステージで活々としている。
             
秀典「びっくりやなー、どのバンドも
   オリジナル曲やで」
             
のぞみ「ほんまですね。私もてっきり、
    懐かしの名曲とか
               歌いはるんかと・・・」
                
            いつの間にかノッている秀典とのぞみ。
            周りの客層も年齢的に二人と大差ない。
                
           最後のバンド『キャットフィッシュ』
   が登場する。
   ボーカル、ベース、ギター、ドラムの
   四人組。
          ギターのターキー(65)が、
   MCをつとめる。
             
ターキー「オレら、バンド組んで・・・
    ほぼ50年、半世紀やん!」
                
          場内、どっと笑いがおこる。
             
ターキー「いい年して、何しとんねんと
   思うかもしれんけど、
           まぁ、本職もあってのことで・・・。
   それにしても、人それぞれ、
      自分の理想の年の取り方ってあるやん?」
                
          ターキー、場内を見渡す。
             
ターキー「オレは、60過ぎて、
   こうやって、ギター担いで
        ライブハウスに出入りしている
  自分が理想やってん。
      だから、まぁ、夢は叶ってるわけや」
                 
         場内、再び笑いがおこる。
             
ターキー「夢は人それぞれやし、
   理想の年齢もそれぞれや。
           何か今日、雑誌の取材の人、
   来てくれてはるらしいから、
          ちょっとカッコつけてしまったけど、
    では、いきます!」
                 
        ターキーのギターが鳴りだし、
  演奏が始まる。
       ゆっくりのびやかな曲調と
  バンドマンたちの楽しそうな表情。                          
  秀典ものぞみも、うっとりと音楽に
  合わせて体をゆらす。

○同・ミューズ・楽屋・中(夜)
    バンドメンバーたちに挨拶にまわる、
   秀典とのぞみ。
    ターキー、人懐こい笑顔で言う。

ターキー「ちゃんと記事にできそうか? 
          今からみんなでオレの店行くんやけど、
   よかったら一緒に飲まへんか?」
    
                秀典とのぞみ、うれしそうに
     うなずく。

○バー・ターキー・店内(夜)
     他のバンドマンとちと一緒に
     店内に入る秀典とのぞみ。
     ターキー、カウンターに入り、
     みんなに酒をふるまう。

ターキー「みんな堅気の仕事やってんねんけど、
   オレだけ昔からバーテンで、
   ここ、今でもたまり場になってんねん」
    
               秀典、なんとなく不思議そうに
     辺りを見渡す。

ターキー「しかし、よくまぁ、
   こんな世代のバンドの特集するな。
   自分らの親くらいやろ?」
   
             のぞみ、ターキーと語り出すが、
    秀典は一人、キョロキョロしている。

のぞみ「どうしたんですか、山本さん」
   
            秀典、もじもじと、

秀典「・・・なんか妙に懐かしい気が
  するんやけど。
  ターキーさん、ここ、
  何年前からやってます?」

ターキー「自分ら、生まれる前からやろうな」
  
           秀典、カウンター席から立ち上がり、
     テーブル席の方に向かう。
      壁には、古いレコードのディスプレイ。
       その横には、年季の入ったギター。

秀典「・・・ここって・・・」
  
            秀典、カウンターで他の人と話し込んでいる
       ターキーの元にかけつける。

秀典「あ、あの、にしのオッチャン!?」
  
          ターキー、一瞬、きょとんとするが、
     ハッとして、

ターキー「・・・お前・・・」

秀典「秀典です、
  山本公一の息子の・・・」
  
           ターキー、驚いて秀典を見る。

ターキー「マジで!? ヒデかいな? 
  えらい大きなって」

秀典「小学生ん時、オヤジが
  岡山転勤になって・・・
  大学入って、僕だけ大阪に
  戻ってきたんです」

ターキー「山本も奥さんも元気か?」

秀典「ええ、オヤジは定年退職して、
  二人で畑とか作ってます」
  
         ターキー、懐かしそうに
    目を細める。

ターキー「お前、ようここに連れて
   来られててんで。
   こんな小さくて、
   カウンターの下から出入りして、
   勝手に冷蔵庫あけて」
  
       ターキー、50センチくらの
  背丈を示して笑う。

秀典「たぶん、2、3歳でしたからね。
  もう30年も前ですよ。
  で、にしのオッチャンのギター
  触ろうとして、怒られて・・・」
   
           周りの人々は、秀典とターキーの
   会話を聴いて
   楽しそうに笑っている。

バンドマン1「自分らも、年取るの、 
   あっちゅー間やで」

バンドマン2「まぁ、それも悪くは
   ないけどな」

○バー・ターキー・中(朝方)
    一人になったターキー、
    タバコを吸いながら、
    後片づけをしている。
    ふと目を上げると、
    秀典(3)が椅子の上に立ち、
    壁のギターに手を伸ばしている。

秀典(3)「にしのオッチャン、これ、なにぃ?」
   
            ターキー、ふと笑い、言う。

ターキー「もう持っていってもええで、ヒデ」



○ヒース・ミュージック社・事務所・中
    秀典のもとに、
    青木が最新号の雑誌を持ってくる。

青木「なかなかの出来やで」
   
            手渡された雑誌の特集を開く秀典。

   『理想の自分は、それぞれの中にある』
   という見出しと、
   ライブの写真。
   活々とステージで輝く、
   往年のバンドマンたち。
  
        そして最後のページの片隅に、
   バー・ターキーでの
   全員写真と、秀典のコメント。

   『ライブ、打ち上げ、と、
   人生を謳歌している皆様に感服! 
   こういう風に年を重ねられる
    人は幸せです。
    夢をありがとうございました。
    バー・ターキーにて』  
 
                  了   


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