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精霊の舎-8(連続短編小説)
「まぁ、ホンナ、ずぶ濡れじゃない!」
リビングルームにいたマギは、
突然庭から入ってきた
ホンナを見て驚いた。
隣人のメリンとお茶を
飲んでいたところらしく、
メリンも驚いた表情で、
ホンナを見る。
メリンはマギの直近の人生での、
仲の良い末妹であり、
いろんな人生において、
常にマギの心やさしい隣人
である魂だった。
「マギは、精霊さんと一緒に
住んでるの?」
メリンの質問に、マギは、
まさか、と首を振る。
「私は相変わらず一人暮らしよ。
ホンナはいつも知らないうちに
ここに来るのよ」
マギはそう言いながら、
ホンナをバスルームへ追いやる。
「今日はユリに香りの
バスタイムをどうぞ」
それを聞いて、
ホンナが自分が持っている
白ユリを見つめて笑う。
「偶然だね」
そして、ホンナの手から、
あっという間に消えた白ユリは、
メリンの座っているテーブルの
花瓶に飾られた。
マギがテーブルに戻ると、
メリンはくすくす笑った。
「ホンナが前の人生に
登場していたら、姉さん、
間違いなく結婚してたのにね」
「わからないわよ。
ホンナが男の人に
生まれ変わっているかどうか。
それに、この世界での関係が、
そのまま人生に
反映されるものでもないし」
メリンは紅茶を飲みながら、
苦い顔をする。
「確かにそうね。私の夫は、
ここに来てみれば
まったく関わりのない人だったし。
マギ以外の姉妹も、
ちっとも関係ないし。
人生って不思議なものね。
で、謎解きは進んでいるの?」
マギは白ユリの香りを
楽しみながら紅茶を飲む。
「私の仕事は、物書きよ。
謎解きは、偶然起こることに
過ぎないの」
メリンは、人に救いを
与えることが好きな魂で、
職業というのは特に持たず、
常に、その場その場で
人の役に立つ役割を
果たしていた。
‘生産者‘と‘導く者‘の間に立つ、
ボランティアと
いったところだろうか。
人の命や魂を救うことが、
メリンの存在そのものだった。
そういう立場の魂には、
もちろん同じ魂のグループがあって、
同じ志の精霊によって
率いられていた。
それは、マギが創造者の
グループに属し、
ホンナという精霊に導かれているのと
同様だった。
ただ、マギもそうなのだが、
創造者は、集団でいるより、
一人でいる方を好む。
何かの機会があれば、
同じ魂の仲間と
語り合うこともあるが、
たいていは一人で過ごしていた。
もちろん、魂同士で、
共同生活をしている
パターンもあったが、
マギは同じ創造者の中で
伴侶を見出すことはせず、
かわりに少し立場の違う
ホンナと親しく付き合っていた。
メリンは同じグループに
伴侶がいるが、
それは、彼女が一度も人間として
出会ったことのない魂だった。
続