見出し画像

精霊の舎-5(連続短編小説)

「私が少女の頃、
夢中になったシンガーが、病死したの。
確か、40半ばくらいで」

「それは、一番最近の人生でのこと?」

「うん。それで、
それから10年ほどして、
私、突然、その人のこと思い出して、
ずっと彼の曲を聴いていた。
そして、彼に語りかけた。
もう、夢と現実が
わからなくなるくらい」

マギの得意なやつだね、と、
ホンナはつぶやく。

「でもね、本当に、
私が彼の後を追って
死んでも不思議ないくらい
自分の人生に疲れ、
彼を求めていたにもかかわらず、
ただの一度も彼は、
夢に現れなかった。
この夢見の私が、よ。
そんなに想っている
人を夢に呼び出せないなんて・・・。
それである日、
強烈なメッセージを感じたの」

「メッセージ?」

「彼は、もう、その頃には、
生まれ変わっていて、
5~6歳の少女になっていたのよ。
黒い瞳の、南国をかける少女。
彼には、まだやり残したことが
いっぱいあって、
死んですぐにまた生まれ変わったの」

「・・・なるほど」

ホンナの返事に、マギはふくれる。

「なるほど、じゃないわよ。
私の想像が全然見当違いだって、
本当はわかっているくせに!」

「マギの想像では、今、彼、いや、
彼女は どうしているの?」

「今って・・・。
あれからもう随分経っているし、
また死んじゃったかしら?」

ホンナは首をかしげて笑う。

「君の想像が翼を広げて、
空に羽ばたかんことを」

マギは、ホンナの軽いあしらいに
すっかり気を悪くして、
書斎に閉じこもってしまった。

ホンナは、やれやれ、
とマギの家から姿を消す。

マギの空想を助けてやりたいのだが、
真実を知ることが、
彼女の妨げになるのは
わかっていた。

彼女の仕事は、それこそ、
過去の答え合わせなどという、
ちょっと気の利いた精霊なら
すぐにやってのけられるものではなく、
もっと奥深い宇宙の法則を
ひも解くことなのだ。
マギ自身、楽しんで
できなくてはいけない。

楽しくない仕事をする必要など、
この世界には
まったくないのだから。

ホンナは、マギを楽しませる程度に、
時々、彼女の質問にも答えてやる。

何もかも知っていて
教えないのもつらいが、
ホンナは、果たしてマギに
知らせてはいけない必要が
本当にあるのだろうか、とも思う。

過去の事実を知ることで、
制限されてしまう程度の
想像力しか持ち合わせていない者が、
この仕事を担うことは、ありえない。

偶然の必然性。

全ては、必然的に仕組まれているのなら、
マギの仕事にも、
何を以ってしても妨げることの
できない必然性があるはずだった。

                続


いいなと思ったら応援しよう!