見出し画像

精霊の舎-54(連続短編小説)

アークの子供を生むのは、
マギではなく、
架空の女性、ナミである。

アークの子供を生むためにこそ、
ナミは物語の中に存在したとさえ言える。

しかし、マギが、
そのナミ本人であるかのような
アークの口ぶりに、マギは目を細めた。

しかし、アークの方は、
お構いなしに続ける。

「・・・すごく感動したよ。
だから、俺はあんたの物語を守るために
殺されなきゃいけない。
でもね、それはそれでいいんだけど、
人生って・・・いや、運命って、
案外わからないものだよ。
たとえあんたの世界でも、
物事はあんたが書いたようには
進まないかもしれない。
今の状況がいい例だ。
あんたの物語に、
ホンナやマギは
登場しなかっただろう?」

マギはため息をついて、
そして、微笑んだ。

アークは続ける。

「・・・なぜ、この世界にいるか
っていうのは、たぶん俺の役割だから
なんだろうと思う。
俺の好きだったホンナが
愛するマギの世界に生きる・・・
そうするくらいでしか、
ホンナの心の中に残れないだろう?
精霊になってみたところで、
失敗だったし。
つまり、常にマギの魂に
関わる人物でなければ、いけないってわけだ。
だったら、ガイヤでもなく、
過去生に存在したカイでもなく、永
遠に変わることのない
マギの世界のアークだってわけ。
・・・なーんていろいろ理屈こねてるけど、
本当は、すごく居心地いいんだ、ここ。
あんたの物語読んで、
いっぺんに惚れこんじまった。
あんなつまんない
カイみたいなヤツから、
よくこんな素晴らしい
アークの人生を創造してくれた
もんだと思うよ。
あんたは俺の生みの親だ。
サンキュー、ナミのマギ。
サヨナラ、ホンナ」

             続 


いいなと思ったら応援しよう!